梅雨の晴れ間の白っぽい朝日が降り注いでいて、室内の細かな埃が浮かび上がる。雪のようにちらちら舞う埃の粒が幻想的に見える。

 今日は朝から、気分がいい。いつもはおいしくなくて残してしまう病院食もぜんぶ食べられたし、回診の時にもお医者さんに「調子がいいですね」って言われた。実際、昨日より身体がずっと軽くなっているのを感じる。

 なんてったってわたし、もう死ななくていいんだもん。


「陽彩ちゃん、今日は顔色がいいわね」


 お昼ご飯を持ってきた池澤さんが言った。


「ほっぺたがピンク色で、表情もいきいきしていて、病人じゃないみたい。なんか、いいことあった?」
「まあ、あったといえば、あった、かな?」
「もしかして彼氏?」


 反射的に楓馬の顔が浮かぶ。生まれてはじめての男の子とふたり二人っきりのドライブ。もしかしなく て、いやもしかしなくても、あれはデートだった。


「そんなわけないじゃないですかー!」
「お、照れちゃって。ということは、そうなんだなあ」
「違いますよー!」
「大丈夫よ、お父さんには秘密にしておくから」


 ぱちっとウインクする池澤さん。うーん、本当に楓馬は彼氏とか、そういうんじゃないんだけど。
 でもまさか、未来からやってきた男の子のおかげで死ななくてよくなりました、なんて言えるわけない。


「あ、陽彩ちゃん」


 お昼ご飯のあとラウンジに行くと、樹里ちゃんがいた。わたしを見てにぱっと笑顔になる。


「今日、もしかして体調いい?」
「うん。すごい、よくわかるね」
「わたし、小さい頃からよく入院してたからさ。ひとの具合がいいか悪いか、普通よりもわかるようになったみたい」


 そう言う樹里ちゃんに、楓馬のことを話したくなっていた。絶対信じてもらえないだろうけど。

 だって、死ななくて済むんだもん。わたし、これからも生きていっていいんだもん。誰かにこの喜びを伝えたくてしかた仕方ない。

 でも池 澤さんも樹里ちゃんも駄目。お父さんなんて論外。わたし以上にリアリストのお父さんが、こんな話信じてくれるわけがない。この場合、わたしが唯一伝えられる相手となると……。