取材開始

【夫はアイツに呪い殺されました】
この事件を調べることになった発端は、フリーランスのライターをしていた私に届いた一通のDMでした。
送られてきたのは、たったそれだけの言葉ととある新聞記事でした。


x(旧Twitter)のDMには様々な人から謝礼目的の情報提供が舞い込みます。
【インタビューをさせて頂いた際には、わずかながら謝礼を差し上げます】
という文言を入れてからは、分かりやすくその数は増えました。
残念なことに、そのほとんどがボツで記事になることはほとんどありません。

ですが、面白い記事になりそうな情報提供があればすぐに返事をしてインタビューを取り付けます。
正直、フリーランスは個人事業主といえば聞こえはいいですが、
収入は常に不安定で、以前勤めていた会社員時代の貯金は残りわずかでした。

私は連絡を入れる前に、DM主のプロフィールを確認しました。
プロフィールには、『美咲♡栃木県出身♡1999年♡旦那様ラブ』と記されていました。
アイコンは家族三人の仲睦まじい姿でした。
ポストを辿ると、家族と思われる若い男性とまだ幼い男の子との三人で撮った幸せそうな写真で溢れていました。
ネットリテラシーは皆無でした。
プライバシーを全世界に晒し出す危険性よりも、自身の承認欲求を満たすことを第一優先していることが
彼女のポストから伝わってきました。
プリクラをアップしたであろう画像の中の彼女たちは、黒目がちでまるで宇宙人のように大きな目をしていました。
若ママが謝礼目当てでDMをしてきた可能性も考えましたが、
【夫はアイツに呪い殺されました】という文言がどうしても心に引っ掛かりました。

楽しそうな家族の写真を数時間おきにアップしていたXの彼女の更新は、
2022年5月を境にピタリと止まっています。
新聞記事に記されていた男性の遺体が見つかったのは、2022年8月20日。
関係性があるのか気になり、私はすぐさま美咲さんに連絡を取ることに決めました。


【DMを頂きありがとうございます。もう少しだけ詳しいお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?
お時間のある時にご連絡いただけたら助かります】

【美咲:呪い殺されたのは夫だけじゃないんです。あっくんだけじゃない。みんな死んだんです。警察は役立たずなんです】

驚きました。返事は待ち構えていたかのようにすぐに届きました。
宇宙人のような大きな目の彼女がスマホをじっと見つめて私からの返事を待っていたのかと考えると、少しぞっとしてしまいました。
私はすぐに返信しました。

【呪い殺されたということは、なにか心当たりがあるんでしょうか?また、夫だけではないというのはどういうことでしょうか?呪い殺された方は複数人いるという認識でよろしいでしょうか?】

【美咲:私と夫は栃木県の●●中学校出身です。九年前、夫とその友達はある男の子をイジメていました。死んだのは夫とその仲間たち。イジメ加害者です】

九年前、イジメ加害者、死んだのは夫とその仲間たち。

一気に血が騒いで手が震えました。
イジメは社会問題化され、学生時代誰しも少なからず目にするものです。
学生だけではなく、大人の世界にだってイジメは存在する。SNSでもそれは起こりえる。
被害者の呪いによって、悪であるはずのイジメ加害者たちが不慮の死を遂げる。
私はもちろん、記事を読む大半の読者は勧善懲悪を望んでいます。
私は興奮しました。これは間違いなく、大当たりだと。
美咲さんの文面も少し落ち着いたのか文脈が先程よりもまとまっているし、
この状態ならばインタビューができるかもしれません。

【ぜひ直接会ってお話を聞かせて頂きたいです。ご都合の良い日時を教えていただけませんか?場所はどこでも構いません。自宅はもちろん、喫茶店やファミレスなどご希望があれば教えてください】

【美咲:うちに来てください。いつでもいいですけど、出来るだけ早く来て欲しいです。全部話す代わりにアイツを探し出してください】