「まったくあなたは…もう少し自信を持てばよかったと思うのですけど?」
「返す言葉もございません、でも自信たっぷりってのも楽なことじゃないんだよ」
自己肯定感というものは大切だ。僕のそれは平均より低い気がする。水魔法というものの扱いは悪いし、いっそすべてを不遇なる水魔法のせいにしてしまいたい。でもその水魔法使いの中では僕は恵まれた方だったよね?じゃあ水魔法は関係なさそうなのになぜ…わからない。人間の成長とは理解しがたい。
ルーシーの正論に耳を痛めながら話の続きを試みようとすると、背後に「ヌッ」と形容すべき素早い気配の現れを感じる。
「なあ、お前ゼブルの嬢さんと仲良しなのか?」
不意に声をかけられた。この声の主は、
「サーシャだったよな?俺はガイア。ガイア・イワノフだ」
ガイアか。覚えてる。まだ自分の自己紹介が始まるだいぶ前でメンタルに余裕があったから覚えてる。
なにかスポーツでもやっていたんであろうやや筋肉質な体つき、さっぱりとした印象をもたらす藍色の短髪。話し方も力に溢れていて、同じ青系統の髪なのに僕とは違って友達が多かったんだろうな、と内心めちゃくちゃ羨ましがっている。顔にも出るぐらいに。
「そうそう、姓がイワノフなんでな、"岩使いのイワノフ"とでも覚えてくれ」
ダシャレキャラ?名は体を表す?天稟魔法は大体の場合親や兄弟と似た系統のものになる。親も岩使いなんだとしたらこのギャグは一族に脈々と受け継がれる伝家の宝刀なのだろうか。
…気を取られきってしまう前に話を戻そう。このままだとお互いが本来の目的を忘れてしまう。
「えっと…ルーシーとの関係?知り合いと言えば知り合い…なんだけど」
ルーシーの方を窺いながら言葉を濁す。姉妹ということを伝えるべきか決めあぐねていると、
「サーシャとは言ってしまえば姉妹ですわね。血は繋がってないので義理の、ではありますけど」
ルーシーは思ったよりもあっさりと姉妹であることを告白した。家庭環境がやや複雑だけどそこを深くは説明しなくてもよかったのか。
「姉妹?そうだったのか。仲良しの姉妹は羨ましいな」
「まあ二人とも、これからよろしくな。楽しい一年にできたらな、って思ってるぜ」
高校初の友人ってことでいいよね?僕からだけの思い込みじゃないことを祈りつつ、友人ができたことを心の底から喜ぶ。それはルーシーも同じのようだ。ひとつ違うのは、ルーシーは既にお互いが友人関係だと確信してるところだけど。
「こちらこそよろしくね」
「よろしくお願いいたしますわ」
「そんなわけで…せっかくだから校舎全体を回ってかないか?何があるか気になるもんでな」
探検か。同じ新鮮なものを見つつ親睦を深めるというのもきっといいことだ。ガイアとルーシーに置いてかれないように着いていく。まずは四階建てのうち、僕たちの教室がある三階を見て回ろう。
「ここはなんの部屋だろう?」
「生物室ですわね。人体模型は置いてないのでしょうか?」
鍵は持っていないし無理やり開けるってわけにもいかない。きっとこれから"深夜の学校で出てほしくないものリスト"トップテン入り間違いなしの人体模型さんがあるかは、また今度授業のときにこっそり確かめよう。
三階を一周して元の場所に戻ってきた。一つ降りて二階に行ってみよう。
「おっ、ここは調理室だな。二人とも料理はできるのか?」
「いや…それがぜんぜん…」
「人並み…程度ですわ」
なにせゼブル家のメイドさんの料理はおいしいのだ。自分で作ることもそんなないので料理スキルは小学生のころからあまり成長していない。自己紹介でもだいたいなんでもできると言っていたぐらいだしルーシーの発言にはやや謙遜が入っているだろうけど。
「逆にガイアは料理できるの?」
「……食べたいならいいぞ」
うん、なんで最初の方黙った。もしかして食品以外の何かを生成するタイプの人間なのか?そんなはずあるまいな。…あるまいな?
二階もだいたい見終わったし、階段を上がって最上階、四階に向かう。
「この部屋は…なんて言うんっだっけな」
「視聴覚室っていうのかな?スクリーンもプロジェクターもいいやつ使ってそうだね」
「うちで契約してるサブスクもここならもっと楽しめそうですわね!」
おいおいルーシーさん。あんたはお金持ちなんだし家にシアタールーム的なの作ってもらえばいいでしょうが。思えば意外にもゼブル家にはプロジェクターのある部屋がないのか。確かにそうだったな。僕もそんな部屋使ったことがなければ見たこともない。映画を見るとしたら自分の部屋のテレビとかあるし。「大画面は映画館で」、これがゼブル家の教育なのだろうか?
校舎内はこれでおおむね全部かな。そこで二人にも下に行くことを提案したら快く着いてきてくれた。そして一階、校舎から出てすぐに。
「体育館だ。なあ、少しバスケやってってもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。フリースロー対決とかにでも付き合おうか?…ルーシーが」
「わたくしですの!?」
しょうがないだろう。だってルーシーの方がスポーツできるから。結局僕も巻き込まれたけど。ガイアは10本中8本、ルーシーは7本決め、僕は1本しか入らなかった。勝敗の結果、仕方なく僕はルーシーとガイアにパンをひとつずつ奢ることになり、ついでで僕もひとついただいた。この学校、学食にも期待できそうだ。相当においしいよ、このカレーパン。敗北の痛みは美食で癒すことにしよう。
探索を終えて、明日から使うであろうグラウンドに足を踏み入れ別れの挨拶をする。今日は上級生は来ていないらしく、部活をやってる生徒の姿はない。今この場には僕たち三人だけだ。すぐにゼロ人になるけど。
「じゃあまた明日な。授業も始まるらしいからちゃんと準備はした方がいいぞ」
ガイアは手を振りながら門をくぐり、街の方へ消えていった。
「わたくしたちも帰りますわよ」
「そうだね」
日が暮れてきた。夜がくる前に早く帰ろう。
「返す言葉もございません、でも自信たっぷりってのも楽なことじゃないんだよ」
自己肯定感というものは大切だ。僕のそれは平均より低い気がする。水魔法というものの扱いは悪いし、いっそすべてを不遇なる水魔法のせいにしてしまいたい。でもその水魔法使いの中では僕は恵まれた方だったよね?じゃあ水魔法は関係なさそうなのになぜ…わからない。人間の成長とは理解しがたい。
ルーシーの正論に耳を痛めながら話の続きを試みようとすると、背後に「ヌッ」と形容すべき素早い気配の現れを感じる。
「なあ、お前ゼブルの嬢さんと仲良しなのか?」
不意に声をかけられた。この声の主は、
「サーシャだったよな?俺はガイア。ガイア・イワノフだ」
ガイアか。覚えてる。まだ自分の自己紹介が始まるだいぶ前でメンタルに余裕があったから覚えてる。
なにかスポーツでもやっていたんであろうやや筋肉質な体つき、さっぱりとした印象をもたらす藍色の短髪。話し方も力に溢れていて、同じ青系統の髪なのに僕とは違って友達が多かったんだろうな、と内心めちゃくちゃ羨ましがっている。顔にも出るぐらいに。
「そうそう、姓がイワノフなんでな、"岩使いのイワノフ"とでも覚えてくれ」
ダシャレキャラ?名は体を表す?天稟魔法は大体の場合親や兄弟と似た系統のものになる。親も岩使いなんだとしたらこのギャグは一族に脈々と受け継がれる伝家の宝刀なのだろうか。
…気を取られきってしまう前に話を戻そう。このままだとお互いが本来の目的を忘れてしまう。
「えっと…ルーシーとの関係?知り合いと言えば知り合い…なんだけど」
ルーシーの方を窺いながら言葉を濁す。姉妹ということを伝えるべきか決めあぐねていると、
「サーシャとは言ってしまえば姉妹ですわね。血は繋がってないので義理の、ではありますけど」
ルーシーは思ったよりもあっさりと姉妹であることを告白した。家庭環境がやや複雑だけどそこを深くは説明しなくてもよかったのか。
「姉妹?そうだったのか。仲良しの姉妹は羨ましいな」
「まあ二人とも、これからよろしくな。楽しい一年にできたらな、って思ってるぜ」
高校初の友人ってことでいいよね?僕からだけの思い込みじゃないことを祈りつつ、友人ができたことを心の底から喜ぶ。それはルーシーも同じのようだ。ひとつ違うのは、ルーシーは既にお互いが友人関係だと確信してるところだけど。
「こちらこそよろしくね」
「よろしくお願いいたしますわ」
「そんなわけで…せっかくだから校舎全体を回ってかないか?何があるか気になるもんでな」
探検か。同じ新鮮なものを見つつ親睦を深めるというのもきっといいことだ。ガイアとルーシーに置いてかれないように着いていく。まずは四階建てのうち、僕たちの教室がある三階を見て回ろう。
「ここはなんの部屋だろう?」
「生物室ですわね。人体模型は置いてないのでしょうか?」
鍵は持っていないし無理やり開けるってわけにもいかない。きっとこれから"深夜の学校で出てほしくないものリスト"トップテン入り間違いなしの人体模型さんがあるかは、また今度授業のときにこっそり確かめよう。
三階を一周して元の場所に戻ってきた。一つ降りて二階に行ってみよう。
「おっ、ここは調理室だな。二人とも料理はできるのか?」
「いや…それがぜんぜん…」
「人並み…程度ですわ」
なにせゼブル家のメイドさんの料理はおいしいのだ。自分で作ることもそんなないので料理スキルは小学生のころからあまり成長していない。自己紹介でもだいたいなんでもできると言っていたぐらいだしルーシーの発言にはやや謙遜が入っているだろうけど。
「逆にガイアは料理できるの?」
「……食べたいならいいぞ」
うん、なんで最初の方黙った。もしかして食品以外の何かを生成するタイプの人間なのか?そんなはずあるまいな。…あるまいな?
二階もだいたい見終わったし、階段を上がって最上階、四階に向かう。
「この部屋は…なんて言うんっだっけな」
「視聴覚室っていうのかな?スクリーンもプロジェクターもいいやつ使ってそうだね」
「うちで契約してるサブスクもここならもっと楽しめそうですわね!」
おいおいルーシーさん。あんたはお金持ちなんだし家にシアタールーム的なの作ってもらえばいいでしょうが。思えば意外にもゼブル家にはプロジェクターのある部屋がないのか。確かにそうだったな。僕もそんな部屋使ったことがなければ見たこともない。映画を見るとしたら自分の部屋のテレビとかあるし。「大画面は映画館で」、これがゼブル家の教育なのだろうか?
校舎内はこれでおおむね全部かな。そこで二人にも下に行くことを提案したら快く着いてきてくれた。そして一階、校舎から出てすぐに。
「体育館だ。なあ、少しバスケやってってもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。フリースロー対決とかにでも付き合おうか?…ルーシーが」
「わたくしですの!?」
しょうがないだろう。だってルーシーの方がスポーツできるから。結局僕も巻き込まれたけど。ガイアは10本中8本、ルーシーは7本決め、僕は1本しか入らなかった。勝敗の結果、仕方なく僕はルーシーとガイアにパンをひとつずつ奢ることになり、ついでで僕もひとついただいた。この学校、学食にも期待できそうだ。相当においしいよ、このカレーパン。敗北の痛みは美食で癒すことにしよう。
探索を終えて、明日から使うであろうグラウンドに足を踏み入れ別れの挨拶をする。今日は上級生は来ていないらしく、部活をやってる生徒の姿はない。今この場には僕たち三人だけだ。すぐにゼロ人になるけど。
「じゃあまた明日な。授業も始まるらしいからちゃんと準備はした方がいいぞ」
ガイアは手を振りながら門をくぐり、街の方へ消えていった。
「わたくしたちも帰りますわよ」
「そうだね」
日が暮れてきた。夜がくる前に早く帰ろう。
