なんだかんだ襲撃を無傷で乗り切っ(てしまっ)た。これも全てマリーのおかげだということで、僕はいつもケーキを買いに行くスイーツ店に彼女を招待するのだった。駅ビルのガラス張りの12階。この位置からだとビル街の先の学校まで見えてしまうぐらい眺めがいいね。20階からだともっときれいだと教えてあげようかな。
「なに頼んでもいいよ。助けてもらったお礼ってわけではないけど奢らせてもらうね!」
「ほ…本当によろしいのですか…?」
首を縦に振りまくる、このまま続けるともげるぐらいには。ヘドバンを見た彼女は少し戸惑いながらも、
「で…ではこちらをお願いします…」
メニューにデカデカと現れているいちごたっぷり・いちご山盛りパフェの"ザ・イチゴ・マウンテン〜ローズ&ベリーソース風味〜(税込3700円)"を注文した。…なんでそこはストロベリーじゃなくてイチゴなんだろう?

「このお店のスイーツ…お…おいしいです!」
満足していただけたようでなにより。僕も嬉しいよ。
「いちご好きなの?」
素朴な疑問。それに"ザ・イチゴ・マウンテン〜ローズ&ベリーソース風味〜(税込3700円)"を食べている少女は、
「いちごは大好きです。それに…これを食べてるとおじい様のことを思い出すんです」
と返してくれた。おじいちゃんか。おじいちゃんもいちごが好きだったのだろうか?
「おじいちゃん?」
「私、ちょった事情があって…お父様やお母様よりもおじい様と過ごした時間の方が長いんです」
「それと"ローゼンベルク"は私の国の言葉で"薔薇の山"を意味しています。だからかローゼンベルク家では誕生日にいちごのケーキを食べているんです。おじい様の作ってくれたケーキはいつもおいしくて…だからいちごが好きになったんです」
なるほど。いちごってバラ科なんだっけ?そのつながりなのだろうか。それはともかく、おじいちゃんとは仲がよかったんだね。よかったよかった。…親子関係はやや不穏みたいだけど。

「あっ、すいません…。私の事ばかり話してしまいました…えっと…勝手ですけどサーシャ様の話も聞いてみたいのですが…よろしいですか…?」
「いやいや、全然大丈夫だよ。じゃあ僕はルーシーとの話でもしようかな…」
せっかくで頼んだ季節外れの"ウォーター・スイカ・パラダイス(税込み880円)"(ウォーターメロンじゃないのかと疑ったけどほんとにスイカだった!)を口に放り込みながら、ひんやりパフェを溶かすような熱を持って過去を語りだす。

「ルーシーはさ、僕のことを助けてくれたんだよ」
あの日だ。ルーシーと初めて会った日。そして、ルーシーに初めて助けられた日。僕はその日のことを、正確にはその日よりちょっと前までのことを覚えていない。9歳の夏頃だっただろうか。その日は夜も暑かったんだ。僕の倒れていた廃墟は炎に包まれていたから。空は暗いのに僕の周りは明るくて、それがよかったんだろう。街外れの明かりを見たルーシーが好奇心でやって来て、目の当たりにしたのが飛び散った瓦礫と潰されかけていた重傷の子供。おかげで見つけてもらえた。

「諸事情あってゼブルに迎え入れてもらったらルーシーが年が近いからか遊びに誘ってきてね、そこから仲良くなったんだよ」
「昔から強引でね、『ここに行きますわよ』って言っては無理矢理手を引っ張って…なんど腕がちぎれそうになったやら」

両親の所在も不明で僕もそれを覚えていなかったからどこに行くべきかでしばらく悩んでいた。僕だけじゃない、ニコラさんやメイドさんまで含んだゼブル家のみんなが。一方でただ一人、ルーシー(8)だけは、
「放っておけないですの」
と家に置くことを強く言い続けていたらしい。ルーシーの強引さかニコラさんの娘への甘さ、あるいはその両方のおかげで僕はゼブル家として過ごすことになった。
過去、マリーとの出会い、それと幼き日々の記憶をざっくり思い出すとこんなものかな。でも、マリーに伝えるのは楽しい部分だけで十分だ。マリーもきっと重苦しい部分を出さないよう配慮して親との事情を話さなかったんだろうからね。

「……そんな感じでさ、今日までずっとルーシーには感謝しております!ルーシーという友達(いもうと)のおかげで一人ぼっちにならずに済んだから!うざったく思うこともあるんだけどね」
「サーシャ様はお話がお好きなんですね、聞いていると楽しい気分になります」
「まあね、好きなことと自分について語らせるときは饒舌ってよく言われるよ」
そう、僕は基本的には人付き合いがうまくないし、話もうまくないけど、特定のジャンルの話だけはすらすら出てくるのだ。だからこそ友達が少ないのかもしれないが。

「今日はありがとうございました。サーシャ様とレウシアについて知れたし…楽しかったです」
「こちらこそ。じゃあまた明日、学校でね」

明日の再開を誓ってマリーも家に向かったところで、今日の振り返り。マリーについてわかったことはみっつ。ひとつ、マリーはかわいい。パフェを食べてる時の笑顔は誰でもかわいいけど、マリーは特段かわいい気がする。ふたつ、マリーは強い。筋力もすごそうだったけど、何よりも能力の格が全然違う。そしてみっつ、マリーは容赦ない。確かになんでもいいとは言ったけども4000円近いいちごパフェを頼んだりするし。こう思うのはちょっとケチくさいか…
なんでだろう、マリーへの評価が甘い気がするぞ。弱弱しい立ち姿への庇護欲か?それとも…マリーの天稟魔法(てんぴんまほう)はほんとは精神操作だったり…?