村上の別荘は煉瓦造りの平屋で暖炉があるようである。大きな煙突が突き出ている。全体的に欧風の頑健な造りで、脇を流れる小川のせせらぎも風情があり、グリム童話の世界に迷い込んだような気持ちにさせられる。
 村上はドイツ製の高級車に乗ってここまで来たようである。
 別荘の呼び鈴を鳴らすと、すぐさま重厚な玄関の扉が開いた。
「ああ、ようこそ。ここに泊まる用意もして下さったんですね」
 ハイカラな外観なので土足のままで入るのかと思いきや、上がり框があり、村上が室内用のスリッパを差し出した。
「お、お邪魔します」
 広々としたリビングに通されてソファに座る。
 いよいよ、山田の視力回復の秘密を知る事になるのだと思うと、少し緊張してきた。
 羽田は、山田が言うように、眼球の移植手術で劇的に治るなんて信じていない。
 例えば、白内障の場合は、他に糖尿などの病気がなければ水晶体を人工レンズに変えることで視力は改善されるけれども、角膜の移植に関しては、多少は前よりもマシになる程度の回復しか期待できない。
 ましてや、網膜の治療となると、もうどうしようもない。仮に、眼球の移植手術なんてしたところで沙織の病気に対しては効果はない。
 しかし、まだ認可されていない最先端技術を村上が使ったとしたらどうだろう。
 そう、きっとそうなのだ。
 村上は秘密裏に、ips細胞を使って網膜を再生して治したに違いない。
 それが実用化されるのは、もっと先になると言われているが村上は無許可で実験を行なったのではないだろうか。
 沙織は山田と同じ病である。なぜ、先に山田にチャンスを与えるのか。これには納得がいかない。もしかしたら、信者特権というやつなのだろうか。
「村上先生、どうか妹に光を与えて下さい! でないと、山田さんにした事を世間にバラしますよ!」
 沙織を救いたい一心で叫ぶ。