新居に落ち着いて数日が経った。アカリは静かな町の雰囲気に少しずつ慣れようとしていたが、どこか息苦しいものを感じていた。夜になると、窓の外から微かに聞こえる風の音が耳に残る。ときおり、耳鳴りのような感覚が彼女を襲った。

ある夜、遅くまで散歩をしていると、町外れの森へと続く細い道が目に入った。その道は奇妙に灰色がかっていて、周囲の木々とは明らかに違う異質な空気を漂わせていた。

「……こんな道、地図には載ってなかったけど。」

アカリは足を止めたが、どうしても気になってしまい、一歩、また一歩とその道に足を踏み入れていった。雨がぽつりぽつりと降り始め、湿った土の匂いが鼻をつく。

その時、背後から声がした。

「アカリ……」

耳元で囁くようなその声に、全身が凍りついた。それは間違いなく、自分自身の声だった。

「振り向いちゃダメだ。」

声が続けて囁いた瞬間、アカリは何かに引き寄せられるようにして道の奥へと駆け出してしまった。