昨夜は車に乗せてもらい、その後家で治療をしてもらった。疲れて倒れただけで大した外傷はなく、しかもルーシーが帰りの車で応急手当の汎用回復魔法を使ってくれてたらしく、おかげか治りも早かった。ルーシーめ、メイドさんを介さずに直接言ってくれればいいのに。感謝のタイミングがわかりづらくなっちゃうよ。
さてさて、昨日はあんな目にあったけど、気を取り直して学園生活再開だ。昨日の自己紹介でマイナスイメージがついてないといいんだけど…
「あ…あの…」
さっそく話しかけてくれる人がいた。つまり意外と絶望的な心象にはなっていないのだろうか?細い希望を持って声を聴く。それよりもか細い声で話すこの少女の名は、
「こんにちは…マリーです…。あなたは…サーシャ様、ですよね?」
マリー・ローゼンベルクだ。黒を基調としたどこかメイドを思わせるような服装に、リアルでは逆にあまり見ることがないツインテール。丁寧に手入れされた藤色の髪が腰の辺りまで伸びている。僕が言うのもなんだけど、かわいいんだからもっと自信を持てばいいのに。
「ルーシー様とは…その…お知り合いなんでしょうか?」
「ルーシーとは知り合いというか…友達?いや、姉妹だよ」
ガイアにされたのと同じような質問だけど、今度は姉妹であることを初めから伝えてみる。驚かれたりするのかな?似てはないからね。
「姉妹…」
まあその反応になるよね。逆にガイアの適応力が高すぎるんだよ、たぶん。
そういえばローゼンベルク…名前は前に聞いたことがある。
「ローゼンベルクって結構いいお家柄だよね?失礼な質問でごめんだけど」
「いえ…今はそれほどでも。昔の話だそうです。テレス…テレストリア・ローゼンベルク様の時代はゼブル様たちとも近い関係だったそうですが…今はそこまででもないみたいです」
テレストリア?名前は聞いたことあるような気もするけど…ルーシーや養父さんなら知ってるかな?後で聞いてみよう。
「ところで、なんで声をかけてくれたの?友達ならもちろん大募集なんだけど…なにか力になれることはある?」
「えっと…その…この街について教えてもらえないでしょうか…?あっ…もしよければです…」
「私…ローゼンベルク家は隣国にあるので…この街に引っ越してきて時間があまり経ってなくてまだ分からないことが多くて…」
なるほど、確かにそうだ。マリーの実家"ローゼンベルク家"のある国"ラリーパ"はこの学園(と僕の家)がある"ルスラシア"の隣にある。逆になぜ今まで思い出せてなかったのか不思議なぐらい、国外にあるんだった。
「いいよ。放課後、買い物ついでにこの街のおすすめスポットでも教えるね」
「あ…ありがとうございます…。よろしくお願いします」
この街はそれなりに広い。卵が先か鶏が先かは知らないが、"レウシア"というこの街にはビル街から駅地下街、そして同じ"レウシア"の名を冠する高校がある。緊張気味の少女の憂いを祓うために、どこに向かおうか。思案を巡らせ30分、終業のチャイムが鳴り響く。
今日は午前だけで授業は終わり。ルーシーに用事がある、と伝えるとルーシーはルーシーの方でやりたいことがあるらしく、快く送り出してくれた。そのまま僕はマリーを連れて校舎を飛び出したのだ。
学校を出て最初に向かうは校門前の大通り。"レウシア"はルスラシアでも結構な大都市だ。学校の前ですら人で賑わっている。大通りに沿って西に2ブロック進んだ先には複合商業施設"ブラント・コート"がある。学生から社会人まで、帰り道にここにお世話になる人もかなり多い。
「"ラリーパ"にも多分似た感じのところあるよね?」
「はい、家の近くにはなかったのですが…連れていってもらったことはあります」
やはりこういう巨大なお店はどこの国にもあるものか。今度他国に旅行するときは違いを探すのもいいかもしれない。
自動ドアから中に入ると、一階には食品コーナーが広がっている。パンや麺など主食から、肉、魚、野菜…とにかくなんでもある。お菓子すら置いてあるから小学生にも大人気。僕が子供の頃は駄菓子屋に行ってたような気もするけど、近所のお店は潰れちゃったからな。今の少年たちにとってはここが戦場、そして憩いの場だ。
しかしここに来た理由は正確にはこれじゃない。
「マリー、上行こう!」
「は…はい」
エレベーターで階を跨ぎ上昇する。二階には漫画も売ってる本屋があり、四階はゲーム漫画や、アニメのグッズが大量に置いてあるお店のフロアとなっている。その先の五階はあらゆる属性に向けた服が並ぶファッションエリア、最上階たる六階はラーメンからスイーツまでなんでも楽しめる食の楽園だ。しかし僕たちが参る三階は子供向けフロア、特撮の武器や知育玩具がメインの場所だ。されどここには同時にゲームセンターがある。確かに駅の方にもゲーセンはある。しかしだ、買い物ついでにすぐ遊べるという利便性はあちらにはない利点。しかも子供向けのクレーンゲームやエアホッケーだけじゃなく格ゲーの筐体なども置いてある。子供というにはちょっと老いすぎた我々も楽しめる設計となっているとは、なんと素晴らしい。色々眺めているうちに、遊戯台の行列の一角にあるものを見つける。あれは…!!
「マリー・ローゼンベルク…サーシャ・デュアペルはゼブル家代理として…貴殿に決闘を申し込む!」
「け…決闘…ですか?」
「…ごめん。これ一緒にやってほしいだけ。一度こういうかっこよさそうなこと言ってみたくてさ…」
メダルゲーム。リアルマネーをゲーセン専用のメダルに両替して、ゲームを遊んで増やしていくもの。実際は負け続けて3分で全てを失うか、勝ちに勝ってメダルが溢れて困るかのどっちか。余ったメダルを保管してくれるお店もあるけど、そんなのはどうでもいい。今大事なことはひとつ。
「一時間後にどっちのメダルが多いかで勝負しない?」
どちらのメダルが多いかだ。
「勝負ですか…はい、お願いします」
乗ってくれたようでなにより。意外と勝負事には自信があるのかな?メダル100枚からのスタートで、増やし方は自由。どのゲームでもいい。そう取り決めてメダル購入、決闘の始まりだ。
「よしっ、これがいいかな」
叩いて被ってジャンケンポン。じゃんけんで勝ったら右のボタンで相手の頭をひっぱたき、負けたら左ボタンでガードするゲーム。序盤は運には頼らず実力勝負、手堅く堅実に枚数を増やす。元手がなければ大勝負には勝てない。富める者はますます富む、メダルゲームでもそれは変わらないのだ。5枚が2倍になっても10枚だけど、元が500枚なら1000枚に。大きく賭けることができるならリターンも大きくなる。
じゃんけんぽん!グー対チョキ!右ボタン!
じゃんけんぽん!グー対パー!左でガード!
じゃんけんぽん!チョキ対チョキ!あいこならもう1回!
じゃんけんぽん!じゃんけんぽん!じゃんけんぽん!
この完璧な理論で負けるわけがない!そう思ってた時期が僕にもありました。
所詮世の中は運ゲーです。次に挑んだのはメダル落としの台、されどいくら突っ込んでも一枚も落ちてこないのです。失ったものを数えるのはよくないとわかっているはずなのに、取り戻すべくメダルを追加投入。30分で素寒貧。はいっ敗北確定。マリーの方を見てみるとメダルが大漁、大勝ち…!ってわけでもないみたい。マリーはマリーでツイてないみたいで。
追加で待つこと30分、マリーとメダル入れバケツを見せあった結果は両者0。イーブンだった。
「引き分け…ですね…」
「お互い不運だねー」
うーむ、スッキリしない結論になってしまった。この痛み分けの感情をどうやって処理するべきだろうか…?
さてさて、昨日はあんな目にあったけど、気を取り直して学園生活再開だ。昨日の自己紹介でマイナスイメージがついてないといいんだけど…
「あ…あの…」
さっそく話しかけてくれる人がいた。つまり意外と絶望的な心象にはなっていないのだろうか?細い希望を持って声を聴く。それよりもか細い声で話すこの少女の名は、
「こんにちは…マリーです…。あなたは…サーシャ様、ですよね?」
マリー・ローゼンベルクだ。黒を基調としたどこかメイドを思わせるような服装に、リアルでは逆にあまり見ることがないツインテール。丁寧に手入れされた藤色の髪が腰の辺りまで伸びている。僕が言うのもなんだけど、かわいいんだからもっと自信を持てばいいのに。
「ルーシー様とは…その…お知り合いなんでしょうか?」
「ルーシーとは知り合いというか…友達?いや、姉妹だよ」
ガイアにされたのと同じような質問だけど、今度は姉妹であることを初めから伝えてみる。驚かれたりするのかな?似てはないからね。
「姉妹…」
まあその反応になるよね。逆にガイアの適応力が高すぎるんだよ、たぶん。
そういえばローゼンベルク…名前は前に聞いたことがある。
「ローゼンベルクって結構いいお家柄だよね?失礼な質問でごめんだけど」
「いえ…今はそれほどでも。昔の話だそうです。テレス…テレストリア・ローゼンベルク様の時代はゼブル様たちとも近い関係だったそうですが…今はそこまででもないみたいです」
テレストリア?名前は聞いたことあるような気もするけど…ルーシーや養父さんなら知ってるかな?後で聞いてみよう。
「ところで、なんで声をかけてくれたの?友達ならもちろん大募集なんだけど…なにか力になれることはある?」
「えっと…その…この街について教えてもらえないでしょうか…?あっ…もしよければです…」
「私…ローゼンベルク家は隣国にあるので…この街に引っ越してきて時間があまり経ってなくてまだ分からないことが多くて…」
なるほど、確かにそうだ。マリーの実家"ローゼンベルク家"のある国"ラリーパ"はこの学園(と僕の家)がある"ルスラシア"の隣にある。逆になぜ今まで思い出せてなかったのか不思議なぐらい、国外にあるんだった。
「いいよ。放課後、買い物ついでにこの街のおすすめスポットでも教えるね」
「あ…ありがとうございます…。よろしくお願いします」
この街はそれなりに広い。卵が先か鶏が先かは知らないが、"レウシア"というこの街にはビル街から駅地下街、そして同じ"レウシア"の名を冠する高校がある。緊張気味の少女の憂いを祓うために、どこに向かおうか。思案を巡らせ30分、終業のチャイムが鳴り響く。
今日は午前だけで授業は終わり。ルーシーに用事がある、と伝えるとルーシーはルーシーの方でやりたいことがあるらしく、快く送り出してくれた。そのまま僕はマリーを連れて校舎を飛び出したのだ。
学校を出て最初に向かうは校門前の大通り。"レウシア"はルスラシアでも結構な大都市だ。学校の前ですら人で賑わっている。大通りに沿って西に2ブロック進んだ先には複合商業施設"ブラント・コート"がある。学生から社会人まで、帰り道にここにお世話になる人もかなり多い。
「"ラリーパ"にも多分似た感じのところあるよね?」
「はい、家の近くにはなかったのですが…連れていってもらったことはあります」
やはりこういう巨大なお店はどこの国にもあるものか。今度他国に旅行するときは違いを探すのもいいかもしれない。
自動ドアから中に入ると、一階には食品コーナーが広がっている。パンや麺など主食から、肉、魚、野菜…とにかくなんでもある。お菓子すら置いてあるから小学生にも大人気。僕が子供の頃は駄菓子屋に行ってたような気もするけど、近所のお店は潰れちゃったからな。今の少年たちにとってはここが戦場、そして憩いの場だ。
しかしここに来た理由は正確にはこれじゃない。
「マリー、上行こう!」
「は…はい」
エレベーターで階を跨ぎ上昇する。二階には漫画も売ってる本屋があり、四階はゲーム漫画や、アニメのグッズが大量に置いてあるお店のフロアとなっている。その先の五階はあらゆる属性に向けた服が並ぶファッションエリア、最上階たる六階はラーメンからスイーツまでなんでも楽しめる食の楽園だ。しかし僕たちが参る三階は子供向けフロア、特撮の武器や知育玩具がメインの場所だ。されどここには同時にゲームセンターがある。確かに駅の方にもゲーセンはある。しかしだ、買い物ついでにすぐ遊べるという利便性はあちらにはない利点。しかも子供向けのクレーンゲームやエアホッケーだけじゃなく格ゲーの筐体なども置いてある。子供というにはちょっと老いすぎた我々も楽しめる設計となっているとは、なんと素晴らしい。色々眺めているうちに、遊戯台の行列の一角にあるものを見つける。あれは…!!
「マリー・ローゼンベルク…サーシャ・デュアペルはゼブル家代理として…貴殿に決闘を申し込む!」
「け…決闘…ですか?」
「…ごめん。これ一緒にやってほしいだけ。一度こういうかっこよさそうなこと言ってみたくてさ…」
メダルゲーム。リアルマネーをゲーセン専用のメダルに両替して、ゲームを遊んで増やしていくもの。実際は負け続けて3分で全てを失うか、勝ちに勝ってメダルが溢れて困るかのどっちか。余ったメダルを保管してくれるお店もあるけど、そんなのはどうでもいい。今大事なことはひとつ。
「一時間後にどっちのメダルが多いかで勝負しない?」
どちらのメダルが多いかだ。
「勝負ですか…はい、お願いします」
乗ってくれたようでなにより。意外と勝負事には自信があるのかな?メダル100枚からのスタートで、増やし方は自由。どのゲームでもいい。そう取り決めてメダル購入、決闘の始まりだ。
「よしっ、これがいいかな」
叩いて被ってジャンケンポン。じゃんけんで勝ったら右のボタンで相手の頭をひっぱたき、負けたら左ボタンでガードするゲーム。序盤は運には頼らず実力勝負、手堅く堅実に枚数を増やす。元手がなければ大勝負には勝てない。富める者はますます富む、メダルゲームでもそれは変わらないのだ。5枚が2倍になっても10枚だけど、元が500枚なら1000枚に。大きく賭けることができるならリターンも大きくなる。
じゃんけんぽん!グー対チョキ!右ボタン!
じゃんけんぽん!グー対パー!左でガード!
じゃんけんぽん!チョキ対チョキ!あいこならもう1回!
じゃんけんぽん!じゃんけんぽん!じゃんけんぽん!
この完璧な理論で負けるわけがない!そう思ってた時期が僕にもありました。
所詮世の中は運ゲーです。次に挑んだのはメダル落としの台、されどいくら突っ込んでも一枚も落ちてこないのです。失ったものを数えるのはよくないとわかっているはずなのに、取り戻すべくメダルを追加投入。30分で素寒貧。はいっ敗北確定。マリーの方を見てみるとメダルが大漁、大勝ち…!ってわけでもないみたい。マリーはマリーでツイてないみたいで。
追加で待つこと30分、マリーとメダル入れバケツを見せあった結果は両者0。イーブンだった。
「引き分け…ですね…」
「お互い不運だねー」
うーむ、スッキリしない結論になってしまった。この痛み分けの感情をどうやって処理するべきだろうか…?
