「よいしょっと。これで出荷分は全部かな?」
「あ、どうもね」

「あれ? じゃあアンタが例の都会から来た人?」
「あっ、はいそうです」

「あら~。イケオジじゃない。アタシがあと十年若かったら……」
「もう! タエちゃんったら!」
「ははは」

「アンタ、お医者さんだったんだって。なんだってこんな田舎に」
「……いろいろと、ありましてね」

 嫌になっちゃったんですよ。と、胸の内を吐露するには目の前の初対面の老婆はふさわしくないなと、ごまかすように微笑んだ。

「まぁ、いろいろありますもんねぇ」
 と彼女は察したように、分かってるんだか分からないんだか返した。

「仕事も終わったしアンタもうちでご飯食べてきなさいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」


 ドアを開けると、ちりんちりんと風鈴の涼しげな音が聞こえて、疲れて火照った体にしみこんでいくようだった。靴を脱いで家に上がると、老婆の亭主らしき老人がテレビを見ていた。

「今夜は、市立××中学校いじめ事件の真相に迫ります」

 目を見開いた。

 テレビ画面に映っていたのは、

「い、糸川くん……?」


 私の頬から落ちる冷や汗とは裏腹に、軽快な音楽が流れだした。

「この番組は、皆に希望を届けたい。ハッピー☆ハッピーフレンズの提供でお送りします」