「えっ、すごい! すごいです月読様! これって神様のお力ですか?」

「さあ、どうであろう? 少し、願いを込めたが」

月明かりに照らされたキキョウは鮮やかな紫色で世界を彩る。そよそよと夜風に煽られ、儚く揺れた。

「綺麗だな」

「はい、とても。また、お花を持ってきてもいいですか?」

「かまわぬ。私も綺麗な花が見られるのは嬉しいからな。だが育て方は知らぬゆえ、お主が面倒をみてくれ」

「はい、ありがとうございます」

躊躇なく受け入れてくれるので、私の方が嬉しくなる。これで伴藤家でこそこそ花を育てなくてもよくなった。伴藤家では否定されるものが、ここでは受け入れられる。そして、私を必要としてくれる。なんてありがたいことなのだろう。

「月読様、本当にありがとうございます。私、胸がいっぱいで――」

感謝の気持ちを伝えたいけれど、ありがとう以外の言葉が思いつかない。
月読様は目を細めてにっこりと微笑んだ。

「そういえばお主の名を聞いていなかったな」

「はい、私は喜与(きよ)と申します」

「喜びを与えるで、喜与か。まさにその名の通り、私に喜びを与えてくれたな。礼を申す」

瞬間、目の前のモヤが晴れるように風が吹き抜け、世界に色が付いた。満天の星空の下、鮮やかなキキョウが柔らかく揺れる。それはまるで月読様の心のように優しくしなやかで、そして儚かった――