子を身ごもってからというもの、お義母様も旦那様も私に優しくなった。子を産むことを求められていたから、当然なのかもしれない。よくやった、よくやったと喜び、生まれてくることを楽しみにしている様だ。これで私も伴藤家に必要とされる。

悪阻と貧血がひどく、布団から起き上がれないこともあったけれど、家事を強要されることはなかった。

ただ、口を開けば「男子を産め」とそればかり言われて、その重圧に押しつぶされそうになることもしばしばあった。

三ヶ月ほど経つと、悪阻が少し治まった。寒かった冬を越し、そろそろ春の兆しが見え始める頃。布団から出られることも多くなり、家事も再開した。

「喜与さん、順調かしら?」

「はい、ようやく悪阻も減ってきて、動けるようになりました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「いいのよ。あなたはうちの後継ぎを産まなくてはいけないのだから。体を大切にしてちょうだい」

お義母様のこの変わりように、また一段と重圧がのしかかる。男子を産めば、私は今以上に伴藤家で大切にされるだろう。身ごもってから、旦那様に暴力を振るわれなくなった。旦那様も、子が生まれるのをまだかまだかと待ちわびている。

庭に植えられている梅の木にちらほらと花が咲いているのを見て、ふと名月神社が思い出された。月読様と一緒に植えた草花たちは、無事に冬を越せただろうか。気になるけれど、見に行くのも憚られる。

なぜなら私は月読様と約束をしたからだ。

『これ以上のわがままは申しません。一度だけでいいので私を抱いてください。その後はちゃんと伴藤家の嫁に戻ります。私は月読様に愛されているという証がほしいのです』

伴藤家の嫁に戻ることを条件に、月読様から愛の証をいただいた。それはもう、月読様とは会わないという意味が含まれている。

お腹の中には月読様との子。それだけで私はじゅうぶんだ。大切に育てなくてはいけない。