未来(みらい)のことがずっと好きでした。俺と付き合ってください」
 最後の花火が打ち上がり、パラパラと音をたてて川に落ちる様子を見届けてから(しん)が私に言った。
 突然の告白に驚いたが、答えはもう決まっている。
「私も進のことが好き。お願いします」
 私がそう返答すると、進はガッツポーズを取り全身で喜びを表現していた。進のそんな姿を見て、改めて進と付き合えたことを実感した。

 中学二年の花火大会の日、人生初の彼氏ができた。
 彼の名前は今成進(いまなりしん)。隣の中学校の生徒だった。塾で隣の席になり、話しているうちに進の飾らない人柄に惹かれ、気づいた時には私は彼のことが好きになっていた。塾のクラス内でも進は男女構わず人気があったし、私以外にも進のことが気になっている子もいたからまさか付き合えるなんて思ってもみなかった。親に言われて嫌々塾に通っていたが、今日ばかりは塾に行く様に言った親に感謝している。
 中学が別なため、進とは塾の時間でしか一緒に過ごすことができなくて少し寂しいけど、それもあともう少しで終わる。私と進は志望校が同じで、高校からは同じ学校に通う予定だった。絶対に同じ高校に通いたいとお互いに切磋琢磨して一生懸命勉強していたものだから、気付けばもう一つ志望校のランクを上げていいくらいに成績が上がっていた。
「二人とも成績上がったからっていって志望校変えないでくれよな。俺今結構ギリギリのライン」
「あんたはもっと頑張りなさいよ! このままだとあんただけ別の学校になるよ。私は別にあんたと高校まで一緒じゃなくてもいいけど」
「それはマジで勘弁。四人で行きたいよ。明日香、英語教えて」
 中学二年の冬休みにもなると受験を意識して新しく仲間も増えた。同じタイミングで永遠(とわ)明日香(あすか)が入塾した。二人もまた私と進とは別の中学校の生徒で私達と同じ高校を志望していた。明日香が私の後ろの席だったことをきっかけに仲良くなった。
 明日香と永遠は幼稚園からずっと一緒のいわゆる腐れ縁というものらしく、必然的にそこに永遠が加わり四人で同じ高校を目指すことになった。
 こうして私達は仲良くなり、塾の日は一緒に勉強してそのままファミレスで夕飯を食べ、休みの日は遊ぶ仲になった。

「あーあ、早く受験終わらないかな。そしたらもっとみんなと遊べるのに」
「まぁ、あと少しの辛抱なんじゃない? それにもうすぐ夏期講習が始まるから一緒にいる時間は増えると思うよ」
「でも勉強じゃん! 私は遊びたいの!」 
 塾の帰りにアイスを食べながら進とそんな会話をしていた。
 夏が本格的に始まる前だというのに今年の夏は暑い。暑さと、早くみんなと遊びたい気持ちでイライラしている私を進がなだめる。
「まぁ、そんなイライラなさんな。明日を楽しみにしてて」
 そう、明日は私の誕生日。
 幸運なことに土曜日で学校もなければ塾もない。しかも次の日が日曜だから帰りがちょっと遅くなっても大丈夫。何よりも進と付き合ってからの初めての誕生日だった。
 本当は四人で遊ぼうと思っていたけれど、明日香と永遠が気をつかって進と二人にしてくれた。
「明日は存分に甘やかされたいと思います!」
「甘やかしたいと思います。プレゼント楽しみにしてて」
 進は手を振りながらそう言って改札の中に入って行った。進の姿が見えなくなるまで見送っていると、さっきまでイライラしていた気持ちが早く明日にならないかなというワクワクする気持ちに変わっていた。
 るんるん気分で浮かれて帰り道を歩きながら明日何を着て行こうや、どんな髪型にしようかななどと考えていた。
 本当に明日が待ち遠しい。
 信号が青に変わるのを待っていると、向こう側に綺麗な毛並みをした白猫が縁石に寝転んで毛繕いをしているのが見えた。綺麗な猫だななんて思っていると、その縁石の横ギリギリに自転車が通り白猫が驚いて道路に飛び出してこっちに向かって走り出した。
 危ない! と思ったが信号待ちしている人は私以外スマホを見たり、別のところを見ていたりでその様子に気づいていない。
 ドキドキしながら見守ってると、白猫が横断歩道を半分渡り切ろうとしたところで運悪くダンプ車が左折してきた。ダンプ車の大きさと音で白猫は萎縮してしまい、横断歩道を渡り切る前に立ち止まってしまった。
 このままでは白猫が轢かれてしまう。
 気づいたら体はもう動いていた。白猫に向かって私は走っていた。
 赤信号なのに私が急に走り出したことでようやく他の人も白猫が轢かれそうになっていることに気付いた様で「危ない!」や「轢かれちゃう!」などの声がうっすらと聞こえたが構わず私は走り続けた。
 なんとか白猫の場所でたどり着き、白猫を抱き抱えすぐに車が来ない方向に投げた。「ミャッ」と驚いた声で白猫は鳴いたがさすが猫。空中で上手く体を捻って姿勢を直し、綺麗に着地していた。
 その様子を確認してほっとしていると、ドンッと今まで聞いたことのない様な大きな音が鳴り、私の体は宙を舞った。でも私は猫ではなく人間なので空中で体を捻ることなんてできなくて、そのまま頭からコンクリートに落ちた。
 そこからはもう記憶がない。

 目が覚めると白い天井が見えた。鼻がツンとする様な消毒液の匂いがしておそらくここが病院だということが分かった。ゆっくりと体を起こし、自分の体が動くことを確認する。不思議なことに痛いところがどこもなく、体が軽かった。
 部屋の扉が開いたかと思うとお父さんとお母さんが慌てて病室に入ってきた。ずいぶん心配させてしまったのだろう。
お母さんなんて泣き崩れてる。
「お母さんごめんね。心配させちゃったよね? でもびっくりするくらい何ともないから大丈夫だよ」
 話しかけるが返答がない。
「お母さん? 聞こえてる? 私何ともないから大丈夫だよ」
 さっきよりも大きな声で言うがやはり返答がない。
「お母さん?」
 叫ぶに近い声量でお母さんのことを呼ぶが返事がない。
 おかしい。お母さんから返事がないのもだが、これだけ大声を出しているのにお父さんも何も答えてくれない。
「ねぇ、お父さん! えっ……」
 お父さんの体を触ろうと手を伸ばすと手がすり抜けてしまった。驚いてもう一度触ろうとするが結果は変わらなかった。何回やっても手がすり抜けてしまう。
 触れることができないのだ。
 信じたくないけれど、私の中で一つの憶測を考えた。どうか違ってほしい。そう思いながらベッドから降りてゆっくりと振り返る。
 そこには目を閉じて横になっている「私」がいた。
 あれだけ派手にダンプ車と衝突して痛みがないのも、どれだけ大声を出しても誰にも声が届かないのも納得いく。
 ……納得なんてしたくない。
 私は死んでしまったのだ。

 両親が帰り一人になるとすーっと涙が流れてきた。
 私はもうこの世にはいない。
 死んでしまったのだ。
 もう何もできないんだ。大人にもなれない。
「みんなと学校生活したかったな……」
 そのためにずっと頑張ってきた。
 言葉に出すと余計に涙が出てくる。どうせ誰にも私の声なんて聞こえやしない。部屋中に響く程の大声で泣いた。
「すんごい声」
 誰もいないはずなのに後ろから小さな子供の様な声がして振り返るとあの白猫がいた。
「猫が喋った……!」
「もしかしたら喋る猫もいるかもよ? 俺様は猫じゃないけど」
「猫じゃない?」
「そう。猫じゃない」
 白猫は私の横になっている体の上に乗り、毛繕いを始めた。動かせない自分の体の上で毛繕いをされると少しイラッとした。そもそもこの白猫がいなければ私は死ななかったのだ。
「人間でいうと神様っていう表現が一番近いかな」
「神様?」
「そう。神様」
 猫の姿の神様なんて聞いたことない。
「何で猫の姿なんかしてるの?」
「人間の世界で馴染みやすいから。人間が気づかないだけで、神様は姿を変えて身近にいるものさ」
 あくびをして尻尾をベッドから垂らして振りながら白猫が言う。あの時は気が付かなかったが、よく見ると尻尾が三本ある。本当に神様なのだろうかと考えていると、忘れてはいけない大事なことを思い出した。
「私、あなたのせいで死んじゃったんだけど!」
 そう。私はこの白猫がいなければこんなに早く死んでなんていなかった。予定通りみんなと同じ高校に通い、誕生日だって迎えるはずだった。
「人間は寿命が短いからな。それがお前の寿命だったんだ」
「寿命って……。それで片付けないでよ! まるで私の寿命を知ってるみたいに言うけど」
「知ってるんだなーこれが。神様だから。お前、どちみち十四歳で寿命つきる運命だったし」
 ガラス玉の様に透き通った青い目をまん丸にして白猫が言う。
「……私の寿命って十四だったの?」
「そゆこと。寿命ってもんは生まれた時から決まってる。仮にお前があの日俺様と出会わなくてもお前は何かしらで寿命がつきていた。それが事故なのか病気なのかは知らんけど」
「んで、本題」と言いながら白猫は私の足元にやってきた。
「一応お前には助けてもらった恩がある。だから恩返しに来た」
 白猫は器用に二本足で立ってこう言った。
「お前の願いを一つ叶えてやる」

「願いを叶える……?」
「そう。お前、進達と高校生活送りたいんだろ?」
「何で知ってるの?」
「神様だから」
 信じてなかったけど本当にこの白猫は神様なのかもしれない。だったら願いを叶えてもらおうじゃないか!
「本当に? ありがとう!」
 白猫に抱きつくとお父さんの体を触った時とは違い、しっかり触れることができた。願いを叶えてもらえることと、触れることが嬉しくてつい抱きつく力が強くなる。「ぐえっ」と白猫は声をもらして私に離すように言った。
「あー、死ぬかと思った……。んで、願いを叶えるのは叶えるんだけど、条件がある」
「条件?」
「そう。まず進達と高校生活を送りたいっていう願いだから生き返れるのは高校の三年間だけ」
「え、三年間だけなの?」
「残念ながらな。さすがにそれ以上は延ばせない。んで、もう一つの条件が、別の人間として生き返ること」 
 別の人間とは一体どういうことだろうか。
 きょとんとした顔をしてると白猫はふーっと息を吐いて丁寧に説明してくれた。
橘未来(たちばなみらい)としてではなく、全く別の人間として生きるってことだ」
「別人になっちゃうの?」
「そういうことだ。残念ながら死んだ人間は生き返ることは絶対にない。それはどんなに願っても覆せない。神様の俺様でもな」
 白猫の三番の尻尾がしゅんと下を向いた。
「別人として生き返ったら私と……橘未来と過ごしたことは進達の記憶から消える?」
「消えない。あくまでも橘未来が存在しない世界にお前が別人として三年間だけ過ごせる。だから、進達との関係は一から築かなきゃいけないから、もしかしたら辛い思いをするかもしれない」
 なるほど。本当に別人として過ごすわけだ。
 もしかしたら今までの様な関係性にはなれないかもしれないということか。
 でも、一度は諦めざる得なかった願いが叶うのならばーーーー。
「神様、お願いします。進達と高校生活を送らせてください」

「お前ならそう言うと思った。さぁ、始めるぞ。目を閉じてそこに立て」
 白猫に言われた通りに目を閉じて立つと白猫が何かを唱え始めた。どこからから風がゆっくり吹いて、私の体を覆う様に渦を巻いた。体がゆっくり暖かくなっていき気持ち良くなっていると「目を開けていいぞ」と白猫から声がかかり、ゆっくり目を開いた。
「さぁ、お前は今から橘未来としてではなく天野小羽(あまのこはね)として三年間生きていく」
「天野小羽?」
「お前の新しい名前だ。といっても三年間だけだがな」
 白猫がパチンと指を鳴らすと全身鏡が現れ、見てみろよと言わんばかりに私に姿を見る様に促した。
「これが今の私……天野小羽」
 鏡には今までの真っ暗な長い黒髪ストレートとは対照的な栗色の肩までの長さのパーマがかかったボブヘアに、橘未来よりも10センチほど低い背丈の少女が映っていた。
「あとこれに早く着替えて」
 白猫が指差す方には私が通う予定だった高校の紺色のセーラー服がかかっていた。喜んで憧れていた制服に袖を通す。中学校はブレザーだったため、ずっとセーラー服に憧れていたのだ。
「可愛い!」
 鏡に映るセーラー服を着た自分を見て思わず声が出る。
「ねぇ、神様! 似合ってる?」
 鏡の前で体の向きをぐるぐると変えて全身を確認する。「可愛い可愛い。似合ってる」と白猫は棒読みで返事をしてくれたが、自分で聞いておきながらどうでもよかった。とにかく憧れの制服を着れたのだから。
「お嬢さん、確認するのはいいけどそろそろ行かないと遅刻するよ」
「遅刻?」
 ぐるぐる回っていた体をピタッと止めて白猫の方を向く。
「今日入学式。一発目から遅刻すると大目玉をくらうぞー」
 白猫が信じられないことを言う。
「まだ全然先じゃない? だってまだ中三の七月じゃあ……」
「言っただろ? 生き返れるのは高校の三年間だけ。現にお前は今生き返ってる。つまり?」
「今日が高校生一日目……。やばくない?」
「やばいよ」
 時計は八時四十五分を指している。どうして気づかなかったのだろう。姿が変わってから部屋が変わっていることを。制服に興奮しすぎていた。
「ほれ、まだギリギリ間に合う。走れー」
 白猫がそう言って指をパチンと鳴らすと、高校の最寄駅に立っていた。当然私以外に新入生はいない。
 どうせなら高校まで送ってよ!
 全力で走って何とか八時五十五分に到着し、急いで新入生の列に混じる。まだ息が整わないうちに入場が始まり、久しぶりの全力疾走と短時間に神様を名乗る白猫に会ったり、生き返ったりで疲れ果ててしまい入学式の記憶がほとんどない。

 無事に入学式が終わりクラスに移動して自分の席に座るが隣の席は空席だった。他の席は埋まっているから遅刻か何かだろうと思いながら教室を見渡した。当たり前だが知らない顔ばかりだった。
 ガラガラと教室の扉が開き、白衣を着た細身で長身の先生が気だるそうに入ってきた。
「お前らの担任になる神猫(しんびょう)シロだ。俺に迷惑かけんな」
 あくびをしながら神猫先生が挨拶をした。「担任やばくない?」「見た目はいいのに」などとクラスがざわいたが、当の本人は全く気にしていない様子だった。
「じゃあ、適当に端から自己紹介しろ。親睦深めろ。俺様は適当に座ってる」
 ん? この話し方もしかしてと思い神猫先生の顔を見ると、またあくびをしていた。間違いない。あの白猫だ。呆気に取られていると私の自己紹介の順番になった。
「たち……じゃなくて、天野小羽です。えっと……」
 今更気づいたけど、私天野小羽のこと知らない。出身中学とかそんなの知らない。
 言葉に詰まっていると神猫先生からの助け船が出た。
「天野は中学まで海外にいて日本語忘れてるからみんな優しくな」
 ありがとうって言うべきなんだろうけど、ハードル上がりすぎて逆に困る。私、英語好きだけどネイティブじゃないし! バリバリ日本語英語の発音だし!
 何とか自己紹介を乗り切り、一段落していると聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。
来栖明日香(くるすあすか)です。西中出身でバスケやってました! よろしくお願いします!」
 声の主は明日香だった。最後に会った時から髪が少し伸びていた。嬉しくて、懐かしくて泣きそうになっているとまた懐かしい声が聞こえた。
先本永遠(さきもととわ)です。ギリギリ滑り込んで合格できました! あと、明日香とは腐れ縁です。なんか言われたら俺に言ってくれれば対応するんでよろしく!」
 相変わらず永遠はお調子もので、クラスメイトの笑いを取っていた。明日香には「バカ」って言われてたけど。
 嬉しい。二人と同じ高校に通えて、同じクラスになれて。
 全員の自己紹介が終わったが、進の姿はなかった。そもそも名簿的に私よりも前だから私より先に自己紹介していなければおかしい。
 多分別のクラスなのだろう。少しだけ残念に思った。
 後で探してみよう。そう考えていた時だった。
 ガラガラと後ろの扉が開く音がして振り返り、驚いた。
「入学そうそう遅刻とはいい度胸だな、今成」
「道に迷っているおばあちゃんを助けてたらこんな時間になりました」
「本当か?」
「嘘です。すみません。普通に寝坊しました」
「早く席に座れ」と神猫先生が席を指差し、進が空いていた私の隣の席に座った。最後に会った時より少しだけ大人びた横顔を見て、嬉しさと懐かしさと切なさでゆっくりと涙が溢れ、気づかれない様に慌てて下を向いた。
「泣いてる?」
 小声で進が話しかけてくる。私の動きが不自然だったのか早々に進に気づかれてしまった。声を出さずに首を横に振る。
「先生」
「何だ?」
「具合悪そうだから保健室連れてっていい?」
「ん? あぁ、分かった」
 腑抜けた声で神猫先生が返事をする。
「立てる?」と進が優しく私に声をかけてくれ、頷いて答える。進に連れられて教室を出た。

 私の歩くペースな合わせて進はゆっくり歩いてくれた。
 具合なんて悪くないから悪いことしたなと思いながらも、久しぶりに会えて嬉しい気持ちが勝っていた。
 このまま保健室に着かなければいいのに。そんなことを思っている自分がいた。
「お、泣き止んだ」
 私の顔を覗き込んで進が笑った。変わらない笑顔にまた泣きそうになるのをぐっとこらえる。急いで下を向く。
「ごめんね、保健室着いてきてもらっちゃって」
「あぁ、別にいいよ。人に優しくなりたいからさ」
「十分優しいよ? 今だって私のこと心配してくれてるし」
「そう? ちょっとさ、後悔してて」
「後悔?」
「うん」と言って進は窓の外を見た。窓の外には桜が満開に咲いており、私にも綺麗に咲いていることを教えてくれた。
「あの時もっと優しくしてればよかったなとか。もっと一緒にいたかったなとか。大体の失敗は取り返せる。だけど取り返せないこともあるんだ。だから、後悔しない様に生きたい」
 進の横顔は教室の時と違い、少し悲しそうで切なそうだった。
「本当だったら一緒にこの景色を見るはずだった」
 私に聞こえない様に小さく言ったのだろうが、聞こえてしまった。
 ねぇ、進は今、誰のことを思ってそう言ったの?
 私も進とこの景色を一緒に見たかった。
 「天野小羽」としてではなく、「橘未来」として。
 橘未来はもうどこにもいない。存在しない。
 それは今もこれからもずっと。絶対に覆すことができない現実だ。
 胸がギュッと締め付けられる。
 進のいる世界に「私」はいない。
 「天野小羽」としての高校三年間が始まった。