何ヶ月経っただろうか。梅雨に入り、雨の日が続いた。雲間から、星が覗く。

「月読様」

喜与の声が聞こえた気がした。
いや、そんなはずはない。とうとう幻聴まで聞こえ始めたのかと自分を疑った。

だが、それは幻ではなく紛れもなく喜与で、ふらふらとした足取りで私を探しているようだった。喜与の前に姿を現すべきか一瞬躊躇ったのだが、ふいに喜与の体が前のめりになる。倒れてしまいそうなところを咄嗟に手を伸ばした。

……放っておけるわけがない。

「月読……様……?」

「喜与……」

視線が交わると、喜与はぽろりと涙を落とした。そしてそのまま、私の胸の中で意識を失った。

「喜与……なぜ……」

理由など後でいい。
喜与に会えた。
喜与に触れられた。

喜与を抱え、ぎゅうっと抱きしめる。
なんと愛おしいのだろう。

「月読様……」

「大丈夫か?」

「月読様――!」

気がついた喜与は私の胸にすがりついた。

「……喜与、私に何か用があったか?」

「はい。月読様との子を身ごもりました」

「……そうか。それでお主の願いは成就したのであろう。伴藤家の嫁に戻ったのではなかったか?」

「はい。約束通り、伴藤家の嫁としての務めを果たしております」

「よかったな」

その言葉にまったく感情がこもらなかった。それが喜与にも伝わってしまったのか、少しむっとした表情になる。別に怒らせたいわけじゃないが、仕方がないではないか。

「……月読様は嬉しくないですか? 私と月読様の子が、ここにいるのですよ」

「そうは言っても、お主はそれを伴藤家の子として育てるのだから、そこに私の感情はいらぬだろう。腹の子は伴藤の子だよ」

「そうです。わかっています。それでも、私はあなたの言葉がほしい」

「喜与はわがままな娘だ」

「月読様にしかわがままは言いません」

「一生のお願いは聞いたはずだが」

「……知りません」

「言っていることが無茶苦茶だ」

「そうですよ。私は伴藤家の嫁に戻ることを条件に、一生のお願いを聞いてもらいました。子を身ごもったときは嬉しくて嬉しくて……。悪阻も貧血もひどくて、それでも月読様との子が無事に生まれてくることを願って、耐えてきました。月読様の愛の証がここにあるから、頑張れるって思って。だけど私は……月読様に会いたくて……会いたくて……。そう思ってしまったら、どうしようもなくて。ずっと我慢していた感情が止められない……。もっとぎゅっと抱きしめてください」