インタビュアー:あなたが救助された後、警察はあなたの持ち物からあなたの身元を特定しようとしました。貴方と同姓同名の人間は確かに存在はしました。ですがその方は既に10年前に亡くなっていたのです、生きていれば貴方と同い年ではありますが。

東氏:……。

インタビュアー:飲み込めてきたようですね、この世界にはあなたが存在していなかった。友人や家族が連絡してこないのもそのせいです。あなたは大山さんと異界アルペンを行った結果、あなたがツプサパフチとやらに見出され、この世界へ運ばれてきたのです。

東氏:嘘だ、そんなの嘘に決まってます!では大山は?大山はどうなったのです?

インタビュアー:大山さんはおそらく、頂上に1人で到達した後、自分ではなく東さんが異界へ連れて行かれたことを察したのでしょう、彼は異界へ連れて行かれたあなたの為にあなたのスマートフォンへメールをしてくれました。そこには異界アルペンについて、あなたが異界へ行ってしまったことについて書かれていました。不思議な事にそれら全て貴方が富士山で滑落をした後の日付で送信されていましたので、メールが別の世界から送られたことになりますね。こちらから大山さんへメールを送ることはできませんでしたが。

東氏:ここには、僕の家族も、友人の誰もいないんですか?

インタビュアー:同姓同名の人間がいますが、みんな貴方のことは存じないと、貴方のいた世界とこの世界は同じようで少し違うようです。

東氏:大山の妻は、先にここに来たのでしょうか?

インタビュアー:それについても調査をしましたが、大山さんの奥さんらしき人はも使っていません。大山さんもです。ここには貴方だけが来たのです。

東氏:帰りたい、帰してください。元の世界に帰りたいです。

インタビュアー:あなたを連れてきたのはツプサパフチです。ツプサパフチにその気が無ければ帰ることなどできないでしょう。それに、アレは上へ連れて行くことしかしません。

東氏:どういうことです?ツプサパフチを知っていたのですか?

インタビュアー:東さんがこの世界にやってくるまではツプサパフチなんて妖怪、神、精霊なんてものはいませんでした。アイヌ関連の書籍を調べましたが伝承にも語られていませんでした、我々の世界には元々はいなかったのです。それをあなたが持ち込んだ。あれは外来種なのです。

東氏:私がツプサパフチを持ち込んだ……?

インタビュアー:初めはあなたが運び込まれた静岡の病院近くで、頭が二つある女が目撃されました。最初は「さくらんぼ女」と呼ばれていましたね。そして人が消え始めました。少しずつソレが目撃される範囲が広がっていき、子供が消え、その家族が消え、その家族の知り合いが消えました。今はもう首都圏と中部では外出自粛令が出ています。海外の主要国では日本人の入国禁止令が出ています。

東氏:何を、言っているんです?

インタビュアー:新種の病原菌のようなものですよ。これまでこの世界にはいなかったツプサパフチという怪異に、誰も耐性がない。それを目撃しては魅入られ、上へ連れて行かれる。もはやエレベーターとか、階を移動する順番も関係ありません。ツプサパフチに見つかり、少しでもそれを受け入れて高いところへ上がってしまえば上へ連れて行かれます。この前は息子に通う小学校でも子供が消えました。

東氏:すみません……。

インタビュアー:謝る必要なんかありません。東さんは大山さんに騙されただけですから。あの男はおそらくツプサパフチに利用されているのでしょう。あの男はトムラウシ山でツプサパフチに魅入られ、様々な異界へツプサパフチに取り憑かれた人間を送る役目を知らず知らずにうちに背負わされているのでしょう。初めは妻を異界へ送り、次は東さんを送り、これからも他人を巻き込んで異界へツプサパフチを送り続けるでしょう。

東氏:これから、この世界はどうなってしまうのでしょう。

インタビュアー:スマートフォンのニュースです。見てください、今週は1万人以上行方不明になったそうです。この世界の日本人は三分の二ほどまで減りました。このまま行けば今年中に日本人はこの世界から完全に消え去るでしょう。その後は世界の他の国々です。今はどの国も日本人の入国禁止令を出していますし、噂では海外に住む日本人を収容所に入れて殺処分している国もあるようです。ですが怪異に海や空の隔たりなど関係あるでしょうか?時間の問題だと思われます。
 そうしてこの世界は空っぽになり、文明は死に絶えるでしょうね。

東氏:……ああ。

インタビュアー:ではこの世界が空っぽになればツプサパフチは止まるでしょうか?いいえ、この世界の人間を全て別の異界へ送っているとすれば、同じようなことが起こるでしょう。この世界や東さんのいた世界と同じような世界にツプサパフチが感染し、一気に広がって行く、それの繰り返しです。

東氏:そんな……。

インタビュアー:私はね、あなたがどこからきたのか、あなたの精神状態はまともかどうかを調べる以外にもこの世界の滅びを止めるヒントがないかも突き止めたかった。しかしあなたはただ騙され、何も知らずにこの世界に病原菌を持ち込んだだけでした。

東氏:ごめんなさい……。

インタビュアー:もうインタビューをすることはありません。何度もお話をお伺いしてすみませんでした。東さんは最後までここでゆっくり休んでてください。

東氏:ごめんなさい、本当にすみませんでした……。

インタビュアー:そうだ、真っ暗だった写真、明るくできましたよ。

東氏:え、これって……。

インタビュアー:ツプサパフチって1人じゃないんですね。