突然の吐き気と目眩に襲われて、土間で倒れた。
気付いたときには布団に寝かされており、知らない人が視界にいた。それがお医者様だとわかったのは、お義母様がその人を「先生」と呼んでいたからだ。

「ああ、喜与さん。目が覚めたのね」

「……はい。すみません、私……」

「いいの。寝ていてちょうだい」

「え……?」

「あなた、身籠ったそうよ」

「えっ!」

まさか……。
本当に……?

お義母様が見たこともないような顔で微笑んでいるので、どうやら本当らしい。確かにここ最近体調は優れなかった。少し熱っぽくもあったし、食欲も落ちていた。ただ、寝込むほどではなかったから、だましだまし家事をしていたのだけど。

「栄養つけて、元気な男の子を産むのよ」

「はい、ありがとうございます」

上機嫌なお義母様はお医者様と共に部屋を出ていく。その後を追うように旦那様も立ち上がったけれど、一度くるりとこちらを振り返る。

「喜与、よくやった。男子を産めよ」

「……はい」

しんとする部屋。私は両手を下腹にあてる。まだぺちゃんこの腹。ここに、子がいるのだ。

きっと月読様の子。
確証はない。

だけど、そうとしか思えなかった。
私が望んだ愛の証が、ついに芽生えた。
嬉しくて嬉しくて、涙が溢れる。

「月読様……」

あの日以来、ずっと会っていない。もう会わないと決めたのだ。恋しい日もあったけれど、私の体調がすぐれず、それが足枷となってくれて家にとどまっていた。この先も、また行くことはないだろう。でも、それでいいのかもしれない。だって私は、一生のお願いを叶えてもらったのだから。

「どうか、無事に生まれてきますように」

名月神社に想いを馳せながら、ひたすら祈った。