琴音視点。
 夏祭りの翌日誠君は死んだ。
 脳死だったそうだ。
 そして、誠君が死んでから今日で半年が経った。
 まだ、現実味はなくて、いつか目の前に現れると願っている。でも、それはないことは知っている。
 琴音はベットに横になったまま窓から見える桜を眺める。
 今でも鮮明に覚えている。
 誠君と初めて会った日、あの時も桜が散っていた。
 当時の私は桜に綺麗なんて感じていなかった。限られた期間しか咲けない桜に慈悲をかけていた。
 でも、今は違う。
 私の目に移る桜は言葉にできないほど綺麗だ。
 私は自分の胸に腕を置く。
 ドクンドクンと鳴っている鼓動は生きていると実感させる。
 昨日、私の心臓移植の手術があった。
 奇跡的に合致し成功したのだ。本当に奇跡だった。
 死ぬことが確定していた人生に光が宿った。
 そして、その心臓は誠君の物だった。誠君はドナーカードを持っていた。
 きっと、死ぬことを知っていたんだよね。
 それで、夏祭りの日断ったんだね。
 もっと、知りたかったよ。将来の夢とかいろんなこと知りたかったよ。もっと、愛してみたかったよ。もっと、好きでいたかったよ。
 涙でシートを濡らす。
 もっと、もっと、一緒に居たかったよ。
 誠君が死んだ日から時が止まっているんだ。
 居なくなった誠君を何度も探すんだ。いないと分かっているのに何度も探しているんだ。
 ずっと、ずっと、探しているんだ。
 ねぇ、どこ居るんだ。
 微かに心臓の鼓動が速くなる。
 分かってる。分かってるよ。
 心臓から手を離す。
 私は生きる。
 私ね誠君に嘘を付いたんだ。
 誠君と最初に出会った日に言った「人は生きる意味がないと生きていけない」と私は言ったよね。でもね、私も生きる意味なんてなかったんだよね。誠君と同じだっんだ。
 あの日私は自殺しようと考えていたんだよね。
 あの日、あの時、誠君が居なかったら私は死んでいたんだよ。だから、私は誠君に二度救われてるんだ。
 でも、私は見つけたよ。
 私は誠君のために生きるよ。
 死んだとき誠君と楽しい話ができるように長く生きて、生きて、生きて、頑張るよ。
 だから、悲しくない。
 悲しくなんかないんだ。誠君は私の心の中で生きている。だから悲しくない。
 悲しくないんだ。
 大量の涙が零れていく。
 私は悲しくない恋をしたんだ。私は悲しくない恋をしたんだ。
 でも、分かるよ。分かってしまうよ。
 心が叫んでいるんだ。君の心臓が叫んでいるんだよ。
 この恋は悲しいと。