光のトンネルをデロリアンが疾走していく。

 一瞬、周りにいろんな風景が浮かぶ。アフリカらしいサバンナとか、ピラミッドがそびえたつ砂漠とか、中国の万(ばん)里(り)のの長(ちょう)城(じょう) とか。

 それらがぱっとすべて消え、光がなくなったと思ったら、目の前にターコイズブルーの海と、海の色をそっくり写し取ったような青空が広がっていた。

 ベージュ色の砂浜で日光浴をしている水着姿の人たち、波打ち際ではじける白い泡。
 ぬるい南国の風が吹いてきて、髪の毛をふわりと持ち上げる。


「ほんとに、ハワイ……?」
 希織が呆けた顔で言った。


「ほんとにハワイだよ、希織! やったね、わたしたち、二人でハワイに来れたよ!」
「ありえない……」
 希織は頭を抱えている。そしてばっと顔を上げたかと思うと、楓馬にかみついた。


「あんた、いったい何者? 陽彩に近づいて、何がしたいの!?!? 陽彩に変なことしたら、あたしが許さないんだから!」
「希織、楓馬は怪しい人じゃないよ」
「どこをどうとって取っても怪しいでしょ!」


 希織は今度はパオをにらみつける。あまりの圧に押されて、パオが飛びのく。


「だいたいなんなのよ、この虫みたいなやつ! ロボットだっていうのは間違いないっぽいけど。未来人だ から来たとして、なんの目的で陽彩に近づいたの?」
「ええと……話すとけっこう長くなるんだけど」
「とりあえず、二人で遊んできたら?」


 そう言ってこの前のタブレットを操作するだけで自由に形が変わる特殊な服を二枚差し出す楓馬は、顔がちょっと青ざめていた。


「これで、好きな水着を選んだらいい。ワイキキビーチ、気持ち良いよ」
「わー、ありがとう! ていうか、楓馬平気? なんか、具合悪そうだけど」

 楓馬が無理やりな感じの笑顔を作る。額に脂汗が浮かんでいる。やっぱり、病気なのは間違いなさそうだ。


「大丈夫。ちょっと直射日光がひどすぎぎて、体調がおかしくなっただけ。僕とパオはデロリヤンの中にいるから、気にしないで遊んでおいで」
「わかった、行こう!」


 少し不安だけど、毒を無効化するとか、すごい薬を持っているからあたり、楓馬はひとりにしておいても大丈夫だろう。というか、パオがいるんだしひとりじゃない。

 強引に希織の手を引いて外に出て、ヤシの木の陰で着替える。タブレットを構えて、最初は希織から。希織のイメージにふさわしいオレンジのボーダー柄の水着を選んだ。

 ぱっとフラッシュの光に照らされた次の瞬間には、希織は水着姿だった。


「何これ……すごい……」
「でしょ? 未来の科学力ってすごいよね」
「未来……未来かあ。もうここまで来ると、否定する気にもなれないや。そうか、あの楓馬って子は未来人なんだもんね……未来……未来… …うん……」

 希織はよほど衝撃が強かったらしく、未来、未来となおもしばらく繰り返していた。

「希織、わたしの着替えもお願い! 水着は……そうだなあ。この水玉がかわいい!」

 フラッシュを浴びると、白と黒のドット柄の水着がぴたりと身体に貼りついていた。

 わたしはまたまた強引に希織を引っ張ぱって、ワイキキビーチに繰り出す。青く青く、どこまでも広がっている海と、照り付ける真っ白な日差し。足の裏に当たる砂のざらざらした感触さえ気持ち良い。

 なんか、生きてる、って感じがする。余命宣告されて、死が近いとわかって、ずっとあきらめて生きてきたけれど。わたしはまだまだ、この世界で生きていける。知らなかったものに、これからいくらでも出会える。