「陽くん、さっき篠原先輩と楽しそうに、何話してたの」
「シロが可愛いねって話」
「絶対違うでしょ」

 篠原先輩が俺のことを可愛いと言うわけがないと、シロは不貞腐れた声で言う。

 その様子が堪らなく可愛くて、俺はふっと口元を緩める。

 篠原は確かに、シロのことを可愛いとは思ってないだろうけど、何だかんだ面白がっていそうだ。
 きっと数日後には、その後どうなったかを聞いてくるだろう。

 昇降口から出ると、一目で一年と分かる集団が目の前を走りすぎていく。
 どこの部かは知らないが、校舎の周りを走らされているらしい。初々しくて、春らしい光景だ。

「シロは部活入らなかったの?」
「うん。人一倍勉強しないとついてけないから。それに、この一年はできる限り陽くんといたいし」

 何気なく尋ねると、なんとも彼らしい答えが返ってくる。
 
 少し前の俺なら、「俺以外にも目を向けた方がいいよ」と酷なことを言ったかもしれないが、今は違う。

「一年だけでいいの?」

 ニヤッと笑って尋ねると、シロは俯いて口ごもる。

「良くない。でも――。俺だって、いつまでも子どもみたいに我がまま言ってられないって分かってるよ」

 泣きそうな声だった。

 卒業式の約束を蔑ろにされて、俺に恋愛感情がないのだと悟り、傷ついたのだと分かる。

(ごめん。でも、可哀想で可愛い)

 自分勝手だと分かっているけど、シロにはいつまでも俺の後を追いかけていてほしい。
 理不尽な我がままを言って、寂しいと言って泣いてほしい。

 胸の奥がドロドロとした感情で埋め尽くされていく。

(ああ。俺も、執着してるんだ)

 シロだから。シロにだけ。
 とっくの昔に、離れがたい存在になっていた。

 シロが恋愛関係を望むのなら、俺はそれに応えてやりたい。

 もっと俺に夢中になって。泣き顔も、幸せそうな笑顔も俺だけに見せて。

 こんな感情、初めてだ。今まで付き合ってきた子には、これっぽっちも感じなかった。

 これが本当の『好き』なのだろうか。
 そうだったら良い。

 俺は目を細め、可愛い幼馴染に笑いかける。

「今日、うちおいで。親も妹も帰り遅いから」