出雲を出発する際、大国主が私を呼び止める。

「月読殿」

「なんだ」

「今回の件は神議りで話題に上がるだろう。だが本当に神は人に干渉してはならないのだろうか?」

「そう決められているではないか」

「だが月読殿はその決まりを破っている」

「ああ、だから罰ならいくらでも受けると言っておろう」

「誰が決めたのであろうな、そんな決まりを。人を愛することが罰になるのなら、そんな決まり事など捨ててしまえばいい」

「……」

「と、私は思っている。他の神は知らぬが。そもそも、人を愛することの何が悪い? 強いて言うならば、人を愛することは覚悟のいることだ。わかっておられるのか?」

「……ああ、わかっている。そもそも神と人とは生きる世界が違うのだ。時の流れもまったく違う。わかっていて、それでも私は助けたいと思うのだ」

「そうか。ならばその者が助かるよう、私も願いを込めておこう」

「……かたじけない」

酒樽とうさぎを抱え、急ぎ名月神社へと戻る。道すがら、うさぎが呟いた。

「我が主は奥方が六人いるのだ。すごいだろう」

「……それは褒められたことか?」

「奥方は一人しか駄目だと誰が決めたのか! 主は寛大な心の持ち主ゆえ、皆を幸せにするのだ。もちろんこのボクも大切にしてもらっている。だから神が人を愛することの何が悪いかわからん。だから自信を持っていいぞ」

「寛大な心を持っているのは奥方達だろう。だがうさぎよ、私を励ましてくれていることだけは伝わった」

「ふふん、ボクは大国主様の出来た神使だからな」

「自分で言うでない。価値が半減するぞ」

神使のくせに生意気なうさぎだが、なぜだかその言葉に喜びを感じた。荒んでいた心が少しだけ上向きになる。

「私は必ず喜与を救う。手伝ってもらうぞ」

「薬作りは得意なのだ。任せておけ。だが、今の季節ドクダミは生えておらん。どうしたものか」

名月神社に近づくにつれ、昼夜の均衡が戻っていく。やはり私は夜を統べる神なのだと思い知らされた。しかし昼夜が戻ろうが戻らまいが、そんなことどうでもいい。喜与が助かればそれでいい。