■近所の女性のインタビュー
インタビュー途中で美咲さんが取り乱したことで、残念ながらインタビューは一時中断となりました。
美咲さんは興奮状態だったため、私は頭を冷やしてくると告げて家の外にでました。
突然ハイになって話したり怒り出したり、明らかに情緒不安定な様子が見られました。
私は正直、ホッとしていました。あの家の中の匂いが尋常ではないからです。
体に染み込みそうなほどの匂いから解放され、ようやく新鮮な空気を吸うことができました。
美咲さんは私が『死ね』と言ったと激怒していましたが、録音データを確認してもそのような事実はありません。
美咲さん家の周りを取材がてら見て回っていると、
犬を散歩した六十代ほどのご婦人Oさんに出会いインタビューをすることになりました。
以下が録音データを文字に起こしたものです。
あの家の若夫婦……?正直、ご近所の評判は最悪よ。
あそこに家を建てたのは、三年くらい前かしら。
この辺りはコンビニへも車で十五分くらいかかるし、土地の値段も安いのよ。
だから、二十歳そこそこで家を建てる人も多いの。旦那さんの方は中学を卒業してからすぐ働きに出たみたいだしね。
それで話を戻すけど、あの家、自治会費を払わないくせにゴミステーションにごみを捨てるのよ。
生ごみを荒らされないようにカラス対策用のネットを買うのも住人が払う自治会費で賄っているし、順番にゴミステーションの掃除もするの。
それを一切せずに、ゴミだけ捨てるなんてズルいでしょう?
だから、町内会の班長が何度も徴収に行ったんだけど門前払いでね。挙句の果てに旦那さんのほうが『グダグダいってんじゃねぇよ!』って逆切れしたらしいの。
旦那さんの方は人相も悪いし、腕とか足に刺青……、えっとタトゥーっていうんでしたっけ?ああいうのを入れてるからみんな怖がって、それからはなにも言えなくなっちゃって。
奥さんも旦那さんにはなにも言えないっていう感じで……。
みんな困ってたんですよ。
でもね、昨年に入ってすぐ……旦那さんが亡くなる三か月くらい前からちょっと様子がおかしくなって。
家の周りに有刺鉄線を張り出して。
私が散歩に行くたびに、家の外に立ってなにかを警戒するみたいにキョロキョロしてました。
真冬になにをするわけでもなく直立不動で立っているなんておかしいでしょう?
家のそばを通りかかったとき、「こんにちは」って挨拶したんですよ。
内心は無視したかったですけど、それは大人だからね。でも、旦那さん私が全く見えていなかったんです。
ギラギラした血走った眼でブツブツうわ言のように『来るな来るな来るな来るな』って呟いてたんです。
最初は私に言ってるんだって思いましたけど、そうじゃなくて。
え、どういうことかって?私にもわかりませんよぉ。
ただ見えない敵と戦うみたいでしたよ。
その時の顔が、どうにも忘れられなくてね。
元々細身な方だったんですけど、もう骨と皮だけの骸骨みたいな姿になっちゃってて。
顔は真っ白で唇はヒビ切れてガサガサでした。
でもね、数秒後には変な笑い方してて……。
目を大きく見開いて驚いたような顔をしてるんだけど、口元は笑ってるのよ。
もう誰かに操られてるみたいだったわぁ。
正直それを見て……精神に支障をきたしているのかもしれないって思いました。
ほら、今は心の病気ってよくあることでしょう?
でもなんか旦那さんのそのときの様子は常軌を逸しているっていうか……●気の沙汰っていうか……。
ちょっとうまく言葉では言い表せないんですけど、今思えば相当追い詰められていたんだろうなって。
なにに?それは私にも分からないんですけどね。でもね、とにかくおかしかったんですよ。
私以外にも見た人がたくさんいて、怖いよねって噂してたんです。
その三か月後、山の中で自殺なさったでしょう?
だから、ああやっぱりって妙に納得しちゃって。
いまだに自治会費は払ってもらってませんけど、もう諦めました。まだ若いのに旦那さんを亡くした奥さんが不憫だから……。
でも、最近彼女が出すゴミ……なんか生臭いのよね。でも、開けてみるわけにもいかないし見て見ぬふりよ。
それにね、ここだけの話、奥さんもちょっと前からおかしいんですよ。
え、聞きたい……?家族葬だったんですけど、私もご近所のよしみで旦那さんのお葬式に行ったんですよ。
可哀想に憔悴しきっててね。涙を流す奥さんの姿を見るのは辛かったです。
なのに『私に死ねって言ったな……!?誰だよ!?』って突然式の最中に大騒ぎを初めて。
まあ、旦那さんを自死で亡くしたわけだから混乱して誰かに責任を押し付けたくなる気持ちも分からなくはないけど……。
でもね、それだけじゃなくて。
喪主の挨拶で椅子に座る参列者の前で……
あっ、これ誰が話したかちゃんと分からないようにしてくださいね!年金暮らしなのに、慰謝料を請求されたりしたら困りますから。
……ええ、分かりました。それで彼女……突然スカートのファスナーを開けたかと思ったら、勢いよく全部脱いじゃったんです。ええ、もちろん。下着もストッキングも全て一瞬で。斎場がシンッと水を打ったように静まる中で、下半身を丸出しにして奥さん、心底嬉しそうな笑顔を浮かべていたんです。
ほんの数秒後、奥さんは正気に戻ったのか絶叫して下半身を必死に隠していました。
すぐに奥さんのご両親が走って行って奥さんは引きずられるように奥へ引っ込んでしまいました。
可哀想にお子さんも泣いていてね……。
私たちも見てはいけないものを見せられて、その場にいる全員が凍り付きましたよ。
……あっ、太郎ちゃん、ごめんね。お散歩途中だったもんね。
すみません、さすがに太郎ちゃんも飽きちゃったみたいです。いえいえ、インタビューなんて受けたことなかったからうまく話せたか心配だわ。
……あ、そういえば、あそこのうちの息子さん、ここ最近ずっと見ていないけど、あなたなにか知ってる?
インタビュー途中で美咲さんが取り乱したことで、残念ながらインタビューは一時中断となりました。
美咲さんは興奮状態だったため、私は頭を冷やしてくると告げて家の外にでました。
突然ハイになって話したり怒り出したり、明らかに情緒不安定な様子が見られました。
私は正直、ホッとしていました。あの家の中の匂いが尋常ではないからです。
体に染み込みそうなほどの匂いから解放され、ようやく新鮮な空気を吸うことができました。
美咲さんは私が『死ね』と言ったと激怒していましたが、録音データを確認してもそのような事実はありません。
美咲さん家の周りを取材がてら見て回っていると、
犬を散歩した六十代ほどのご婦人Oさんに出会いインタビューをすることになりました。
以下が録音データを文字に起こしたものです。
あの家の若夫婦……?正直、ご近所の評判は最悪よ。
あそこに家を建てたのは、三年くらい前かしら。
この辺りはコンビニへも車で十五分くらいかかるし、土地の値段も安いのよ。
だから、二十歳そこそこで家を建てる人も多いの。旦那さんの方は中学を卒業してからすぐ働きに出たみたいだしね。
それで話を戻すけど、あの家、自治会費を払わないくせにゴミステーションにごみを捨てるのよ。
生ごみを荒らされないようにカラス対策用のネットを買うのも住人が払う自治会費で賄っているし、順番にゴミステーションの掃除もするの。
それを一切せずに、ゴミだけ捨てるなんてズルいでしょう?
だから、町内会の班長が何度も徴収に行ったんだけど門前払いでね。挙句の果てに旦那さんのほうが『グダグダいってんじゃねぇよ!』って逆切れしたらしいの。
旦那さんの方は人相も悪いし、腕とか足に刺青……、えっとタトゥーっていうんでしたっけ?ああいうのを入れてるからみんな怖がって、それからはなにも言えなくなっちゃって。
奥さんも旦那さんにはなにも言えないっていう感じで……。
みんな困ってたんですよ。
でもね、昨年に入ってすぐ……旦那さんが亡くなる三か月くらい前からちょっと様子がおかしくなって。
家の周りに有刺鉄線を張り出して。
私が散歩に行くたびに、家の外に立ってなにかを警戒するみたいにキョロキョロしてました。
真冬になにをするわけでもなく直立不動で立っているなんておかしいでしょう?
家のそばを通りかかったとき、「こんにちは」って挨拶したんですよ。
内心は無視したかったですけど、それは大人だからね。でも、旦那さん私が全く見えていなかったんです。
ギラギラした血走った眼でブツブツうわ言のように『来るな来るな来るな来るな』って呟いてたんです。
最初は私に言ってるんだって思いましたけど、そうじゃなくて。
え、どういうことかって?私にもわかりませんよぉ。
ただ見えない敵と戦うみたいでしたよ。
その時の顔が、どうにも忘れられなくてね。
元々細身な方だったんですけど、もう骨と皮だけの骸骨みたいな姿になっちゃってて。
顔は真っ白で唇はヒビ切れてガサガサでした。
でもね、数秒後には変な笑い方してて……。
目を大きく見開いて驚いたような顔をしてるんだけど、口元は笑ってるのよ。
もう誰かに操られてるみたいだったわぁ。
正直それを見て……精神に支障をきたしているのかもしれないって思いました。
ほら、今は心の病気ってよくあることでしょう?
でもなんか旦那さんのそのときの様子は常軌を逸しているっていうか……●気の沙汰っていうか……。
ちょっとうまく言葉では言い表せないんですけど、今思えば相当追い詰められていたんだろうなって。
なにに?それは私にも分からないんですけどね。でもね、とにかくおかしかったんですよ。
私以外にも見た人がたくさんいて、怖いよねって噂してたんです。
その三か月後、山の中で自殺なさったでしょう?
だから、ああやっぱりって妙に納得しちゃって。
いまだに自治会費は払ってもらってませんけど、もう諦めました。まだ若いのに旦那さんを亡くした奥さんが不憫だから……。
でも、最近彼女が出すゴミ……なんか生臭いのよね。でも、開けてみるわけにもいかないし見て見ぬふりよ。
それにね、ここだけの話、奥さんもちょっと前からおかしいんですよ。
え、聞きたい……?家族葬だったんですけど、私もご近所のよしみで旦那さんのお葬式に行ったんですよ。
可哀想に憔悴しきっててね。涙を流す奥さんの姿を見るのは辛かったです。
なのに『私に死ねって言ったな……!?誰だよ!?』って突然式の最中に大騒ぎを初めて。
まあ、旦那さんを自死で亡くしたわけだから混乱して誰かに責任を押し付けたくなる気持ちも分からなくはないけど……。
でもね、それだけじゃなくて。
喪主の挨拶で椅子に座る参列者の前で……
あっ、これ誰が話したかちゃんと分からないようにしてくださいね!年金暮らしなのに、慰謝料を請求されたりしたら困りますから。
……ええ、分かりました。それで彼女……突然スカートのファスナーを開けたかと思ったら、勢いよく全部脱いじゃったんです。ええ、もちろん。下着もストッキングも全て一瞬で。斎場がシンッと水を打ったように静まる中で、下半身を丸出しにして奥さん、心底嬉しそうな笑顔を浮かべていたんです。
ほんの数秒後、奥さんは正気に戻ったのか絶叫して下半身を必死に隠していました。
すぐに奥さんのご両親が走って行って奥さんは引きずられるように奥へ引っ込んでしまいました。
可哀想にお子さんも泣いていてね……。
私たちも見てはいけないものを見せられて、その場にいる全員が凍り付きましたよ。
……あっ、太郎ちゃん、ごめんね。お散歩途中だったもんね。
すみません、さすがに太郎ちゃんも飽きちゃったみたいです。いえいえ、インタビューなんて受けたことなかったからうまく話せたか心配だわ。
……あ、そういえば、あそこのうちの息子さん、ここ最近ずっと見ていないけど、あなたなにか知ってる?

