第三章 減っていく時間
琴音視点。
誠君と話す時間は増えていく一方で、私の生きて行ける時間は少なくなっている。
確実に悪くなっている体は時々悲鳴をあげる。震える右手は時に残酷を伝えてくる。
君に残されている時間はあと少しだと何度も伝えてくる。
そんな現実から逃げるように、私は今日も誠君に会いに行っている。
誠君と初めて話した日から数ヶ月が経ち、最初に会った誠君とは変わっていた。
明るい性格になっている。それに、楽しそうに話している。
そんな人の変化を見ていると私のやっていることに意味があるんだと実感する。残り少ない人生でできることは誰かを救うことだと思っている。
初めは好奇心だった。
初めて見た誠君は死んだ魚のようだった。世界に絶望していて呆れていて、生きる意味なんてない。そんな風に考えているように見えた。
実際私の考えは合っていた。
それから、好奇心で私は話をかけた。
でも、思ったより誠君と話す時間は楽しかった。
それと、誠君を救いたいと思った。残り少ない時間で誠君をなんとか救いたいと、だから私は誠君に話しかけ続ける。
そして、今日も誠君に話しかけに向かっている。
いつもの教室に着き、ドアを開ける。
今日はどんな話をしようかな。
ドアを開けてすぐ、いつも座っている場所に目を向ける。
あれ? 周りを見渡しても誠君の姿はどこにも無かった。
もしかして、今日は帰っているのかな?
誰も居ない教室を何度も見渡し確認する。
やっぱり居ないな。
ドン。
ドアを閉めようとしたとき、不意に何かが落ちた音が聞こえてくる。
音がした方に視線を向ける。
え。え。
誠君……
教室の奥の方に誠が倒れていた。
病室。
ピピと機械音が病室を包み込む。
その音を何度も聞きながら私は誠君の横に座る。
横になっている誠君は生きている人間なのに、生きているように見えなかった。
それが余計に私を不安にさせる。
どうか、早く目を覚ましてほしい。
いつものように、話を聞かせて欲しい。
いつものように、屁理屈を聞かせて欲しい。
お願い、早く目を覚まして。
横になっている誠君を見つめる。今の私には願うことしか出来なかった。
どうか、お願いします。
私の残り少ない時間をあげますから、どうかお願いします。
それから数時間が経った。
私は横になっている誠君の手を握る。
まだ目を覚まさない誠君を見つめながら考える。
私は誠君のことをどう思っているんだろう。死んでほしくないと思っている。
それは、当たり前の感情であることは確か。でも、心の奥底から思っている。これは何なんだろう。
誠君と話している時いつも時間が過ぎるのが早く感じる。それに、話している時死にたくないと思ってしまう。
分からない、分からない。
でも、もし、これが愛という感情なら私はどうすればいいのだろう。
その時、誠の手が微かに動く。
「誠君?」
立ち上がり、誠君の顔を見る。
微かに瞼が動いていて、目を覚ましたのが分かる。
良かった。本当に良かった。
目覚めた誠君を見て、分かってしまう。私は誠君が好きなんだと。
誠視点。
病室は静けさを流していた。
琴音が帰ってから数時間が経ち。冷静に物事を判断できるようになる。
それと同時に、倒れたときの頭の痛みを思い出す。
感じたことがない痛さで、死ぬと思わすほどの痛みであった。
分かる。
分かってしまう。
明日の朝病院の検査を受けると言われたが、正直受けなくても分かってしまう。
確実に脳の病気だ。
ああ、死ぬんだ。
今まで感じたことがない痛みが胸に走る。
泣こうとしても涙が出てこない。何か違うことをしようとしてもできない。
死ぬ。
という文字が頭の中、心の中から消えてくれない。
でも、こんな時でも琴音のことを考える力はある。
きっと、琴音もこんな気持ちを味わっているんだ。
死ぬという文字が常に頭の中で浮かんで離れてくれない。いくら、違うことをしても、誰かと話していても、決して離そうとしてくれないんだ。
こんなに辛いんだ。
「検査の結果は異常なしです」
お医者さんは資料を片手にそう言う。
だが、それは希望のある言葉だった。だけど、それは確実にないと知っている。
あの日感じた痛みは確実に死が来ることを知らせている。だから、いつ死んでもおかしくないと思っている。
「まぁ、当分はあまり体を動かさないで」
お医者さんはなんとも言い難い表情をしながら、いくつかの資料を渡してくる。
それを、受け取り診察室を出た。
出てすぐに声をかけられる。
「誠君」
私服姿の琴音が誠のとこに向かって走る。
心臓が悪いということを忘れるように。
「検査結果どうだった?」
琴音は落ち着いた様子で問う。
「異常なしだって」
「ほんと? もーよかった」
琴音は安心するような声で言う。
その姿はまるで天使のようだった。自分のことを優先しないで誰かのことを優先する姿は天使だった。
天使がどういう定義か分からないけど、きっと、琴音のような人が天使なんだろう。
「もう大丈夫だよ。元気だから安心して」
「うん」
琴音は嬉しそうに言う。
数ヶ月前の僕には考えられないだろう。今目の前に居る琴音に恋をしている。
話していく中でいろんなことを知っていく中で、想いという気持ちについて分かってしまった。
そして、琴音のために生きたいと思ってしまった。
初めて生きる意味ができた。
「ねぇ、誠君」
「ん?」
「来週夏祭りに行かない?」
「え?」
「ちょっと、初めてデートに誘っているのに……どっちなの?」
「行くよ!」
きっと、僕だけだろう。病院でデートに誘われるのは。
僕は一枚のカードと資料を手に持ち自分の病室に向かった。
琴音視点。
誠君と話す時間は増えていく一方で、私の生きて行ける時間は少なくなっている。
確実に悪くなっている体は時々悲鳴をあげる。震える右手は時に残酷を伝えてくる。
君に残されている時間はあと少しだと何度も伝えてくる。
そんな現実から逃げるように、私は今日も誠君に会いに行っている。
誠君と初めて話した日から数ヶ月が経ち、最初に会った誠君とは変わっていた。
明るい性格になっている。それに、楽しそうに話している。
そんな人の変化を見ていると私のやっていることに意味があるんだと実感する。残り少ない人生でできることは誰かを救うことだと思っている。
初めは好奇心だった。
初めて見た誠君は死んだ魚のようだった。世界に絶望していて呆れていて、生きる意味なんてない。そんな風に考えているように見えた。
実際私の考えは合っていた。
それから、好奇心で私は話をかけた。
でも、思ったより誠君と話す時間は楽しかった。
それと、誠君を救いたいと思った。残り少ない時間で誠君をなんとか救いたいと、だから私は誠君に話しかけ続ける。
そして、今日も誠君に話しかけに向かっている。
いつもの教室に着き、ドアを開ける。
今日はどんな話をしようかな。
ドアを開けてすぐ、いつも座っている場所に目を向ける。
あれ? 周りを見渡しても誠君の姿はどこにも無かった。
もしかして、今日は帰っているのかな?
誰も居ない教室を何度も見渡し確認する。
やっぱり居ないな。
ドン。
ドアを閉めようとしたとき、不意に何かが落ちた音が聞こえてくる。
音がした方に視線を向ける。
え。え。
誠君……
教室の奥の方に誠が倒れていた。
病室。
ピピと機械音が病室を包み込む。
その音を何度も聞きながら私は誠君の横に座る。
横になっている誠君は生きている人間なのに、生きているように見えなかった。
それが余計に私を不安にさせる。
どうか、早く目を覚ましてほしい。
いつものように、話を聞かせて欲しい。
いつものように、屁理屈を聞かせて欲しい。
お願い、早く目を覚まして。
横になっている誠君を見つめる。今の私には願うことしか出来なかった。
どうか、お願いします。
私の残り少ない時間をあげますから、どうかお願いします。
それから数時間が経った。
私は横になっている誠君の手を握る。
まだ目を覚まさない誠君を見つめながら考える。
私は誠君のことをどう思っているんだろう。死んでほしくないと思っている。
それは、当たり前の感情であることは確か。でも、心の奥底から思っている。これは何なんだろう。
誠君と話している時いつも時間が過ぎるのが早く感じる。それに、話している時死にたくないと思ってしまう。
分からない、分からない。
でも、もし、これが愛という感情なら私はどうすればいいのだろう。
その時、誠の手が微かに動く。
「誠君?」
立ち上がり、誠君の顔を見る。
微かに瞼が動いていて、目を覚ましたのが分かる。
良かった。本当に良かった。
目覚めた誠君を見て、分かってしまう。私は誠君が好きなんだと。
誠視点。
病室は静けさを流していた。
琴音が帰ってから数時間が経ち。冷静に物事を判断できるようになる。
それと同時に、倒れたときの頭の痛みを思い出す。
感じたことがない痛さで、死ぬと思わすほどの痛みであった。
分かる。
分かってしまう。
明日の朝病院の検査を受けると言われたが、正直受けなくても分かってしまう。
確実に脳の病気だ。
ああ、死ぬんだ。
今まで感じたことがない痛みが胸に走る。
泣こうとしても涙が出てこない。何か違うことをしようとしてもできない。
死ぬ。
という文字が頭の中、心の中から消えてくれない。
でも、こんな時でも琴音のことを考える力はある。
きっと、琴音もこんな気持ちを味わっているんだ。
死ぬという文字が常に頭の中で浮かんで離れてくれない。いくら、違うことをしても、誰かと話していても、決して離そうとしてくれないんだ。
こんなに辛いんだ。
「検査の結果は異常なしです」
お医者さんは資料を片手にそう言う。
だが、それは希望のある言葉だった。だけど、それは確実にないと知っている。
あの日感じた痛みは確実に死が来ることを知らせている。だから、いつ死んでもおかしくないと思っている。
「まぁ、当分はあまり体を動かさないで」
お医者さんはなんとも言い難い表情をしながら、いくつかの資料を渡してくる。
それを、受け取り診察室を出た。
出てすぐに声をかけられる。
「誠君」
私服姿の琴音が誠のとこに向かって走る。
心臓が悪いということを忘れるように。
「検査結果どうだった?」
琴音は落ち着いた様子で問う。
「異常なしだって」
「ほんと? もーよかった」
琴音は安心するような声で言う。
その姿はまるで天使のようだった。自分のことを優先しないで誰かのことを優先する姿は天使だった。
天使がどういう定義か分からないけど、きっと、琴音のような人が天使なんだろう。
「もう大丈夫だよ。元気だから安心して」
「うん」
琴音は嬉しそうに言う。
数ヶ月前の僕には考えられないだろう。今目の前に居る琴音に恋をしている。
話していく中でいろんなことを知っていく中で、想いという気持ちについて分かってしまった。
そして、琴音のために生きたいと思ってしまった。
初めて生きる意味ができた。
「ねぇ、誠君」
「ん?」
「来週夏祭りに行かない?」
「え?」
「ちょっと、初めてデートに誘っているのに……どっちなの?」
「行くよ!」
きっと、僕だけだろう。病院でデートに誘われるのは。
僕は一枚のカードと資料を手に持ち自分の病室に向かった。



