☆二度と会わない君へ


 君と夢の中で、なにかから逃げた今朝は
 もう霧の中に消えてしまったみたいに
 ほとんどの光景を忘れてしまったけど、
 君の手の感触はなぜか残ったままだよ。

 夢でしか会うことができない
 少女からちっとも成長しない君は
 通り過ぎ去る日々とは無縁のままで
 何も知らないあどけなさのまま、
 僕に優しく微笑む。

 取り戻せない日々は、
 鈍感な過去を消し去っていくけど、
 僕らはとっくに大人になってしまったよ。

 伝えられなかった思いは、
 見ずに溶けるオブラートのように
 透明になって消えていくよ。

 現実で会えるはずないから、
 君は思い出のままでいいよ。





☆冬色の君が一番好き


 冬が似合う君は最高だね。
 雪が舞う中、手を繋いで
 休日の誰もいない学校へ向かっている。

 君のマフラーのフリンジが風で揺れるたびに
 弱くて美しい生き物に感じるよ。

 
 海風が冷たい坂道を二人で下るのは
 もう慣れてしまったけど、
 強い風が吹くたびに身体を震わせる君を
 そっと温めたくなる。

 「寒いね」って君がそう言うこの世界は
 スノードームの中のように
 粉雪が優しく舞っているから、
 僕はそっと、そんな君を守りたいと思った。



 
☆すべてが君だった日々を補う接着剤をください


 カフェの中でゆっくりと抱いた君への思いは、
 離れ離れの大好きな君にはきっと届いていない。

 冷めかけたコーヒーと、
 読みかけの文庫は半分、放ったらかされたままで、
 曇り空を映し出した銀色の朝の街並みを
 ぼんやりと眺め、ビルに吸い込まれていく
 人々を目で追った。

 夏色だったあのとききの君とは、
 仕方なく別れたけど、
 心の隙間を狙うように、
 君との思い出がいつも入り込むのはなぜだろう。

 あと5分でまたつまらない日常が始まるから、
 水をかけあって、はしゃいだあの日を
 一旦、忘れるために
 残りのコーヒーをすべて飲み干した。






☆また沢山、画像データ化しようね


 一方通行の揺れる気持ちを
 ガラスのように粉々にしてほしい。

 都会へ行くいつもの特急は雪で遅れていて、
 駅を離れられないまま、時間は簡単に過ぎる。

 iPhoneで君との思い出を親指で辿っても
 時間だけ過ぎていく。

 冷たいドアノブをそっと握るように
 孤独で凍えそうだよ。

 早く君のところへ行きたいのにじれったくて。
 雪はゆっくりと降り積もっていく。
 「ごめん、遅れそう」とメッセージを送ると
 すぐに既読がついた。




☆虚しいのは君の所為だよ


 棚上げにしていた問題を難なくこなせるような
 強い力がほしいと君は言っていた。
 ふと、そんなことを思い出すのは、
 きっと、今歩いている海まで続く坂道に
 魔法がかけられているからかもしれない。

 そんなに強がらなくていいよって返したけれど、
 君はそのときは納得してくれなかった。
 それでケンカをしたのは君の所為だよ。

 不貞腐れて、簡単に納得してくれなかったよね。

 ソーダ水の無数の泡が空気へかえるように
 馴染める君と話し合いたいけど、
 まだ、無視し続けているメッセージを
 返す気分にならないや。

 いいよ、別に君なんて勝手にやればいいよ。
 そう言い返したいけど、
 戻りたいから、そんなことは言えないな。




☆きっとお互いに大人になった


 山手線から見る冬の夜の東京は
 東京タワーを中心に放射状に広がっていて、
 深海のイルミネーションみたいに綺麗だ。

 これから渋谷で飲む約束をしているのに、
 相手を忘れてしまいそうになるよ。

 思い出の隅に隠したはずの
 君の優しさを思い出したのは、
 きっと、都会の中の孤独の所為だから、
 今日は忘れるくらい飲むのは絶対にやめたい。

 君はきっと今頃、北の果ての街で
 他の誰かの腕の中で
 流氷が流れ着くのを待っているんだ。

 きっと、あのとき、まだ制服を着たままで、
 愛とか人生とか何もわからなかった時に
 交わした約束のことなんか、
 忘れて大人しく暮らしているはずだよね。

 だから忘れる努力を今日もするよ。




☆スタバの中心で闇を消し去る決意をする


 星屑を水に混ぜてしまうようにぐちゃぐちゃの気持ちを
 iPhoneで書き殴っている。

 すべてが上手くいかなくて、嫌な気分だから、
 スタバで期間限定のフラペチーノを
 ご褒美に飲んでみたけど、
 そんなことだけで、機嫌なんて治らなかった。

 マイクで何かを叫んでも、
 退屈な社会や、腐った悪魔が変わるわけじゃないから、
 そっと、カラフルでポップな
 グミの海に潜り込んで、引きこもりたい。

 鏡の世界は光が乏しいモノクロで
 絶望壁の王様があぐらをかいているから、
 冬の静かな夜くらい、
 電球色でシックなスタバの店内から、
 そっと、右手を伸ばして、
 手のひらから光を送って、
 すべてを吹き飛ばせたらいいのに。




☆すれ違いの日々はもう止めにしたい


 君の言葉を何度も思い出すのは
 君にもらったシルバーリングを
 ぼんやりと眺めているからだよ。

 真冬の港は珍しく穏やかで、
 少しだけ暖かい今日は、
 意図的に世界を変えられそうなくらい、
 憂鬱を溶かしてくれそうだよ。

 すれ違いの日々だから、
 君が隣にいないままゆっくりしているよ。

 潮風をいっぱい吸い込んだあと、
 地平線が霞んでいる遠くの橋と
 無数の船舶をiPhoneで写した。

 画像を君とのトークに貼り付けたあと、
 やけくそでハートを連打して送信した。



☆グチャグチャな気持ちを混ぜたい


 無数の言葉をミキサーにかけて、
 君の気持ちを(おもんばか)って、
 手帳に思ったことを綴るよ。

 コーヒーにクリープを入れて渦を作り、
 混ぜずに馴染んでいくさまを
 ゆっくり眺めて3秒、心の中で数えた。

 上手く寝付けなかったのは君の所為だよ。
 
 寝不足の頭で君から一方的に言われたことが
 グルグル頭の中を回っているから、
 君に言いたい。
 時間返して、と。

 コーヒーを飲んでも気分は治らないし、
 世界はありきたりに過ぎていく。

 きっと、そのうち忘れるよって、
 誰かにそっと言ってほしいな。





☆こなしていこう

 
 冬の雨が街を冷たい色に染めている。
 この街に来て、もうだいぶ経ったけど、
 人との距離感に敏感な私には息苦しくて、
 避難先を求めるようにスタバに入って、
 心を落ち着かせようと努力する。

 指図と嫌味で作られたクッキーを焦がすように
 自力で自由を掴むことをしたい。

 だけど、今はそんなことから程遠いから、
 今まで夢だと思い込んでいた
 今いる世界の中でこなすしかないことは
 わかっているんだよ。

 フラペチーノを飲んで
 明日の世界をきれいにする力にしよう。




☆別にこんな偶然なんて、いらない


 何もかも失いたくなかった。
 あのときはすでに通り過ぎていたはずだった。
 
 駅の人混みは今日も頭をパンクさせるくらい、
 忙しくて、悠長に次の休みのことも考えられない。

 透明なあなたの声を
 もう聴くことはないと思い込んでいた。

 偶然だねって、不意に言われて、
 戸惑いが胸を駆け巡り、
 別れたときの言葉がフラッシュバックする。

 チョコを湯煎でゆっくりドロドロにするように、
 苦い思い出も一緒に蘇った。

 おしゃべりなあなたは
 いつものように自分のことを話始め、
 そんなところが好きでもあり、
 嫌いになったところだったのを思い出した。

 こんな場所で会った悪運を認めて、
 少しだけ足を止めよう。

 もう、好きじゃないけれど憎めないから。





☆朝日が昨日の決意をそっと応援している気がした


 スニーカーの紐を締め直して、
 昨日の決意をふと思い出した。

 早朝の海の前を走る気分を友達にして、
 今日から何もかも違う世界にするために
 痛手を負った過去はきっぱり捨てることにした。

 君から受け取った気持ちを
 思い出すたびに切なさで胸が痛くなるから、
 手紙のほとんどは昨日、ハサミで切り刻んだ。

 ホットミルクに強さをゆっくり混ぜるように
 痛かった君との青春はいい思い出に変えていこう。

 また、走り始めると冷たい風と朝日がそっと、
 おはようを言ってくれた気がしたから、
 誰もいない海岸でそっと、
 「おはよう」とぼそっと囁いた。




☆あと少しでこの街ともさよならできる


 特急が猛スピードで通り過ぎていく。
 それを踏切から、過ぎ去るのをそっと待つ。
 特急の窓の中の世界はスーツ姿の人や
 頬杖をついて外を眺めている人たちばかりで、
 静か過ぎる地元とは別世界に見える。

 別に世界を変えたいわけじゃないけど、
 近いうちになにもないこの街を出ていく。
 
 きっと、世界はコーヒーをこぼしたときみたいに
 退屈に溢れているのかもしれないけど、
 何かを見つけたい。

 別になにもないのはわかっている。
 だから、春に少しだけ期待している
 自分が少しだけ嫌になる。




☆今日も満たして


 夏が恋しくなるのは、
 君と一緒に眺めた海がきれいだったからで、
 そのとき話した何気ない会話は今となっては、
 ジュエリーボックスのなかで安く輝く
 ピンクゴールドのアクセサリーを眺めるくらい
 満たされているよ。

 今日、これから会う君は
 新しいネックレスのこと気づいてくれるかな。
 
 首元につけた星型に願いを込める。
 これから始まる君との一日を
 今日も何気ない思い出に帰るための
 儀式なんてないけど、
 しっかり楽しむ呪文を唱えよう。




☆満ち足りた日々なのは君がいるおかげだよ



 本当はすべての気持ちを心地よいテラス席に座り、
 強い日差しのなかで君と溶ける話がしたかった。

 すべてが凍りついたこんな真冬じゃ、
 エアコンで作られた暖かい空間で
 君とときが流れるのを過ごすだけで十分さ。
 テーブルに置いたままのココアのホイップが
 溶けていく中で幸せについて、
 君と語るのは悪くない。

 窓の外は雪がちらついていて、
 歩く人は力を入れて歩いている。

 「悩みのすべてを置いていきたい」と言って、
 君は微笑みココアを一口飲んだ。
 雪が消える頃には、
 君のことをもっと知れるかな。




☆冷静に考えても、君は嘘つきだ


 あのときの柔らかい約束は消えて、
 日常から君はいなくなった。

 キッチンの引き出しにはペアで残された
 スプーンはそのままになっている。
 
 マグカップを一つ取り出して、
 インスタントココアをお湯に溶かしていく。

 世界ってなんで平坦なんだろうって、
 思いついたことを言う相手がいないのが
 リアルな虚無感を作り上げている。

 君の決意や約束はすべての嘘だったことを
 今は、しっかり理解できるよ。

 一口、甘さをしっかりと感じて、
 また冷静になった。

 嘘つき。




☆雪見コーヒーフロート


 コーヒーフロートを真冬に飲む、
 私はきっと変わり者だと思う。

 カフェの窓から見える、凍ったビル街は
 銀色を反射し、休日でゆっくりとしている。
 白くなった電線、街路樹、標識のポール。
 すべてが幻想的なのは一瞬だろうね。

 昨夜の星屑が残した祈りを集めるように
 今ある悩みをすべて忘れてしまおう。

 苦みは少しくらいある方が
 味わえるよね? と誰かに言って、甘えたい。

 明日にはまた、なにもないかのように
 振る舞えると思うから、
 弱気を日曜日のうちにすべて溶かしてしまおう。

 バニラを一口含むと冷たさで知覚過敏がした。





☆傷ついた君を救いたい


 傷ついた君の心を癒やしたいから、
 そっと抱きしめて、時を止めた。
 降り続く雪は君の髪にそっと積もり、
 簡単に水滴になって、白さは消えていく。

 いくつになっても君のことを
 ずっと見ていたいから、今は落ち着けよ。

 肩を震わせて泣きはじめた君は
 はぐれて、孤独なペンギンみたいに
 怖さをすべて知っているように感じる。

 どんな絶望もすべてを熱を加えて、
 キャンディを溶かしてもう一度作り直そう。
 楽しさをたくさん、作っていこう。

 だから、ずっと、このままでいようね。





☆たくさん、思い出を作ろうね


 もう離さないって約束をした昨日の
 高ぶる気持ちは少しだけ落ち着いて、
 君と手を繋いで朝の街を歩いている。

 雨上がりで濡れた街は
 黄色い朝日を反射していて、
 冷たさを忘れられる。

 カフェだったビルの空きテナントの前を
 ゆっくり通り過ぎる。
 君との話はここから始まったのにね。

 ガラス越しに薄暗い店舗の奥を見つめて、
 座った奥の席だった場所と君の声を思い出した。

 寂しさは終わりを告げて、
 君の手のあたたかさを左手で感じ取る。

 もう、思い出の中の世界ができたんだろうねって、
 君はそっと言った。




☆君の決意は最高に脆い


 泣かない決意をしたけど、
 結局、ないちゃったねって、
 君はそう言って弱く笑ったから、
 君の頭をそっと撫でた。

 明日なんて誰にもわからないから、
 月がいきなり軌道を離れて、
 地球から遠くなっても
 きっと、憂鬱なまま、
 学校や社会に行くのを
 多くの人はやめないだろうね。

 だから、泣いてもいいよ。
 そんな決意なんて捨ててしまって、
 春が遠い北の果てまで行って、
 手を繋いで気持ちがおさまるまで
 踊ろう。




☆忙しい日々は立ち止まる余裕を与えてくれない


 つまらない世界から、さよならするために
 イヤフォンでお気に入りの曲を流している。
 
 今日はやけに冷え込んでいて、
 駅まで向かういつもの道は
 何もかも霜が降りて凍りついているから、
 少しだけ幻想的に感じる。

 このまま何もかも上手くいけばいいって思うけど、
 陸へ向かう流氷の上で身体を休めている
 アザラシのように
 きっと上手くはいかないだろう。

 公園に残っている誰かが作った雪だるまは
 溶けかけていて、
 落ちかけている枝の手を、
 そっと直してあげたいけど、
 ごめんね、時間も心の余裕もないんだ。って
 心の中でつぶやいて、
 今日のすべてをほっぽり出したくなった。




☆君は元気ですか


 コーヒーを一口飲んで、
 iPhoneで今日の予定を確認する。

 果たしたい約束を果たそうとした過去を
 ふと思い出すと、
 青くて切ない気持ちになった。

 君と手を繋ぐことだけで精一杯だった。

 幼い二人はすれ違い、
 成長を一緒に過ごすことができなかった。

 FURLAの腕時計をそっと見ても、
 もう、諦めがついているのは明らかだ。

 マシュマロを溶かすように
 しっかりしない気持ちを焦がし、
 君が今も元気だったらいいなって、
 ふと、思った。




☆君との未来は、きっと、明るい


 君の手を繋ぐのは当たり前になって、
 君の歩幅に慣れはじめた。

 これから君と通過する予定の未来は
 無数の選択肢が用意されている。

 出会いは唐突だったけど、
 こんなに落ち着いて、
 気を許せるのは不思議だね。

 繋いだ手を離さないでほしい。
 このまま光が射し込む現実の隙間に連れていって。

 ミルクに潰したイチゴを混ぜるように
 君の甘さを酸味のすべてを受け止めたいよ。

 君と一緒に楽しい時間をたくさん作って、
 つらい毎日を変えよう。

 すべてを懐かしく思えるように暖めよう。
 もうすぐ、春になるね。




☆君のこと、忘れられないよ


 深く傷ついた日々が懐かしく感じるほど、
 時間が経ちすぎてしまったね。
 君の記憶はもう断片的で、
 夢を詰め合わせたキャンディみたいに
 気がつくと溶けてしまった。

 泣いていた日々と一緒に涙は枯れて、
 すでに新しい日常は始まっている。
 未来に呪文をかけた、あのときは消失したんだね。

 世界を恨むこともあったなって、
 遠くなった切なさがたまに愛おしくなる。

 だから、そろそろ季節外れになりそうな
 スノードームをそっと振って、
 吹雪を起こしたら、
 気分が変わるかなって思ったけど、
 君のこと、忘れられないや。





☆逃避行はすでに思い出


 あのときの君の声をふと思い出して、
 ぼんやりとあの日の情景を脳内で再生し始めた。
 ホームで次の電車を待ちながら。

 雪で乱れたダイヤはきっと知恵の輪みたいで、
 遅れはどんどん拡大していると言っている。

 君と真夜中、駆け抜けた薄暗い商店街、
 手と手をあわせて二人の世界を作ったね。

 錆びついたシャッター、
 昭和のままの看板デザイン、
 白くて弱いすずらん街灯、
 君といても、すべてが寂しく感じたよ。

 あのあとすれ違う運命が起きるなんて、
 あの夜は微塵も思わず、
 君とこのまま現実を逃げたいと思ってたのに。

 今は、指に別な人と誓った
 ダイヤのシルバーリングをつけているよ。




☆ドキドキを君と共有したい

 
 待ち合わせの時間より、少しだけ早く着いた。

 LINEで催促はしないで
 そのまま君を待つことにした。

 高鳴る胸はこれからの時間に
 冷静にワクワクしているだけだよ。

 君はリンゴをかじるあどけない少年のように
 優しさと純粋さで満たされているから好きだよ。

 なぜかわからないけど、
 弾む会話は宇宙の膨張みたいに
 いつも無限に続く。

 君と出逢ってから、単純に楽しくて、
 苦しい懐かしさなんて忘れてしまう。

 思い出をたくさん作ろうねって考えていたら、
 君に声をかけられた。




☆すれ違いを溶かしたい


 すれ違う君とのLINEは噛み合わなくて、
 お互いに余裕がなくて、
 ゆっくり話すことが難しい。

 快速待つホームで既読をつけ、願いを込める。
 まだ、私のことを覚えていてほしいと。

 少し落ち着いたら、
 君と反対の電車で海を見に行きたい。

 言葉を紡いで、流氷で覆われた心を溶かして、
 日常を君と作れますようにと、
 黄色い月面で誓いを立てたいね。

 目覚めた瞬間、重なる永遠、
 君とそっと生き続けたい。




☆雪が幻を癒やしてくれたらいいのに


 手のひらを灰色の空に向けて、
 降り始めた雪を受け止めてみる。
 誰もいない公園で、冷たさを感じる。

 綿雪が手のひらに乗った瞬間、
 白はすぐに透明になった。

 こないだの上手くいかなかった恋の傷は
 まだ癒えないから、
 雪の感触を、そっとひとりで楽しみたい。

 受け入れられなかった事実と
 緑黄色や差しをミキサーでかきまわし、
 それを一気飲みして、
 健やかになりましょうね。

 雪の降りがだんだん強くなるほど、
 自分が世界の中心に思える。

 自意識過剰でも、たまにはいいでしょ?
 傷が癒えるなら。




☆過去になった君は今、何しているんだろう



 懐かしさを胸にしまいこんで、
 そっとため息をついたけど、憂鬱なままで。
 熱いコーヒーはまだ冷める気配はなくて、
 ぼんやり、朝の街をカフェの窓から眺めるよ。

 君に伝えたかった気持ちは
 黒く濡れたアスファルトが乾くように
 いつの間にか消えてしまった。

 組み合わないぐちゃぐちゃのパズルみたいに
 色と形をあわせることなんてできなかった。

 切なさはもう、色褪せてしまったから、
 君のことなんてもう必要ないよ。

 君との世界はすでに終わったけど、
 今も君がどこかで上手く生きていますように。




☆いつか忘れそうになったら、最初の頃のこと、思い出すよ

 
 
 いつの間にか大人になってしまった。
 雨の中で愛を誓ったときよりも
 ロマンスをたくさん袋の中に詰め込んだね。

 君と過ごす時間はすごく貴重だから、
 空港で空飛ぶクジラを待つように
 ゆっくり過ごす時間を作りたい。

 チョコレートに生クリームを混ぜて、
 美味しくふわふわにするように、
 大切に扱ってね。

 もし、君との言葉が噛み合わなくなったら、
 あのとき交わした3秒間のキスを
 しっかりと思い出して、
 すべて許してあげるよ。




☆君との次はもうない



 君の気持ちを保存する方法がないまま、
 涙はとっくに枯れ果てて日常をこなす。

 月の上のシーソーに乗り、はしゃぐような
 たくさん紡いできた甘い記憶は
 ミルクティーのなかにすべて溶けてしまった。

 伝えたかった気持ちをすべて空に戻して、
 また一から指を折り直して新しい人を探そう。

 君の棘を磨くような優しさを持つのは無理だった。
 楽しい気持ちだけで過ごせたら最高だったのに。
 片腕が千切れたテディベアの腕を縫うような
 仲直りはもうないかもね。

 今まで、ありがとう。
 夢で会う程度でいいよ。





☆絶望を逃避したい


 佐藤をバスタブに入れてかき混ぜるように
 不毛な世界の中に慣れきってしまったから、
 自分の感覚が甘くてよくわからなくなった。

 ミルクティーを一口飲んで落ち着こうとしても、
 頭はぼんやり宙に浮いたままだね。

 自分の機嫌がわからなくなるのは
 キケンなサインだってことはわかるけど、
 生活のために疲れきるまで進むよ。

 絶望するのが癖になり始めているから、
 クリアになるまで意識をオキシ漬けして、
 浴びたての真っ黒でうす汚い言葉の棘を
 すべて、洗い流したい。

 だから、今を楽しむのを手を抜かないよ。
 ミルクティーの甘さと香りをしっかり味わおう。




☆たまに息の仕方を忘れる


 回りきれないショッピングモールの隅で
 ひとりでため息をひとつ吐いてみたけど、
 動機は簡単に消えない。
 
 楽しい世界の端っこで膝を抱えて、
 ひとりごとをぼそぼそと
 呪文のように唱えているような
 孤独とやるせなさが胸を締め付けていく。

 自分が世界とは異質だってことは
 とっくの昔に気がついていたけれど、
 ネイルを塗ったときのムラ程度だと思っていた。

 人混みは酔いやすいほうだから、
 そっと息を吸い込み、
 鼓動をそっと冷却するよ。






☆たまに君を思い出す


 夜の青い街を反射する濡れたアスファルトが
 冷たさと寂しさを一緒になっているみたいで
 忘れかけていた君との苦い思いと切なさを
 ふと思い出して、
 まだお互いに若かったなって、ため息をつく。

 君が大好きだった曲をSpotifyで流しながら、
 傘をさして雨音もついでに友達にして、ゆっくり歩くよ。

 君との恋が揺れた日は上に積み上げた
 カラフルな積み木が崩れるようだったな。

 別にもう君のことなんて、
 すべて消してやるって思ったけど、
 未だに君を思い出すのは、
 それだけ、思い出が重すぎたからなんだよ。





☆君のことが気になった



 自転車で朝の冷たい空気を切り裂いて、
 いつものコンビニの角を曲がった。

 今朝の夢の中で幼い君と二人で
 手を繋ぎぼんやり青色の世界を見てた。

 商店街はまだ眠っていて、
 錆びたシャッターの前を
 駅へ向かう人達は早足で通り過ぎていく。

 冬が終わりそうな匂いをいっぱい吸い込み、
 今日もくだらない世の中に潜り込もう。

 夢の残りが頭の中では続いて、
 かなり前に伝えたかった気持ちが苦いや。

 今、君とはもう会うことはないんだよ。

 過去を思い出すのは
 ハートのチョコを口のなかで溶かすのと変わらない。

 もう一度、恋愛抜きで会って
 君の優しさに触れてみたいなって空想した。




☆早く月日が経てばいいのに


 口の中でレモン味のキャンディを
 ゆっくり溶かして一人の時間を作る。
 朝のホームは憂鬱で満たされているから、
 少しでも上機嫌でいるために。

 懐かしさをポケットにしまうように
 振られた苦さを忘れよう。
 失恋しても時間は平等に流れているから。
 
 墜落して浜辺に埋もれた
 星屑に願いをかけるように、
 簡単に思いも消えてしまえばいいのに。

 轟音をたてて重そうな貨物列車が
 私の前を通過したから、
 キャンディをかじって粉々にした。




☆あのね、最近



 ソーダ水の前で突っ伏して、
 顔を上げてグラス越しに君を見る。
 泡の中で拡大された君はそっと微笑んだ。
 
 あのね、最近。
 私自身を保てなくなっているの。

 レモンをひとつ混ぜるように
 酸味のある日々を過ごしたいね。
 そう君に言いたいけど、言えないな。

 コーヒーフロートのバニラみたいに
 ゆっくり気持ちを溶かして
 仲直りの魔法をかけよう。

 機嫌をなおすには君の言葉が必要だよ。
 必死になっている私をバカにしないでね。

 そうとはしらずにそっと頭を撫でられたから、
 モヤモヤを打ち消して、君のことを許そうかな。





☆夜は始まったばかり


 ファジーネーブルにそっと口づけする君は
 始まったばかりの夜の所為か余計にかわいい。
 耳元で反射するピアスが
 君が笑うたびに残像を作っている。

 ラムコークを一口飲んで笑いを
 甘い香りでそっと落ち着かせる。
 だけど、君との世界は胸が弾むよ。

 切り揃えられたショートボブの毛先が揺れるたび、
 あどけない表情で僕を包もうとする。
 止まらなくなった笑みを浮かべ続け、
 君の根底を穏やかに吐き出すとギャップがあるね。
 
 君は意外に楽しいことが好きなんだね。
 普段は真面目なふりしてる癖に。
 どうで、夜はまだ始まったばかりだから、
 君の深いところを探りたい。




☆忘れないから、安い愛を押し売りしてほしい
 

 殻に閉じ込めた気持ちを開放するように
 ゆっくり、りんごの皮を剥いていく。
 途切れた螺旋の皮は床に落ちて、
 足元に冷たく触れても思いは変わらない。

 君と離れた傷は癒えつつあるけど、
 寂しさや青春はもう戻らないから、
 愛を誓ったあの日を砕き、
 新しい日々を作り直すしかなさそうだね。

 大好きだった小説をあとで読もう。
 朝食代わりのりんごをつまみながら。
 夜の中、逃避行を繰り返す短編集を。

 ナイフで君を傷つけるように
 イライラをできるだけ抑えて、
 君のことを忘れよう。

 こんなことで涙があふれるのは、
 全部、君の所為だよ。





☆いちごミルク、一緒に飲もう



 懐かしさと切なさをミキサーで
 いちごとグチャグチャにして、
 キラキラのいちごミルクをグラスに移して、
 一緒に暮らし始めて間もない君にそっとあげる。

 君との思い出は苦みもあるけど、
 大体はジュエリーケースに似合うものになったね。

 初めて手を繋いだ日、
 自撮りしてはしゃいだ日、
 浜辺で抱きしめられた日、
 すべてが眩しいよ。

 夏に君とひまり畑のなかで、
 すべてを受け入れる覚悟をしたんだ。
 ロマンチストな君のことをね。

 さあ、できたから一緒に飲みましょう。





☆ずっと忘れないよ


 砂浜から見る海は昼の太陽で
 白くてキラキラ輝いている。

 君と手を繋いだまま、
 何も語らずにゆっくりと時間を溶かしている。
 あたたかいままの気持ちは
 きっと、これからも
 ずっと、変わらないんだろうな。

 愛にそっと生クリームを添えるように
 特別な気持ちを忘れないよ。

 君は不意にその場に立ち止まったから、
 君を見ると柔らかく微笑んで、
 そっと、髪を撫でてくれた。






☆もう、春なのに


 少しだけ暖かくなった風を受けながら、
 ひどく振られた今日も日常をしっかり作るよ。

 もうここまで来たら戻れないね。
 そう言われたのが明暗順応する。
 いつもの踏切で乗るはずだった
 電車が目の前を通過していった。

 世界が急に狭く感じるのはきっと、
 不意に上手くいかない悩みが消えたからだ。

 思い出のかけらをそっと、
 マシュマロの中に詰め込んで、
 気が済むまで炙り続けたい。

 次の休みになったら、
 目的地を決めずにどこかに行こう。
 もう、春だから。








【初出】

 蜃気羊X(@shinkiyoh)
 https://twitter.com/shinkiyoh
 2023.1.3~2.28