翌日、ニュースは記憶取引所のスキャンダルで持ち切りだった。大手メディアからネット掲示板まで、取引所が政府と結託して行っていた人体実験や記憶操作の証拠が流出し、国中が騒然としていた。

「記憶売買の裏に潜む真実!人体実験に巻き込まれた被験体たちとは?」
「取引所が隠していた闇――国家による記憶改ざん計画の全貌!」

各メディアは一斉に報道を開始し、暴露された記録映像が世界中に広まっていった。その中には、凛の記憶も含まれていた。記憶取引所で撮影された実験の映像や、家族が巻き込まれた事故が実は計画的なものだったという衝撃的な事実もすべて明らかになった。



ニュースの影響で、記憶取引所の施設は次々と閉鎖され、責任者や関係者が逮捕されていった。政府もこの問題に関与していたことを否定できず、国中で抗議運動が広がった。

だが、真実が明らかになったところで、凛の胸には解放感よりも深い虚しさが残っていた。自分が暴露した真実が、人々に衝撃を与えている一方で、失ったものがあまりにも多かったからだ。



ある日、凛は自宅の薄暗い部屋で一人、ぼんやりとニュースを見ていた。だが、心はどこか遠くにあった。

「これで終わりなのか…?」

家族を失い、自分の記憶さえも完全には取り戻せない。取引所を暴いたところで、過去を取り戻すことはできなかった。

その時、彼女のポケットの中に最後の記憶カードがあることに気づいた。それは、全てのデータを公開する直前に、こっそり抜き取っていたカードだった。中には、凛が売却した本来の記憶と、家族との幸せな時間が保存されている。



凛は迷った末、記憶再生装置にそのカードを挿入した。画面に映し出されたのは、家族と過ごした穏やかな時間だった。

母が笑い、兄がふざけている。凛自身もその中で無邪気に笑っている。暖かな食卓、柔らかな陽射し、風に揺れるカーテン――すべてが鮮明に蘇った。

だが、その記憶は次第に暗転し、廃墟の施設で行われた実験の記憶へとつながる。家族がその施設に連れて行かれた時の叫び声、自分が拘束され、無理やり記憶を抜き取られる瞬間――どれも目を背けたくなるほどの光景だった。

「私は…ずっとこれを忘れようとしてたんだ…」

凛はその場に崩れ落ち、涙を流した。全てを思い出したことで、彼女はようやく自分の過去と向き合うことができたのだ。


その後、凛は行動を起こすことを決意した。被験体として犠牲になった人々や、自分と同じように記憶を操作された被害者たちのために、記憶取引所に代わる新たな仕組みを提案するための活動を始める。

彼女は記憶売買そのものを完全に否定するのではなく、記憶の保護と倫理的な取り扱いを訴える声を上げ始めた。

「記憶はただのデータじゃない。それは、私たち自身なんだ。」