まさかその後、また喜与がたびたび会いに来るとは思わなかった。以前のように伴藤家で虐げられることもなく、わりと穏やかに暮らせているらしい。それもこれも身ごもったおかげだと、喜与は笑った。

「知らぬ間に、白い花が咲いた」

もし喜与が来たならば、聞いてみようと思っていた。

境内の陰っている水はけの悪い場所に、青々と茂る大きな葉。その中に、小さな白い花が咲いている。植えた覚えはないし、誰かが植えていったわけでもない。自然と育ったものだ。

「ああ、あれはドクダミですね。ちなみに白い部分は花ではなく葉で、花は真ん中の黄色い部分ですよ」

「ほう。喜与は物知りだな」

「ふふっ、これくらいしか誇れる知識はありません」

「十分立派であろう」

「ドクダミは薬にもなるので覚えておいたほうがいいですよ。越冬草なので、花が咲き終わっても土の中で根と茎が眠っているんです。だから来年もまた咲くと思います」

「そうか。それなら、来年もまた喜与と見られたらいいな」

そんな夢物語を……と、頭の片隅で思いながらも、そうなったらいいなという気持ちの方が勝る。

「はい! 来年も、また一緒に見ましょう」

喜与は屈託なく笑った。
喜与は変わらず伴藤家の嫁なのに、その事を忘れたかのように、二人の幸せな未来を夢見てしまう。

「体調に変わりはないか?」

「はい、大丈夫です。初期のような悪阻も貧血も、嘘のようになくなりました。月読様が何かしてくださったのですか? お腹を触ってもらってから調子がいいような……」

「喜与を苦しませないでくれと願っただけだ」

「神様っぽい……」

「神だからな」

「ふふっ、そうでした」

短い時間の中で笑い合う。
なんと尊い時間なのだろうか。