「クソ、今日で死ぬかもしれないのかよ!」

 俺は割とマジなテンションで言う。半グレのアジトにカチコミを仕掛けたんだ。負けたら殺されるだろう。暴対法の縛りがない分、今の反社は半グレの方がタチの悪い存在になっている。

 俺も武装して奴らのアジトに来た。金属を流し込んだオープンフィンガーグローブを嵌めて、硬くて軽い鉄パイプを持ってきた。

 死ぬかもしれないと思うと、嫌な寒気が襲ってくる。目の前には喧嘩自慢のバケモノがひしめく建物がある。

 だが、目の前を走っているのは、半グレの脅威など優に超えるバケモノだった。

 大葉キラ――英語で読めばOVER KILLERにも聞こえるその名は、名前負けとは程遠い。

 いつものノースリーブのブラウスにタイトスカートを履いた先生は、やたらといかついベルトに何本もの武器を差していた。その内の特殊警棒を引き抜くと、両手で持って二刀流のまま敵の巣窟へと突っ込んでいく。

「なんだてめえは……ぶわっ!」

 すごみながら出てきた見張り役の半グレが、あっという間に特殊警棒の一撃で鼻を粉砕される。家に手榴弾を投げつけられた上に奇襲攻撃で鼻を折られるんだから相当に悲惨な夜だろう。

 真っ黒なホワイトハウスが一気に物々しい空気になる。あちこちから怒号。舎弟たちよ、頼むから早く応援に駆けつけてくれ。

 だが、宣言通りに半グレのアジトにカチコミをかけた先生は、暴れん坊将軍並みの速度で敵たちを戦闘不能に追いやっていく。思えばこのバケモノに喧嘩を売ったんだよな、俺は。

 後から半グレハウスへと入った俺は、あまりやることがなかった。というのも、ほとんどの敵は無双状態の大葉先生が倒してしまったからだ。

 あちこちで戦闘不能になった半グレたちが呻いている。ある者は腕が反対側へとねじ曲がり、ある者は鎖骨ごと胸の骨を砕かれたのか、心臓発作でも起こしたかのように胸を押さえて苦しそうに呻いている。これだけ大暴れしても死者が一人として出ていないのは逆にすごい。

「ここに偉い人が住んでいるみたいね」

 いかにもボス部屋といった感じで家屋の最奥に白い扉があった。ゲームならボス戦の前にセーブしたいところだが、あいにくこれは現実だ。ここで死ねばやり直しなんてきかない。それでも俺たちはこの扉を開けて先へと進まないといけない。

 俺と先生はアイコンタクトで部屋へと入る。身を低くして、奇襲に備えてゆっくりと中へ入っていく。

「あなたは」

 先に入った先生が驚いた声を出したので、その後について行く。

 部屋の奥には、いかにも悪そうな長身で坊主頭をした筋肉ダルマが立っていて、その横にはどこかで見たことのあるオッサンが立っていた。

 ――誰だっけ?

 俺が記憶を掘り起こしている最中に大葉先生が「教頭……?」と言い出したので、ああそうだこの教頭先生だったと思い出した。

 なんで教頭がこんなところにいるんだよ。そんな思いも知らずに、教頭は不気味な薄笑いを浮かべていた。