医者は、この後熱が出て化膿するだろう、それ以前に体力が持つかどうか……と静かに伝えた。それは、喜与が「死ぬかもしれない」ということだ。

激しく胸が痛む。喜与が死ぬことを考えると絶望的な気持ちになった。神と人は時間の流れが違う。そんなことはわかっている。

そうではなくて――!

ふにゃふにゃと赤子が泣いた。斉賀の嫁が、慣れた手つきで抱き上げる。

「お乳をあげようね。あなたの母様は頑張っているの。だからあなたも頑張って生きるのよ」

斉賀家は皆親切だ。見ず知らずの喜与を何も言わず受け入れ、面倒をみてくれている。皆が喜与を助けようとしてくれている。それに比べて私は本当に情けない。

喜与に触れ、痛みを軽減してやる。私が喜与の痛みを肩代わりするのだ。肌が焼けるようにチリチリと痛い。だが、そんなもの喜与がされた仕打ちに比べたらなんでもない。

『私は(バチ)が当たるでしょうか?』

『もし罰があるのなら、私がすべて受けようぞ。喜与はもう十分に伴藤からひどい仕打ちを受けたであろう。これ以上、受ける必要はない』

以前、そう言ったではないか。なぜ喜与ばかり、酷い仕打ちを受けなければならないんだ。

心に(もや)がかかる。どす黒い気持ちが闇を深くする。私の心が、夜空に影響を及ぼしていく。

「喜与、愛している」

その言葉は嘘偽りないのに、喜与に届かない。

「待っていろ。私が必ずお主を助ける。必ずだ」

意識のない喜与の手をそっと握ってから、私は斉賀家を出た。

――私は決心をしたのだ。

夜を統べる神だとか、均衡が崩れるだとか、知ったことか。崩れたのならまた直せばいいだけのこと。数日夜が無くなろうがどうだっていい。喜与が死んでしまうかもしれない、この事実の方がよっぽど重要だ。

強い決意の下、私は名月神社を出た。
喜与を治す方法を知るために、出雲へ。