不思議な夢を見た。わたしはいつものパジャマ姿 ではなく、私服で街を歩いていた。季節は夏だろう、日差しが明るく、暑さがじわっと肌にまとわりつく。よく知っている街並みは近所だろう、家がある駒(こま)沢(ざわ) の風景が目に入る。
よくお昼を食べていたハンバーガーショップや、オリンピック公園のまばゆい緑。身体は軽く、病気のことは忘れていた。夢だから、病気ではないという設定だったのかもしれない。
そしてわたしの前に男の子が現れる。ひょろっとした痩身に、端正な顔立ちのはじめて見る子。はじめて見るはずなのに、不思議な既視感があった。彼がわたしに視線を合わせ、ゆっくり歩いてくる。
『もしかして、僕たち、前に会ったことある?』
夢の中のわたし彼がそう口にする。男の子が口を開きかける。夢の中のわたしは口を開きかけ、何かを言おうとしていた。
そこで、目が覚めた。病院の無機質な天井が見えて、それから壁の時計で時間を確認すると、もう十七時を過ぎていた。どれだけ寝ていたんだろう、わたし。
「変な夢だったな……」
知らない人が夢に出てくること自体はよくあることだし、別に珍しくもない。でも今の夢はなんだか、すべてが妙だった。夢にしては暑さとかの感覚がはっきりしすぎ過ぎていたし、それに近所の景色もリアルだった。そしてはじめて見る顔なのに、わたしはあんなことを言ったんだ。どこかで会ったような不思議な感覚があった。
もしかしてあの男の子、本当にどこかで見たことあるんじゃないだろうか。顔があまりにも整いすぎてたし、モデルとかアイドルとか、そんなところ?
スマホで『芸能人 イケメン』とか検索しようとベッドの中で身体の向きを変えたとき時、個室の中に人が立っているのに気づ付いた。
「わっ!!」
思わず声を上げてしまう。その人に焦点を合わせて、もう一度弱った心臓が引ひっくりかえ返りそうになった。
そこにいるのは、さっき夢で見た男の子だった。ひょろっとした痩身に、端正な顔。意思の強さを象徴するようなきりりと太い眉。でもさっきと違っているのは、髪の毛が真っ白だということ。
最近のヘアカラーは色とりどりで、おしゃれのために白い髪にする人もいるという。でも、彼の服装は銀色のぴっちりと肌に貼りつくスーツみたいな、まるで舞台衣装でおしゃれとは程遠い代物だった。というか、何かのコスプレに近い。少なくとも病室には場違いすぎる過ぎる。
「こんにちは、南部陽彩ちゃん」
彼が言った。テノールの優しい声が、柔和な表情とマッチしている。
「何なの、あなた。いきなり入ってくるとか、失礼じゃない? わたし、寝てたんだけど」
警戒心をきりきり尖らせながら、なるべく鋭い声を出した。でも彼にひるんだ様子はない。
「そうだね、ごめん。突然だから、びっくりするよね」
「そりゃびっくりするでしょ。てか、なんなの? その格好にその頭。もしかして誰かの見舞い? 見舞いにしては場違いすぎる過ぎるし、患者にも見えないけど」
そこで、もしかして彼のこの髪色はコスプレではなく、病気なのかもと思いいたる至る。なぜなら、彼の髪の毛は根本から先端まで、ムラのないきれいな白だったから。染めていたら根本がちょっと黒くなるはずだし、ムラだって出てくるだろう。もちろん、その銀色のスーツは説明がつかないけれど。
「僕の名前は、楓(ふう)馬(ま) 」
次の瞬間、信じられないことを言った。
「僕は百年後から来た。陽彩ちゃんの運命を変えるために」
よくお昼を食べていたハンバーガーショップや、オリンピック公園のまばゆい緑。身体は軽く、病気のことは忘れていた。夢だから、病気ではないという設定だったのかもしれない。
そしてわたしの前に男の子が現れる。ひょろっとした痩身に、端正な顔立ちのはじめて見る子。はじめて見るはずなのに、不思議な既視感があった。彼がわたしに視線を合わせ、ゆっくり歩いてくる。
『もしかして、僕たち、前に会ったことある?』
夢の中のわたし彼がそう口にする。男の子が口を開きかける。夢の中のわたしは口を開きかけ、何かを言おうとしていた。
そこで、目が覚めた。病院の無機質な天井が見えて、それから壁の時計で時間を確認すると、もう十七時を過ぎていた。どれだけ寝ていたんだろう、わたし。
「変な夢だったな……」
知らない人が夢に出てくること自体はよくあることだし、別に珍しくもない。でも今の夢はなんだか、すべてが妙だった。夢にしては暑さとかの感覚がはっきりしすぎ過ぎていたし、それに近所の景色もリアルだった。そしてはじめて見る顔なのに、わたしはあんなことを言ったんだ。どこかで会ったような不思議な感覚があった。
もしかしてあの男の子、本当にどこかで見たことあるんじゃないだろうか。顔があまりにも整いすぎてたし、モデルとかアイドルとか、そんなところ?
スマホで『芸能人 イケメン』とか検索しようとベッドの中で身体の向きを変えたとき時、個室の中に人が立っているのに気づ付いた。
「わっ!!」
思わず声を上げてしまう。その人に焦点を合わせて、もう一度弱った心臓が引ひっくりかえ返りそうになった。
そこにいるのは、さっき夢で見た男の子だった。ひょろっとした痩身に、端正な顔。意思の強さを象徴するようなきりりと太い眉。でもさっきと違っているのは、髪の毛が真っ白だということ。
最近のヘアカラーは色とりどりで、おしゃれのために白い髪にする人もいるという。でも、彼の服装は銀色のぴっちりと肌に貼りつくスーツみたいな、まるで舞台衣装でおしゃれとは程遠い代物だった。というか、何かのコスプレに近い。少なくとも病室には場違いすぎる過ぎる。
「こんにちは、南部陽彩ちゃん」
彼が言った。テノールの優しい声が、柔和な表情とマッチしている。
「何なの、あなた。いきなり入ってくるとか、失礼じゃない? わたし、寝てたんだけど」
警戒心をきりきり尖らせながら、なるべく鋭い声を出した。でも彼にひるんだ様子はない。
「そうだね、ごめん。突然だから、びっくりするよね」
「そりゃびっくりするでしょ。てか、なんなの? その格好にその頭。もしかして誰かの見舞い? 見舞いにしては場違いすぎる過ぎるし、患者にも見えないけど」
そこで、もしかして彼のこの髪色はコスプレではなく、病気なのかもと思いいたる至る。なぜなら、彼の髪の毛は根本から先端まで、ムラのないきれいな白だったから。染めていたら根本がちょっと黒くなるはずだし、ムラだって出てくるだろう。もちろん、その銀色のスーツは説明がつかないけれど。
「僕の名前は、楓(ふう)馬(ま) 」
次の瞬間、信じられないことを言った。
「僕は百年後から来た。陽彩ちゃんの運命を変えるために」



