虐げられた花嫁は神様と泡沫の愛を誓う

「月読様が神様だと言うのなら、喜与の一生のお願いを聞いてください」

しがみつくようにお願いするが、月読様は私の手を優しく剥がす。そしてまた、困ったように眉を下げた。

「早まるな。後悔することになる」

「なぜですか?」

「……神と人は時の流れが違う。人は百年と生きられない。だが神にとっての百年は、大したことではない。容姿もそう変わらぬであろうよ」

「それは……私がおばあさんになったら月読様が後悔するという意味ですか?」

「捻くれた考え方をするな。お主だけ年を取っていくように感じてしまうだろうということだ。それに、私のことが見える人間は喜与だけだ」

月読様の言わんとすることはわかる。時の流れが違うことも理解した。だけど私は、いくら住む世界が違っていようとも、この荒んだ世界に色をくれた月読様を愛したい。愛してもらいたい。

彼は、愛することの尊さを教えてくれたのだから――

「これ以上のわがままは申しません。一度だけでいいので私を抱いてください。その後はちゃんと伴藤家の嫁に戻ります。私は月読様に愛されているという証がほしいのです」

実家では疎まれ、嫁ぎ先では虐げられている私を愛してくれる人など、この世にいないと思っていた。私と笑い合って、一緒に草花を愛でてくれる、そんな夢のような世界を見せてくれたのは月読様。

泡沫の思い出でもいい。
私に生きる希望を持たせてほしい。

私はするりと帯をほどいた。旦那様に脱げと命令されて脱ぐのではない。初めて自分の意志で着物を脱いだ。

ストン、と肩から着物が落ちる――