■イジメ被害者との接触①

私はイジメ被害者X君に指定されたコーヒーショップで彼を待っていました。
店内は大勢の客で賑わっていました。私は窓際のボックス席に座ってX君を待つことにしました。
あまりにもトントン拍子に話が進み、少し怖いぐらいです。
正直に言えば、X君が生きていたことに拍子抜けしてしまいました。
【イジメ加害者三人が呪われ、壮絶な死を遂げた!それは壮絶なイジメに遭った被害者Xの魂の復讐劇だった!!】
頭の中で記事のイメージはすでに出来上がっていました。

敦也さんとAとBのイジメ加害者三人を、イジメ被害者のX君が呪い殺したというセンセーショナルな記事は間違いなく人の目を引くでしょう。
人は呪いや恨み、憎しみというワードを好むからです。
でも、残念ながらX君は生きていました。
もちろん、それを喜ばなければならないのは分かっています。
私は気持ちを切り替えてX君を待ちました。

ほどなくしてX君はやってきました。
X(Twitter)のシルク王というハンドルネームにぴったりな外見をしていました。
着ているスーツや持ち物全てが高級品であることがすぐに分かりました。
女性にモテそうな整った顔立ちをしていました。
身長は百七十五センチほどでしょうか。艶やかな黒髪にふわっとパーマをあてていました。
美咲さんの話によると、美咲さんは男性を『北京』と呼んで、敦也さんと一緒にイジメていたはずです。
ですが、私にはどうしても目の前にいる男性が『北京』と罵され、イジメられているイメージが湧きませんでした。
X君は店内を一度ぐるりと見渡ました。
すでに席についていた私が立ちあがり遠慮がちに小さく手を挙げると、
男性は顔を強張らせながら私の前まで歩み寄りました。
彼は上から下まで舐めるように私を見つめた後、営業スマイルを向けました。
「初めまして、〇〇社の●●●●と申します。今日はお忙しい中ありがとうございます」
男性は名刺を取り出し、大きな声で私に挨拶をしました。
渡された名刺には大企業の社名が記されています。隣には●●●●と名前が記されていました。
その名前は間違いなくX君の本名でした。
通路を挟んだ隣のボックス席の美しい女性たちが彼に釘付けになってコソコソ話しているのが分かりました。
私も個人で作った名刺をお渡しました。
「頂戴いたします」
X君は両手で丁寧に受け取り、席に着きました。
ほぼ同時に女性たちが立ち上がり、店を出て行きました。
X君はなぜかホッとしたような表情を浮かべていました。

今回の取材で、私はX君にどこまで真実を話していいものかと考えあぐねていました。
ひとまず、美咲さんからX君の捜索の依頼が出ていることを隠すことにしました。
『美咲さんがあなたに夫を呪い殺されたと言っているのですが、どうお考えですか?』
と尋ねることは、さすがに憚られたからです。
同じ中学の元同級生のイジメっ子三人が相次いで自殺。
なにか心当たりはあるかという導入で話を聞くことにしました。