また、はぐらかされるのは御免だ。
「分かっていますよ。お昼もまだでしょう。僕の手料理で良ければ食べて下さい」
「いえ。結構です。菓子パンを食べましたから」
「そうですか……。では、お茶をどうぞ」
 村上は立ち上がると、ピーターラビットの絵が描かれた可愛い陶器のティーポットとカップを持ってきた。
 お菓子を載せた皿もピーターラットである。村上の趣味なのか? それとも教祖の趣味なのか?
 いずれにしても、ちょっと意外な気がする。
 ちなみに、羽田の実家のティーセットは不思議の国のアリスである。
 それは、沙織が母の誕生日に買ってきたものだった。
(そういえば、沙織の寝室にピーターラビットの絵本があったな)
 そんな事を考えていると、村上がフッと微笑んでケーキ皿を置いた。銀のスプーンの柄は猫の顔の形をしている。
「この茶器やスプーンは僕の恋人がプレゼントしてくれたんです。ねぇ、とても可愛いでしょう? 彼女は猫が大好きだから、僕のお茶碗の絵もトラ猫なんですよ」
 そして、対面のソファに深々と腰掛けると、なごやかな顔つきで、バームクーヘンを勧めてきたのだが、羽田の顔は強張っている。
「この前みたいに人魚の肉だとか、そういうのは無しですよ」
「うーん。どう言えば、信じてもらえるのかなぁ。僕は嘘はついてませんよ。とにかく、最期まで聞いて下さい。祖父の数奇な運命を……」
 ゆったりと微笑みながら、とんでもない事を語り出したのだ。

                ☆
 
 流星……。わしは、もうすぐ老衰で死ぬ。めでたいのう。お前だけに打ち明けるわな。
 わし、ほんまの名前は太郎じゃ。わしは、瀬戸内海の小さな島で生まれたんや。
 当時、朝廷の官米を運ぶ船は沿岸伝いに航行して、津に停泊しながら少しずつ進んどったんや。