「……ねえ、菊宮さんも日辻さんも自殺なんて、隣のクラス呪われてない……? 二人タイプ真逆だし、共通点も同じクラスってだけだろうし」
「……俺さ、先月の中頃に日辻さんが放課後具合悪そうなの見たんだ……もしかしたら、その帰りに……。部活あったし、断られてすぐ別れたけど……家に帰るまでついていけばよかった……」

 長期休み前の全校集会を終え教室に戻る道すがら、集会で行った黙祷を思い出し、少年は沈痛な面持ちを浮かべる。

「優しいのは神城くんのいいところだけど、他の女の子送ろうとするのは彼女としては複雑……」
「えっ、あ、ごめん」
「ふふ、冗談。遺書もあったっていうし、わざわざ自殺の名所の崖から海に飛び下りなんて、もう覚悟決めてたんだろうし……神城くんが気に病む必要ないって。……あ、ほら、あれなら放課後カウンセリングルームに行ってみたらいいんじゃない? そういう相談も聞いてくれると思うよ、私は行ったことないけど」
「カウンセリングルーム? ああ、光見先生の……でも先生、もうすぐ異動なんだろ?」

 少女が話題に出した名前に、少年はつい先程の集会で改めて挨拶をしていた教師の姿を思い返した。同性から見ても整った容姿をした、優しく人望もある学校中の人気者。
 黙祷の余韻さえも、彼との別れを惜しむ声に掻き消されていた。

「ねー、みんな残念がってた。元々半年だけの契約とか言ってたけど……最初はそんなの言ってなかったし、急な感じするよね。……まあ、カウンセリングしてた生徒が自殺なんて心労も凄いだろうし、いろいろあるのかもね。ただでさえ教師とカウンセラー二足のわらじだし」
「だな……先生に比べたら、俺の自己嫌悪なんて些細なもんか……。ありがとな、なんかちょっと元気出た。……心を癒すカウンセリングに必要なのは、何より愛情ってことか」
「あはは、何それ。……まあ、愛のためなら何でも出来るのが、人間ってやつだよね!」

 廊下を歩く二人の話し声が耳に届いたのか、その教師は人知れず、一人恍惚とした笑みを浮かべた。