「ねえ先輩、お願いがあるんですけど」
純平がそう言ってきたのは、乗り換えのために次の電車を待つ時間だった。
「なんだ?」
「インター生ってさ、この春休みに特別課題が出されるでしょ。飛行機の中でめくってみたけどかなり難しそうでさ。解けそうにないから教えてほしくて」
インター生とはインターグローバルコースの生徒の略だ。
インター生だって偏差値は充分高いのだけど、留学しているとどうしても理数系の勉強量が不足する。だから春休み明けの実力テストや全国模試の対策として、帰国したインター生には分厚い課題テキストが配布されるのが恒例だ。
「あ~、同級生のインター生も去年言ってたな」
「っもしかして教えてあげたんですか!」
なんだ? 急に機嫌を悪くして。 あ、そうか、柴距離??
「そうだけど……ちゃんと純平も見てやるから。日にち合わせて図書」
「じゃあ明日! 俺の家で!」
うわ。言葉を被せてきた。やる気満々だな、純平。
「親御さんの許可が出たらな」
「そこは大丈夫です。なので、三日くらい泊まり込みでお願いしたいです。予定はどうですか」
「……えっ?」
泊まり込み? 三日間も? 予定は空いているけど、おれの家はおれがいなくて大丈夫だろうか。春休みだから大丈夫か……いや、それよりもやっぱり。
「それこそ親御さんにちゃんと了承を取れ。初めてお伺いするのに三日も泊まりとか、常識的じゃない」
「先輩、相変わらず『おかん』だね」
「それ言うな。なんなら『おとん』でも言うと思うぞ」
「どっちにしろ保護者っぽい。ね、本当に大丈夫だからお願い。俺の家にきてください」
背を屈め、目を覗いてくる。
ぅう。またすがるように見て……おれはこの目に弱い。
仕方なし。やっぱり可愛いんだよな、純平は。
「わかった、いいよ」
「やった! 先輩、大好き!」
耳と尻尾が見えそうな純平に笑ってしまう。
めちゃくちゃ喜んでるなぁ。ただしここで抱きつくのは禁止。
純平の腕が伸びてきそうなことを察し、右手で制して左手でスマホを操作する。純平の家の位置情報を確認するためだ。
中高一貫校に通っているおれたちは住む地域が同じではない。大まかな居住地は知っていても住所までは知らないのだ。
「住所、教えて」
ところが純平は首を振る。
「いえ、三日間も先輩の身柄を預かるんですから、ご家族に挨拶がてら俺が迎えに行きます」
……言い方よ。逮捕とか拘束じゃないんだからさ。純平、留学の間に日本語が下手になったか? 課題の時に現国も見てやらないと。と思っていると電車がホームに入ってきた。
乗り込んでから、挨拶すべきはやっぱりおれだろうと思い、こっちから出向く旨を伝える。だけどやっぱり純平は首を振った。
「俺も挨拶したいですもん。だから、ね?」
また目を覗かれる。
「わかったよ……」
おれの方は到着してから挨拶をするんだし、いいか、と結局また純平のおねだりに負けて住所を伝え、明日の約束をまとめたのだった。
純平がそう言ってきたのは、乗り換えのために次の電車を待つ時間だった。
「なんだ?」
「インター生ってさ、この春休みに特別課題が出されるでしょ。飛行機の中でめくってみたけどかなり難しそうでさ。解けそうにないから教えてほしくて」
インター生とはインターグローバルコースの生徒の略だ。
インター生だって偏差値は充分高いのだけど、留学しているとどうしても理数系の勉強量が不足する。だから春休み明けの実力テストや全国模試の対策として、帰国したインター生には分厚い課題テキストが配布されるのが恒例だ。
「あ~、同級生のインター生も去年言ってたな」
「っもしかして教えてあげたんですか!」
なんだ? 急に機嫌を悪くして。 あ、そうか、柴距離??
「そうだけど……ちゃんと純平も見てやるから。日にち合わせて図書」
「じゃあ明日! 俺の家で!」
うわ。言葉を被せてきた。やる気満々だな、純平。
「親御さんの許可が出たらな」
「そこは大丈夫です。なので、三日くらい泊まり込みでお願いしたいです。予定はどうですか」
「……えっ?」
泊まり込み? 三日間も? 予定は空いているけど、おれの家はおれがいなくて大丈夫だろうか。春休みだから大丈夫か……いや、それよりもやっぱり。
「それこそ親御さんにちゃんと了承を取れ。初めてお伺いするのに三日も泊まりとか、常識的じゃない」
「先輩、相変わらず『おかん』だね」
「それ言うな。なんなら『おとん』でも言うと思うぞ」
「どっちにしろ保護者っぽい。ね、本当に大丈夫だからお願い。俺の家にきてください」
背を屈め、目を覗いてくる。
ぅう。またすがるように見て……おれはこの目に弱い。
仕方なし。やっぱり可愛いんだよな、純平は。
「わかった、いいよ」
「やった! 先輩、大好き!」
耳と尻尾が見えそうな純平に笑ってしまう。
めちゃくちゃ喜んでるなぁ。ただしここで抱きつくのは禁止。
純平の腕が伸びてきそうなことを察し、右手で制して左手でスマホを操作する。純平の家の位置情報を確認するためだ。
中高一貫校に通っているおれたちは住む地域が同じではない。大まかな居住地は知っていても住所までは知らないのだ。
「住所、教えて」
ところが純平は首を振る。
「いえ、三日間も先輩の身柄を預かるんですから、ご家族に挨拶がてら俺が迎えに行きます」
……言い方よ。逮捕とか拘束じゃないんだからさ。純平、留学の間に日本語が下手になったか? 課題の時に現国も見てやらないと。と思っていると電車がホームに入ってきた。
乗り込んでから、挨拶すべきはやっぱりおれだろうと思い、こっちから出向く旨を伝える。だけどやっぱり純平は首を振った。
「俺も挨拶したいですもん。だから、ね?」
また目を覗かれる。
「わかったよ……」
おれの方は到着してから挨拶をするんだし、いいか、と結局また純平のおねだりに負けて住所を伝え、明日の約束をまとめたのだった。