9月某日、その教師はやってきた。

教室に二つある扉の一つ、黒板に近い方の扉が勢いよく開いた。いつもの先生ならば開けない方の扉が。
入ってきたのは眼鏡をかけた60代のおじいちゃん。
よぼよぼ歩き、時折ふらついたと思ったら黒板に体をぶつける。
教壇のある場所は教室の床から一段だけ上がり、生徒の顔がよく見えるよう設計されているが、バリアフリーには対応していない。
そんな明らかな危険のある段差にそのおじいちゃん先生は――――つまずいた。
「あいたたた……」
即座に学級員である僕は先生を助けに向かう。
「大丈夫ですか?」
「おう、大丈夫だよ……ありがとうね」
そういって、先生が簡単にお礼を済ますと、ゆっくりと教壇の前に立ち
「ここの担任をされていた佐藤先生が産休に入られたため、私が代理の担任をします」

~10月1日~

新任で代理の先生が僕たちの担任になってから少しの時間が経った。
普通のおじいちゃん先生なんだけど、時折怖いこと言う。
「下校の時は赤信号に三回以上つかまらないようにしなさい」とか「石につまずく人が今日は多いので、10分だけ教室で待機してください」とか、意味の分からに事で帰路を制限される。