「じゃあ、早速エスキン同士でエスキンの筋トレを始めようか? まずはランニングマシンで身体を温めるよ!」

 言われるがまま、細いイケメン中谷についていき、ふたり並んで、走る機械でゆっくり走った。それが終わるとマットの上で中谷と並んで座り、ストレッチをする。

「サイズによって、筋トレ方法は違うのか?」
「あとでコピーして渡す予定の、エスキン用の基本トレーニングの紙にも書いてあるんだけど。僕たちは、他のサイズよりも筋トレ量と、食事量は少ない感じかな? あと、全部を鍛えるんだけど、特に腹筋を中心に鍛えていくよ!」
「そうなのか。トレーニング、とりあえずついていく!」
「ちなみにこれ、見て?」

 中谷は自分の白Tシャツをめくりお腹を見せてきた。俺は中谷の腹筋を触ってみた。

「すっげー!! 割れてるのか? 俺もこんな風になりてぇ」

 ふとチクッとする視線を感じた。視線を感じる方向を見ると、輪島と目が合う。輪島は俺を睨むようにじっとみてきた。普段見たことのない表情で心臓がビクッとした。

――俺、何か輪島にとって嫌なこととか、した?

 いや、一切していないと思う。見つめあっていると、今度は勢いよく輪島は視線をそらしてきた。そらし方が荒くて、今度は心臓の辺りがズキっと傷んだ。

「矢萩くん、どうかした?」
「いや、何も……」

 輪島の動きが気になりすぎながらも、身体を動かし続ける。

「僕はね、外見を整えたくて、さらに力持ちにもなりたいなって思って筋トレをしてるんだけど、矢萩くんは何で筋トレしようって思ったの?」
「輪島を、お姫様抱っこしたいんだ……」
「わぁ、すごい目標だ! 矢萩くんが輪島くんをお姫様抱っこしているところ、みてみたい!」
「そっか、俺、がんばるわ!」
「がんばって! 応援してる!」

 中谷は話しやすいな。
 そんなこんなで初日の筋肉部での活動は、あっという間に終わった。

 輪島と学校を出て、寮に戻る。

「昼飯前にシャワーで汗を流したいな」
「そうだな」
「筋肉部、楽しいな! 俺、続けられそうだわ。中谷も教え方が上手いし」
「……そっか」

 いつもは筋肉関係の話をすると、もっと反応してくれるのに、今は目を合わせてもくれない。なんか寂しいな――。

「どうした輪島? 体調悪いのか?」
「いや、別に……」

――いや、あきらかにいつもと何かが違う。

そういえばさっきのトレーニングの時も、俺と目が合った瞬間、いつもと違う表情をしていたし。気になるけど、本当に何もないのか? しつこく聞きたいけど、ふたりの間に見えない壁が……。

「そっか、調子悪いとか、何かあれば言えよ? 俺の出来ることなら何でもするから!」
「……なんでも、か」
「あぁ! 何でもだ!」
 
 俺は微笑んだ。
 輪島は無表情で俺の顔をじっと見る。

 気がつけば、輪島には色々してもらっている。何もやる気がなくて、怒られることばかりしていた俺に、輪島は筋トレという楽しみをくれた。誰にも気にしてもらえなかった俺を、すごく気にしてくれている。

 輪島のお陰で、最近は毎日が楽しい。

俺も輪島に何かしてあげたい。人に対してそんな気持ちになったのは、初めてだ――。