「私が幽霊だというのなら、お主はどうするのだ?」

「え? そうですね、残念ながら除霊はできないので、話し相手くらいにしかなれませんが」

「では、話し相手になってもらおう」

人と話すことがもの珍しくて、私は娘を抱えて鳥居の上まで跳ぶ。

「バチ当たりです!」

そう叫びつつも、なぜだかしがみついてくる。高いところは怖かったのだろうか。だがそれよりも、私は見せたかった。毎日一人で見上げる夜空を、この娘に。

「今夜は月も星も綺麗に見える」

「うわぁ、すごい」

「そうであろう」

目をキラキラさせながら、娘はしばらく夜空を見上げていた。それなのに、その表情が少しずつ曇っていく。

「こんな夜更けに何をしに来た? 先ほどは熱心に祈っておったようだが? 女子(おなご)の独り歩きは危ないぞ」

「男子を身ごもれるように神頼みに来ました」

「子ができぬのか?」

「はい……。神様にお願いしたら、きっと願いを聞いてくださると思って」

「神は万能ではないから、残念ながらお主の願いは聞いてやれぬ」

「あなたに何がわかるんですか」

どうやらかなり思い詰めていた様だ。それもそうか、こんな真夜中に神頼みに来るくらいだからな。だがそんな期待してくれるな。神は何でも叶えられるわけがないのだ。

「私は幽霊ではない。神だ」

事実は事実。目に見えるできることと言えば、星を流すことくらいか。空に手をかざし円を描く。キラリと星が流れた。

「……神様のお名前は?」

「私は月読(ツクヨミ)という」

娘は私をじっと見る。
信じられないといった表情に、思わず笑みがこぼれた。これが喜与との出会いであった。