ほんでな、こんな大火傷を負ったからには死ぬと思ったけどな、半年ぐらいで全身のケロイドは治った。
 そやけど、そのうち、白髪やシワが出てくるようになってな、理屈は分からんけど歳をとるようになったんや。原爆投下が人間に戻るきっかけになるとは皮肉なもんじゃ。
 わしは戦後のどさくさに紛れて戸籍を手に入れた。
 天涯孤独な村上さんとして大阪に定住するようになった。
 わしは、大好きな芸能の仕事に携わることにした。お笑い芸人や歌手や俳優が生き生きと活躍する場を作りたかった。 
 みんなを笑顔にしたかった。
 江戸時代、村から村を渡り歩いて舞台を作り上げた興奮と煌めきは一生忘れられへんわ。
 いや、もっと忘れられへんのは、わしが初めて岡山に渡った時に出会った山の民のオナゴの笑顔やなぁ。
 ほんまは、あの子と夫婦になりたかった。川で漁をしながら野宿をする生活は色々と大変やったけど、今、思うと幸せやった。
 あの子は、わしが忽然と消えた後は泣いたやろうな。すまんことしたわ。
 ほんまに、こんだけ生きると色々な事があったわ。
 まさか、令和という時代まで生き続けるなんて思いもせんかった。
 わし、平成になる頃には金持ちになっとったんや。
 ほんでな、昔のわしみたいに行き場のない人に居場所を作ろうと思って教祖の真似事みたいなことを始めた。税金対策で宗教団体にしといたんや。
 わし、四十過ぎてから結婚して美波が生まれた。わしの人生の晩年は特に忙しかった。
 流星、おまえみたいなイケメンの孫にも恵まれて幸せな人生やったと言い切れるぞ。
 そやけど、わし、人殺しやねん。あの日の出来事が消えへんのじゃ、
 わしのせいで亡くなった帰還兵の為にも、わしの死後、目玉を役立てられるように研究してくれ。おまえに目医者になれって言うたのはそういうこっちゃ。
 目が見えへん人を救ってくれ。