時刻は、午後5時30分をすぎました。「夕刊ラジオ」火曜日担当パーソナリティのマオです。
 毎週火曜日のこの時間は、恒例の「電話中継リポート」のコーナーです。
 さあ、リポーターのひまりちゃんは、どこからリポートしてくれるんでしょうか? さっそく呼んでみましょう!
 ひまりちゃーん!

「はーい! 私は、今、地元で有名な八幡神社に来ています」

 神社?

「はい、そうですよ。マオさん、どうかしましたか?」

 いや、最近市内で色んな噂があって、ひまりちゃんが危険な目に遭わないか心配しちゃって……。

「ここは、その噂になっている神社とは全然違って、集落の中にある八幡神社ですので安心してください」

 今、神社に一人? 周りにスタッフはいる?

「ははは。いつも中継リポートで現地に行くのは、私一人ですよ。だから、スタッフはいません」

 ホントに大丈夫?

「大丈夫です。ただ、インタビューする予定のゲストがまだここに来ていないんです」

 そうなんだ。

「はい。来週、この神社では伝統の左義長まつりが開かれるので、まつり保存会の方にその魅力を伝えてもらおうと思っていますが、いないので、……どうしようかな?」

 ひまりちゃん。その神社は大きいの?

「はい。調べたところ境内は500平方メートルあるそうで、地方の神社としては大きいですね。ちょっと中に入ってリポートしていきますね」

 じゃあ、気を付けてね。

「はい。日が暮れて真っ暗ですが、鳥居をくぐると、立派な社務所が見えてきます。そして、参道を挟んだ向かいには、キレイな花手水があります。そして、その先に進むと、あ! これは、土俵がありますね」

 土俵?

「そうなんです。この神社は毎年、地域の方たちが相撲を奉納することで知られています」

 へえー。

「さらに、拝殿を越えて、本殿前には、え? えぇ〜!」

 ひまりちゃん、どうしたの?

「何か供えてあります。何これ? 気持ち悪い。うーん、肉片のような……」

 肉? 生肉? もう、やめて! ひまりちゃん、神社から逃げて! 今すぐよ。

「逃げるんですか……?」

 いいから、早く!

「え、あ、……」

 もしもし、ひまりちゃん! ひまりちゃん!

「キャー! あぁ、うぐっ。ガサガサ!」

 ひまりちゃーん! 返事して。
 もしもし、もしもし。返事してよ!

「ガサガサ、ガサガサ」

 中継用の携帯電話が地面に落ちているようです。今、スタッフが現地に向かっています。
 ひまりちゃん、すぐにスタッフがいくからね! 聞こえてる?
 ん?
 まだ、何か聞こえますね……。小声だけど……。

「ガサガサ、(ああ、この娘、若くていいな)ガサガサ」

 男の声がします! 大変な中継になってしまいました。

「ガサガサガサガサ(ウフ。いつもどおり、私はとどめまでで終わり。あとはえらいさんのあなたにあげるね)(いつも悪いな。あとは家でやるよ)ガサガサガサガサ」

 男だけじゃなくて、女もいる模様です!
 この声は、まさか! 嘘嘘嘘嘘嘘。嘘だ!
 ……取り乱してすいません。このまま中継を続けます。まだ、何か聞こえます。

「ガサガサガサガサ(あ、これ、ヤバッ! ちょっと待って……)ガサガサ」

 あれ? 一体どうしたんでしょうか?

「(次はあんただよ)バキバキバキ! プーッ、プーッ、プーッ」(了)