向かったのは名月神社。

石段を登り、大きな鳥居をくぐる。境内を抜けて神社の奥深く、太くて立派な木に藁人形を押しつける。そういえば打つものを何も持ってこなかった。その辺の石を……と思ったけれど、それよりも先に五寸釘をそのまま突き刺した――

はずだった。五寸釘は藁人形に刺さっていない。振り上げた右腕は誰かに掴まれている。

「喜与……」

「――!」

「人を呪わば穴二つと言うだろう。馬鹿な真似はやめぬか」

「月読様……。あなたが本当に神様なら、呪ってください。天罰を与えてください。私が今まで受けてきた仕打ちを、あの人たちに――!」

月読様の胸ぐらを掴んで叫んだ。せきを切ったように溢れ出す恨みつらみ。我慢してきた積年の想いが溢れ出した。

そう、伴藤家にも実家にも、天罰が下ればいい。私と同じ苦しみを味わえばいい。深い苦しみに飲み込まれたらいい。

月読様は怒りに狂った私の訴えを、黙って聞いていた。藁人形の代わりに、月読様の胸をゴンゴンと拳で殴るけれど、びくともしない。ただ悲しそうな目をして私を見つめるだけ。

ほら、神様なんていない。月読様が神様だなんて嘘。この神社に居つく地縛霊なんだ。結局、私を助けてくれる人なんて、この世界にいないのだ。

世界から色が消え、音を立てて崩れていく。
ガラガラ、ガラガラと。
心が、無になる――

「喜与」

月読様の声が耳に届くのと、ほのかな甘い香りが鼻をかすめたのは同時だった。視界がなくなる。
何が起きたのか、理解できなかった。