名月神社に戻ると、境内の片隅へ急いだ。ここは以前ドクダミが生えていた場所だ。今は草一つ生えていないまっさらな土。

「何もないではないか」

うさぎが嘆くが、私は喜与の言葉を思い出していた。

『ドクダミは薬にもなるので覚えておいたほうがいいですよ。越冬草なので、花が咲き終わっても土の中で根と茎が眠っているんです』

辺り一面に水をかける。手をぐっと上に引っ張るように力を込めた。土が盛り上がり、やがて芽吹き白い花が咲き始める。白いのは花ではなく葉であっただろうか。

「おお、さすが神様!」

「急ぎこれで薬を煎じてくれ」

「承知した」

うさぎは器用にドクダミを摘み取り、すり鉢でゴリゴリと粉にした。それを少名彦の酒樽へ混ぜ込む。出来上がった薬を斉賀家へ持ち込んだ。

布団に寝かされている喜与は、荒く息を吐いている。医者の見立て通り、熱が出ているのだろう。火傷をした皮膚は赤くただれ、(むご)たらしい状態だ。

「……これは酷い。生きているのが奇跡のようだ」

威勢のよかったうさぎさえ、声を潜める。熱を取るための濡らした手拭いが、ずるりと額から落ちた。

「喜与、今薬を塗ってやるからな」

「……ううっ……ああっ……」

喜与から苦しそうな声が漏れた。意識はまだなさそうだ。

「痛いのではないか? 火傷は皮膚の状態で痛みが変わるのだ」

一度は喜与の痛みを取ってやった。だがその後皮膚の状態が悪化し、また痛みが出始めたということだろうか。

「そうか、それなら――」

喜与の頬に手を当てる。力を込めるとギリギリと肌が破けそうな痛みが伝わってきた。思わず手を離しそうになるほどの衝撃に、くっと顔が歪む。

喜与はこんなにも酷い痛みを受け続けていたのか。
すまぬ……すまぬ、喜与……。