■イジメ被害者X君のインタビュー

俺にとって中学時代は暗黒期そのものだよ。
中二のクラス替えで俺は敦也と同じクラスになったんだ。
小学校とか中学校って、目には見えない階級……
スクールカーストが存在してるのは、あなたも知ってるでしょ?どの学校だって多かれ少なかれ存在するし。
イケメンでアイドルみたいに顔が良くて人気者になる奴は少数で……
現実的に考えてそんなイケメン、学校にそう何人もいるわけないしね。
大体は声が大きい奴がクラスを牛耳じる。
それと、運動神経の良い奴ね。
体育祭のリレーでアンカーになる奴とかがカーストのトップに立つ。
中間層が一番多いんじゃない。まあ、無難なタイプ。
そして、友達が少なくて大人しくて地味な奴が底辺になる。
俺も当時は最底辺だったよ。

俺は正直、敦也みたいな人間が大っ嫌いだった。
だってアイツ、ひょろっとしてもやしみたいな体型のくせに、なぜか女にもてたんだよね。
授業中に女の先生をからかって泣かせたり、「センセーって彼氏いんの~?」て冷やかしたり。
眼鏡かけたひ弱な数学の先生のことなんて心底舐めてて、授業になんてならなかったから。
学級崩壊寸前ってレベル。本当にいい迷惑だったよ。
俺と同じようにきちんと真面目に勉強したい人間にとって敦也みたいなのは害悪でしかなかったね。
しかも、あいつら廊下でプロレスごっこなんて粗暴なことしてさ。
けど、俺にとって迷惑者でしかない敦也を、バカな女子たちはキャーキャー黄色い声上げててさ。
ホント笑えるよ。
ズボンを腰ではいてガニ股で偉そう歩いて、
先生に舐めた態度とってればモテるって今考えても意味わからないよ。
同級生の男どももこぞって敦也の機嫌を取ろうとしててさ。
だから、奴はやりたい放題で、常にスクールカーストのトップだった。
奴と同じクラスになってからは本当に地獄だったよ。
アイツはなぜか俺にターゲットを定めてせっせと嫌がらせを繰り返したんだ。

当時の俺には友達がいなかったし、中二病全開だったと思うよ。まあ、それは認める。
オカルトの本ばっかり読んで、お前たちと俺が違うんだって、自分が特別な存在であることを周りにアピールしてた。
あ、今ひいた目したでしょ?
別にいいよ、中学は黒歴史だって言ったじゃん。確かに当時の俺はキモかったし、笑っていいよ。

最初は廊下で肩パンされるぐらいだったけど、どんどんエスカレートしていった。
持ち物全て窓から放り投げられたり、給食に虫の死骸を入れるのなんてまだ序の口。
もうここでは話しきれないほどのイジメを受けたよ。
今考えてもぞっとするね。イジメがテーマの漫画や小説ってあるでしょ?
あのイジメ描写見てやり過ぎだとか、ありえないって思うことあると思うけど、
実際にあれ以上のことだってされたよ。もうイジメってより犯罪に近かった。
アイツらには散々イジメられたけど、暴力的なものよりも精神的な攻撃の方がきつかったね。

え……ズボン下ろし?
ああ、やられたね。みんなの前でズボンを下ろされたのなんて、一回だけじゃないよ。
何回もやられてる。
でもあのとき……パンツまで下げられた時はさすがに泣きたかったよ。
惨めで、悔しくて、辛くて、悲しくて。
でも、俺は笑ってた。笑顔を浮かべてたんだ。
そうやって心を守らないと耐えられなかったんだよ。
それぐらい、アイツら執拗に俺のことをイジメたから。

中学のイジメぐらい大したことないって思ってる?まあ、当事者にならなきゃ本当の苦しみなんて分かりっこないよね。
大人になってから『私、昔イジメられてたの』ってみんなの前でお涙頂戴の話する奴いるでしょ?
回りからの同情を引こうしてる奴見ると、ホント腸が煮えくり返りそうになるよ。
――お前がされたことなんてイジメじゃねぇよ!ってさ。
だってそうでしょ。ちょっと無視されたり、悪口言われたり、仲間外れにされたり。
そういうのって学生時代は絶対あるじゃん。
そういうのをイジメって言い出したら、大抵イジメでしょ。
みんなイジメ加害者になりうるってことだもん。

そういえば、パンツまで全部下ろされたのはあの日が初めてだったかもね。
多分ね、アイツアピールしてたんだよ。当時、敦也は同じクラスに好きな女がいたんだ。
ああ、もちろん直接本人に聞いたわけじゃないけどね。そういうのって分かるでしょ。
なんとなく目で追っちゃったり……そういうの。まあ、相手はとっておきの美人だったから。
もう同じ人間って信じられないぐらいの美少女だったんだよ、その子。
正直、俺もちょっと気になってたし。
アイツらは俺のこと空気が読めないってよく馬鹿にしてたけど、そういうのは分かるんだ。
敦也は絶対にあの女のことが好きだった。
でも、その子は全く敦也になびかなかった。
教室の隅っこのほうで静かにしているタイプで口数も多くなかったけど、
芯が通ってるっていうか……凛としてて。
当時のクラスの女子は本当にひどかった。
みんな猿みたいに手を叩いてゲラゲラ笑ったり、俺を含めたモブ男子にナメまくった態度を取ってきたから。
でも、あの子だけは可憐な花のようだったよ。
その子だけだったね、俺がイジメられてる時に笑わなかったのは。
踏みつけられて汚れた教科書の汚れをはたいて俺の机に乗せておいてくれたこともある。
殴られて唇の端を切った時も、黙って絆創膏をくれたんだ。

このシルク王っていうハンドルネームも彼女がつけてくれたんだ。
まあ、つけたっていうか呼ばれたって言った方がいいかな。
もう知ってると思うけど、俺、イジメに耐えられなくなって転校することになったんだ。
最後の登校日、あの子俺のことシルク王って呼んだんだよね。
意味がわらかなかったんだけど、俺、中学のときにシルクのマフラーしてて。
親が買ってきてくれた高級品のマフラーだったんだけど、彼女はこれがシルクだって分かったんだね。
他の奴らは分からないけど、意外と高級志向だったのかもね。

あ、で話を戻すけど俺がされたイジメは、本当に壮絶だったよ。
何度も首つって死のうって思ったし、ロープまで買ったよ。
転校しなければ、きっと俺は今ここにはいないね。
アイツら、人間の皮被った悪魔だよ。鬼畜だ。
『お前、マジで死ねよ』『ごめん』っていうやりとりを何度したか……。
そうそう、アイツら俺に何度も『死ね』って言ったの。
それで、俺が『ごめん』って謝ると『ごめんなさいだろ!』って殴るんだよ。
まるで合言葉だったよ。『死ね』『ごめんなさい』が。ふたつでひとつみたいな、さ。

ごめんなさい。
……ごめんなさい。
ああ、そうです。今みたいな感じ。
って、こんなところで当時の再現させないでくださいよ。
え?どうして謝るのかって?
だって、今あなたが俺に死ねって言ったんじゃないですか。
……言ってない?ははっ、言いましたって。聞こえましたから。
いやいや、そんな怖い顔しないでくださいよ。
じゃあ、言ってないってことでいいですよ。俺、いまだに当時のイジメがトラウマになっていて、病院に通ってるんです。
時々、頭の中でいろんな幻聴が聞こえてくることがあって。

あ、電話だ。ちょっとすみません。
ああ、カズキか。……は?女紹介できない?なんでだよ。
俺、お前のこと色々世話してやったよね?飯連れてってやったりお前にいくら使ったと思ってんの?大学に女なんていっぱいいるよね。なんでそれで無理なの?

は?いや、こないだはちょっと飲ませすぎて無理矢理になったかもしれないけどさ、同意の上だったって言っただろ。
あの女だって自分でホテルまで着いてきたんだから。
女が怖がってる?……どうして?俺がおかしかった?
なんだよ、それ。
……ハァ!?今、死ねって言ったな!?
俺に向かって……死ねって!
言ってないわけないだろ!
なに?俺の後ろで女の声がする?!ふざけんな!
いいか、恩を仇で返すようなことするなよ?今日中に女用意して連絡しろ!
ハァ……。
……すみません、なんか変なところお見せしちゃいましたね。

電話の相手は大学生なんですけど、株クラの話題で出会って親しくなったんです。
株クラってなにかって?株式投資してる人間のことを略して株クラっていうんです。
俺、正直株で相当儲けてて。その大学生、カズキにも俺のノウハウを無償で伝授してきたんです。
飯に行けばもちろん年上の俺が奢ってます。
で、その見返りにカズキの大学の女を紹介してもらうことにしたんです。
もちろん、付き合ったりしませんよ。酒飲みに行って、ホテル行ってバイバイ。
お互いあと腐れなくていいじゃないですか。
でも、この間カズキに紹介された女がタダ酒だけ飲んで帰ろうとしやがって。
だから『わかった』って納得した振りをしてどんどん飲ませたんです。
最後はべろんべろんで俺にもたれかかってきましたよ。そのまま引きずるようにホテルで楽しみました。
それって、無理矢理じゃないでしょ?なのに今更グダグダ言いやがって。

めんどくさい女引き当てちゃいましたよ。
でもやっぱり大学生は若くて可愛しいし最高ですね!
……ん?カズキが変な写真送って来たんですけど。……見ます?
マジでカズキ、なんなんだよこれ。
なんかカズキからメッセージがきて、俺が昨日女の前でこれを延々と描いてたって。
写真を撮りたい……?ああ、どうぞ。



これ、絶対カズキの悪戯ですよね。もしかしたら、赤い文字で書かれた手紙も
アイツだったりして。ねっ、そう思いませんか?
あ、もう一時間経つ……。そろそろ終わりでいいですか。
え、最後に一つ聞きたい?
敦也が好きだった女子の名前?あー……、いや、ちょっとここでは。
そんなの調べたところで何もでてこないって。
もう話は終わりにしましょう。ねっ?
……まったく、しつこいなぁ。
どうしてそんなにその女子のことが知りたいんですか。もういいでしょ。

そもそも、あなたが俺に会いに来た本当の目的ってあれですよね。
イジメ被害者の俺がイジメ加害者の敦也たちを呪い殺したって思ったんでしょう?
もしかして、俺がイジメを苦に自殺してるとか思ってました?
ははっ、残念でした。俺はこの通り、ピンピンしてますから。

だから、俺は何の関係もありませんよ。
だって、現にその手紙は俺のところにも来てるんだから。
俺もそういうオカルト系の話が好きなんで、あなたが記事にしたい気持ちはよく分かりますよ。
イジメ被害者が加害者を呪い殺したみたいなのって面白いしね。
だけど、これ以上調べてもなにも出ないと思うけど。
ていうか、もう終わりにしてもらえません?
え、最後に……?敦也が好きだった子は美咲かって?
いやいや、まさか。違いますよ。
美咲は敦也のこと好きだったと思いますけど、敦也は軽くあしらってる感じでしたし。
え……、ふたりって結婚してたの?
……へぇ、まあいいんじゃないですか。俺には関係ないし。
ていうか、なんでここで美咲の名前が出てくるんですか?
もしかして、アイツが俺の名前を出したんですか?