俺には好きな女子がいた。

 西野莉音(にしの りおん)という名前の彼女は、どこの学校にも一人はいるようなアイドル的存在だった。クラスの男子は9割ほどが彼女のことを好きだった。

 でかいだけしか取り柄の無い俺も、例外なく彼女のことを好きになった。妄想の中で彼女と何度もデートしたし、最後にはキスをする終わり方だった。

 莉音さんをオカズにしたことはない。だって、俺にとって彼女とは純愛だったからだ。妄想でも彼女を汚したくなかった。

 彼女の存在を感じられるだけでいい。彼女が笑顔でいてくれれば、それだけでいい。本気でそう思っていた。

 だけど、西野莉音には残念な一面があった。彼女自身は非常に優等生なのだが、どこか不良に惹かれてしまう性質を持っていた。おそらく育てられた家が厳しいというのもあるのだろう。それもあってか、彼女は明らかにヤバそうな不良から誘われても、ホイホイと付いて行ってしまうところがあった。

 嫌な予感はしていたが、当時の俺は彼女に注意を促せる立場にはなかった。スクールカーストで当時の俺は最底辺。学校のお姫様に話しかけられるわけがない。

 ――そして、俺の懸念通りに事件は起こる。

 ある日になって不良の一人が西野莉音を「パーティー」へと誘った。理由は女の子が足りないからというものだったが、その背景にはもっととんでもないものが潜んでいた。

 主催者である不良の先輩は、地元でイキり散らす典型的な田舎の暴走族だった。体は大人、中身は子供の逆コナン君。そんな奴らが開催するパーティーなんてロクなものじゃない。

 何も知らないクラスのアイドルは、そいつの開いた魔窟のようなパーティーへとわざわざ自分から出向いて行った。飛んで火に入る夏の虫をそのまま体現したような流れ。荒くれ者たちがひしめく中へ美少女が飛び込んでいけば、何が起こるかぐらいバカでも分かる。

 そう、彼女はその先輩とやらに貢ぎ物として献上されたわけだ。

 パーティーの翌日になると、西野莉音と彼女を誘った生徒の席が無くなっていた。誰もそれについては触れなかったが、何が起こったのかは明らかだった。

 ――俺がもっと強ければ、彼女を助けることが出来たかもしれないのに。

 彼女を失い、俺は密かに泣いた。

 不良たちに反撃してみようなんて気まぐれを起こしたのも、自分が強く在りたいという願望がどこかから出てきただけなのかもしれない。理由はどうあれ、殺意の波動に目覚めた俺は学校で誰も逆らえないボスキャラに変わった。

 ここで頂点に立ち続ければ、いつか彼女を見つけることが出来るかもしれない。

 淡い期待をひた隠しにしつつ、俺はお山の大将でいることをあえて選んだ。