炎に焼かれて死んだかと思った僕たち。しかし、目を覚ました時には瓦礫山脈の廃墟ではなく、綺麗な病院のベッドに寝そべっていた。
「あれ?ここは天国?」
「いや、現実だ」
「…………!」
目の前にいるのは、クラスメイトの1人、アリスだった。僕の見舞いにでも来てくれたのか?
「アリス?アリスがなんで病院に?」
「定期検診と言ったところだな。幼き頃より身体に異常が生じやすい。故にたまに病院に来なければならぬのだ」
なるほど。アリスも大変なんだね。
「ルーシーと一緒に送られてきたそうだな?ルーシーなら隣の部屋だ」
「無事?ルーシーは大丈夫?」
「汝よりもな。汝は身を焼かれる寸前に水を利用しての防御を試みたようだが……ルーシーの方を集中して守ったようだな」
「いいお義姉ちゃんしているではないか」
そりゃどうも。でもよかった。僕のダメージも左手の火傷程度で済んでるから、ルーシーには傷一つないって可能性もあるか。それならもっといいんだけどな。
「では吾は行くぞ。助けが必要なら連絡しろ」
「ありがとね」
意外とあっさり帰ってくんだな。ならこっちも動くか。ルーシーのとこに行ってみよう。
一応お医者さんに部屋出ても大丈夫か質問してから体質。部屋番号と名前欄を見てルーシーの病室であることを確認してから中に入ると、出迎えてくれたのはルーシー……ではなく。
「サーシャか?久しぶりだな。お前も入院したんだってな」
「ガイア!ガイアだ!」
ガイア・イワノフ、先日の戦闘でモニカにボッコボコにされたうちの1人だ。1週間の入院を強いられている彼はまだ体が治りきっていないようで、ベッドごと移動して入口までゆっくり滑ってきたのだ。
「だいぶリスキーなことしたらしいな。又聞きだけど炎が直撃したんだろ?」
「うん。でも焼けたのは左手だけだからね」
「よく言うぜ。……下手したら二度と手を開けなかったんだぞ」
後の医者の説明で、僕を包んだ炎で焼かれたのは左腕だけだったものの、その火力に生身の腕は耐えられなかったらしい。今は包帯をしているからよくわからないけど、肉が中まで焼けて。現場での応急処置の回復魔法がなければ指と指がくっつくところだったとか。つまり、ラッキーだったってことだね。火傷跡は残るらしいけど。
あれ?ちょっと待てよ、あの場には行動不能のメンバーばっかしかいなかったし誰が治したっていうんだろう?ジョンも念入りに倒したはずだしむしろあいつが無事かどうかってところでしょ。そもそも敵を治してくれるものだろうか。じゃあマジで誰なんだ?疑問を吹き飛ばす(解決したとは言ってない)ようにガイアが話してくれたおかげで謎は一度頭からは離れたけど。
「それと、俺よりも詳しく説明してくれる人がいるみたいだぜ」
「えっ?」
ガイアがそう言い右手で……折れてることを思い出し痛みに苦しんだのち左手でやり直して合図を送る。パーテーションとなったカーテンの裏から姿を現したのは、またまたクラスメイトのマリーだ。
「サーシャ様……申し訳ありません。私が知っていれば助けに来れたのに……間に合いませんでした……」
「いいよ別に。助かってるんだからね。でも気になることは多いんだよ……」
「ガイアが色々知ってるって言ってくれたしさ、僕たちがあの後どうなったか説明してくれる?」
「わ……わかりました……」
深呼吸を数回繰り返し、落ち着いたところでマリーは始めた。
「まずはお二人が気絶したすぐあとの話からです。爆発の話を聞きつけた警察よりも先に現場には2人がいたそうです」
「1人はゼブル家のメイド・リン。もう1人は私の姉のモニカ・ローゼンベルクでした」
「モニカ?リンはわかるけどなんでモニカが?」
「わかりません。あの後モニカお姉様に話を聞いたのですがリン様が先に来たということしかわかりませんでした」
モニカとリン……左腕が酷いことになっていたのを治してくれたのはおそらくリンだろう。少しあの廃ビルから離れていたとはいえ、僕たちと一緒に割と近くの海に居たから来るのも不自然じゃない。しかし、なぜモニカが来たんだ?
数日が経ち、ガイアよりも早く退院できてしまったので街に出ることにする。帰ってからなにか食べたいと考えたら、行くべき場所はコンビニだね。病院回りにはなかなかなかったけど、駅の近くまで来たらやっと見えてきた店舗に引き寄せられて入っていく。
「いらっしゃいま…げっ」
げっ、ってなんだよ。げっ、ってさ。
「ユーリ?人のことをなんだと思ってるんだい」
「わからないか、バイト中に知り合いに会えば気まずいものだろう…」
わからないでもないけど。そう思った瞬間、僕の身体は浮き上がり空中に固定された。背後から腹を押さえつけているものは…もちろんユーリのものではない、謎の男の腕。かなりすごい筋肉で、がっちりホールドされている。
「強盗だ!金を出せガキィ!このカバンいっぱいに詰めろよ!」
強盗か!体が動かない。腕を胴ごと腕で締め付けられている。折れるほどの力で締め上げられているゆえ骨から変な音がしている。
「おい早くしろよ!このガキがどうなってもいいのか!こいつを殺したら次はお前を殺してでも持っててってやるよ!」
「どうなってもよくない。だから放せ」
「放すためにはてめーが金を出すんだよ!話聞いてねえのか!!それとも……言葉わかんねえのか?」
「なるほど、俺が異邦人だってのはわかるのか。常識はわかってないみたいだがな」
部屋の温度が急に下がる。僕を締め上げる男もそれに気づいて、左手のナイフを首元に持ち上げた。これは僕の能力じゃない。僕を拘束する彼自身の能力ならビビるはずもないだろう。なら、三人きりの店内なら誰が使ったのかは明白だ。
「てっ……てめえか変な抵抗はやめろぉ!お前が俺を殴るよりこいつの喉が裂ける方が早えぇんだぞ!!」
「それよりも早いことが一つだけある。お前の腕が砕ける方が先だ」
その言葉とともに僕のお腹が下痢の時よりも冷たくなったと思ったら、その原因は腹に当てられた氷塊とわかった。それも、かつて腕と呼ばれていた氷塊だ。
「右手が凍ってる!?しかも左もだ!体が動かねぇ!!」
「こいつ足も凍ってる……これがユーリの天稟魔法……!」
氷だ。ユーリの天稟魔法は氷を操る能力だったのか。瞬間で相手を動けなくするほどに冷却できるなんて、前までのパワーキャラから印象が変わっちゃうね。
「3秒やる。『ごめんなさい』でサーシャを放すか黙って両手を差し出すか。3……」
2、1、奴が体を震わし言葉を絞り出した瞬間、「ごめんなさい」の「ご」に被せるようにゴッ、と鈍器の打撃が響く。ユーリの手には氷の斧。戦斧の峰打ちが男の顔を歪ませていたのだ。
「卑怯者には多少卑怯な手を使っても許される。だろう?」
初めから許す気なんてなかったのか。3秒の猶予も迷いを与えて隙を作るため。
「……時と場合によるかな!」
「素直にありがとうって言えよ」
「……ったく、ルスラシアも安全ではなくなってきたな……」
「ほんとだよ、最近事件多いよね」
テレビのニュースでも犯罪率は微増しているとか言われている。しかし、僕に関しては黒服の組織"嘆きの残党"の印象が強い。僕の"禁忌"を狙っては命を奪うことにも躊躇のない超危険人物の集まり。
「帰りも気をつけろよ。俺はバイトに戻るから助けられないぞ」
「大丈夫だよ、さっきのは不意打ちだもん」
「不意打ちじゃない強盗はいるんだろうか……」
正面から正々堂々現れる強盗がいるのかはさておき、ユーリとの話を終えて帰ることにする。あっ、そういえば結局買いたいものを買えてないんだった。仕方ないので店に戻らざるを得ない。
コンビニで今週の週リヴィとコーラを買ってから、ユーリの冷たい目線と空気を受けて店を出る。
もう夕方になって、日も落ちてきた。そんな赤い空の下、帰り道でふと振り返ると、電信柱に誰かが隠れたような気がする。確かに誰もいない。でも誰かいるような気がしてならない。
ゆっくり接近、そして2メートルほどで声をかける。
「動くな!そこにいるのはわかってるぞ!!」
影が揺らいだ!誰かいる!
「ゆっくりこっちに出てきて!武器は捨ててね!」
僕の案内に従い出てきたのは、
「あれ?バレちゃった?」
黒いフード。またこいつら?連絡施設が壊滅したのによく動けるな。そう思い即戦闘体勢に移ると、ヤツは震え出した。
「ちょっと待って!ストップ!ストーップ!!脱ぐから!」
脱ぐっておい。全部は脱ぐなよ。そんな危惧が現実になることなんてもちろんなく、焦りながらフードを脱ぎ捨て姿を現したのは、マリーの姉、ミカ・ローゼンベルクだった。
「え?知り合い?ミカ……でしたっけ」
「うん。ごめんねー……絶対紛らわしかったよね?」
はい、紛らわしかったです。めちゃくちゃ紛らわしかったですよ。また戦わなくちゃいけないのかと。
「あんたら姉妹揃って同じ黒フードなんですね。血は争えぬってやつですか?」
「えっ?マリーちゃん……ではないだろうからモニカお姉ちゃんと?」
嫌なんだ。一緒扱い嫌なんだ。めちゃくちゃ顔に出てるよ、嫌だって。確かに奇人ではあるしね。
「おかしいなぁ……今まで誰にも見つからなかったのに君には視認えてるなんてね」
「まあいっか。それよりも……盗み聞きはよくないよ?ユーリくん?」
「ちっ……」
舌打ちしながら逆サイドから登場。僕の背後をなぜかつけていたのだろうか。そもそもバイト中じゃないかと疑う前に、ユーリとミカが知り合い(?)なことに驚いている。
「えっ?面識あったの?」
「うん。まあバイトの後輩みたいな感じかな」
「そこのコンビニではないけどな」
掛け持ちか。そういえばユーリ、ウグピナツから来てるし一人暮らしなんだよね。ダブルワークするぐらい大変なのか、それとも浪費癖でもあるのか……そしてミカと知り合いと来た。世間って狭いんだなぁ。
「じゃあ私はマリーちゃんに会ってくるから。お二人様でお幸せにー!」
そう言ってミカは速く駆け、一瞬のうちに姿を消す。残されたのはミカの別れの言葉の間にまた柱の裏に隠れやがったユーリと僕だけだ。
「ユーリ?出てきなよ。出てこないとこうだよ」
僕の天稟魔法、"四重波の灘"は有効射程範囲が広いし、見えないところも探ることができる。それを利用して、ユーリのいそうな所に上から水をバラ撒く。突然の集中豪雨にユーリはどんな反応をしてくれるかな?答えは正直つまんなかった。
予想通りといえば予想通り、ユーリは濡れずに歩いて出てきた。
「まったく……自分から仕掛けといてその顔はなんだ?」
「やっぱ凍らせたの?さっきまであった水が感知できなくなってる」
「ほう、水が水じゃなくなると操作できなくなるのか?」
その通り。僕の魔法じゃ水が水じゃなくなった途端に操作を受け付けなくなるし、能力で操作対象に選ぶこともできなくなる。だから氷使い(特に冷気の操作)とは相性最悪で、炎使い相手でも火力次第では蒸発させられて戦いが圧倒的不利になる。
つまり今日学んだことはみっつ。ひとつ、僕もルーシーも案外無事。ふたつ、ルスラシアの治安は順当に悪化中。そしてみっつめ、ユーリとは戦いたくない、以上。
さて、これから本格的に夜になるけど今日はこれからどうしようかな。今までマリーやガイアとお出かけしたこともあるし、ならばユーリと一緒に行動してみようか?
「あれ?ここは天国?」
「いや、現実だ」
「…………!」
目の前にいるのは、クラスメイトの1人、アリスだった。僕の見舞いにでも来てくれたのか?
「アリス?アリスがなんで病院に?」
「定期検診と言ったところだな。幼き頃より身体に異常が生じやすい。故にたまに病院に来なければならぬのだ」
なるほど。アリスも大変なんだね。
「ルーシーと一緒に送られてきたそうだな?ルーシーなら隣の部屋だ」
「無事?ルーシーは大丈夫?」
「汝よりもな。汝は身を焼かれる寸前に水を利用しての防御を試みたようだが……ルーシーの方を集中して守ったようだな」
「いいお義姉ちゃんしているではないか」
そりゃどうも。でもよかった。僕のダメージも左手の火傷程度で済んでるから、ルーシーには傷一つないって可能性もあるか。それならもっといいんだけどな。
「では吾は行くぞ。助けが必要なら連絡しろ」
「ありがとね」
意外とあっさり帰ってくんだな。ならこっちも動くか。ルーシーのとこに行ってみよう。
一応お医者さんに部屋出ても大丈夫か質問してから体質。部屋番号と名前欄を見てルーシーの病室であることを確認してから中に入ると、出迎えてくれたのはルーシー……ではなく。
「サーシャか?久しぶりだな。お前も入院したんだってな」
「ガイア!ガイアだ!」
ガイア・イワノフ、先日の戦闘でモニカにボッコボコにされたうちの1人だ。1週間の入院を強いられている彼はまだ体が治りきっていないようで、ベッドごと移動して入口までゆっくり滑ってきたのだ。
「だいぶリスキーなことしたらしいな。又聞きだけど炎が直撃したんだろ?」
「うん。でも焼けたのは左手だけだからね」
「よく言うぜ。……下手したら二度と手を開けなかったんだぞ」
後の医者の説明で、僕を包んだ炎で焼かれたのは左腕だけだったものの、その火力に生身の腕は耐えられなかったらしい。今は包帯をしているからよくわからないけど、肉が中まで焼けて。現場での応急処置の回復魔法がなければ指と指がくっつくところだったとか。つまり、ラッキーだったってことだね。火傷跡は残るらしいけど。
あれ?ちょっと待てよ、あの場には行動不能のメンバーばっかしかいなかったし誰が治したっていうんだろう?ジョンも念入りに倒したはずだしむしろあいつが無事かどうかってところでしょ。そもそも敵を治してくれるものだろうか。じゃあマジで誰なんだ?疑問を吹き飛ばす(解決したとは言ってない)ようにガイアが話してくれたおかげで謎は一度頭からは離れたけど。
「それと、俺よりも詳しく説明してくれる人がいるみたいだぜ」
「えっ?」
ガイアがそう言い右手で……折れてることを思い出し痛みに苦しんだのち左手でやり直して合図を送る。パーテーションとなったカーテンの裏から姿を現したのは、またまたクラスメイトのマリーだ。
「サーシャ様……申し訳ありません。私が知っていれば助けに来れたのに……間に合いませんでした……」
「いいよ別に。助かってるんだからね。でも気になることは多いんだよ……」
「ガイアが色々知ってるって言ってくれたしさ、僕たちがあの後どうなったか説明してくれる?」
「わ……わかりました……」
深呼吸を数回繰り返し、落ち着いたところでマリーは始めた。
「まずはお二人が気絶したすぐあとの話からです。爆発の話を聞きつけた警察よりも先に現場には2人がいたそうです」
「1人はゼブル家のメイド・リン。もう1人は私の姉のモニカ・ローゼンベルクでした」
「モニカ?リンはわかるけどなんでモニカが?」
「わかりません。あの後モニカお姉様に話を聞いたのですがリン様が先に来たということしかわかりませんでした」
モニカとリン……左腕が酷いことになっていたのを治してくれたのはおそらくリンだろう。少しあの廃ビルから離れていたとはいえ、僕たちと一緒に割と近くの海に居たから来るのも不自然じゃない。しかし、なぜモニカが来たんだ?
数日が経ち、ガイアよりも早く退院できてしまったので街に出ることにする。帰ってからなにか食べたいと考えたら、行くべき場所はコンビニだね。病院回りにはなかなかなかったけど、駅の近くまで来たらやっと見えてきた店舗に引き寄せられて入っていく。
「いらっしゃいま…げっ」
げっ、ってなんだよ。げっ、ってさ。
「ユーリ?人のことをなんだと思ってるんだい」
「わからないか、バイト中に知り合いに会えば気まずいものだろう…」
わからないでもないけど。そう思った瞬間、僕の身体は浮き上がり空中に固定された。背後から腹を押さえつけているものは…もちろんユーリのものではない、謎の男の腕。かなりすごい筋肉で、がっちりホールドされている。
「強盗だ!金を出せガキィ!このカバンいっぱいに詰めろよ!」
強盗か!体が動かない。腕を胴ごと腕で締め付けられている。折れるほどの力で締め上げられているゆえ骨から変な音がしている。
「おい早くしろよ!このガキがどうなってもいいのか!こいつを殺したら次はお前を殺してでも持っててってやるよ!」
「どうなってもよくない。だから放せ」
「放すためにはてめーが金を出すんだよ!話聞いてねえのか!!それとも……言葉わかんねえのか?」
「なるほど、俺が異邦人だってのはわかるのか。常識はわかってないみたいだがな」
部屋の温度が急に下がる。僕を締め上げる男もそれに気づいて、左手のナイフを首元に持ち上げた。これは僕の能力じゃない。僕を拘束する彼自身の能力ならビビるはずもないだろう。なら、三人きりの店内なら誰が使ったのかは明白だ。
「てっ……てめえか変な抵抗はやめろぉ!お前が俺を殴るよりこいつの喉が裂ける方が早えぇんだぞ!!」
「それよりも早いことが一つだけある。お前の腕が砕ける方が先だ」
その言葉とともに僕のお腹が下痢の時よりも冷たくなったと思ったら、その原因は腹に当てられた氷塊とわかった。それも、かつて腕と呼ばれていた氷塊だ。
「右手が凍ってる!?しかも左もだ!体が動かねぇ!!」
「こいつ足も凍ってる……これがユーリの天稟魔法……!」
氷だ。ユーリの天稟魔法は氷を操る能力だったのか。瞬間で相手を動けなくするほどに冷却できるなんて、前までのパワーキャラから印象が変わっちゃうね。
「3秒やる。『ごめんなさい』でサーシャを放すか黙って両手を差し出すか。3……」
2、1、奴が体を震わし言葉を絞り出した瞬間、「ごめんなさい」の「ご」に被せるようにゴッ、と鈍器の打撃が響く。ユーリの手には氷の斧。戦斧の峰打ちが男の顔を歪ませていたのだ。
「卑怯者には多少卑怯な手を使っても許される。だろう?」
初めから許す気なんてなかったのか。3秒の猶予も迷いを与えて隙を作るため。
「……時と場合によるかな!」
「素直にありがとうって言えよ」
「……ったく、ルスラシアも安全ではなくなってきたな……」
「ほんとだよ、最近事件多いよね」
テレビのニュースでも犯罪率は微増しているとか言われている。しかし、僕に関しては黒服の組織"嘆きの残党"の印象が強い。僕の"禁忌"を狙っては命を奪うことにも躊躇のない超危険人物の集まり。
「帰りも気をつけろよ。俺はバイトに戻るから助けられないぞ」
「大丈夫だよ、さっきのは不意打ちだもん」
「不意打ちじゃない強盗はいるんだろうか……」
正面から正々堂々現れる強盗がいるのかはさておき、ユーリとの話を終えて帰ることにする。あっ、そういえば結局買いたいものを買えてないんだった。仕方ないので店に戻らざるを得ない。
コンビニで今週の週リヴィとコーラを買ってから、ユーリの冷たい目線と空気を受けて店を出る。
もう夕方になって、日も落ちてきた。そんな赤い空の下、帰り道でふと振り返ると、電信柱に誰かが隠れたような気がする。確かに誰もいない。でも誰かいるような気がしてならない。
ゆっくり接近、そして2メートルほどで声をかける。
「動くな!そこにいるのはわかってるぞ!!」
影が揺らいだ!誰かいる!
「ゆっくりこっちに出てきて!武器は捨ててね!」
僕の案内に従い出てきたのは、
「あれ?バレちゃった?」
黒いフード。またこいつら?連絡施設が壊滅したのによく動けるな。そう思い即戦闘体勢に移ると、ヤツは震え出した。
「ちょっと待って!ストップ!ストーップ!!脱ぐから!」
脱ぐっておい。全部は脱ぐなよ。そんな危惧が現実になることなんてもちろんなく、焦りながらフードを脱ぎ捨て姿を現したのは、マリーの姉、ミカ・ローゼンベルクだった。
「え?知り合い?ミカ……でしたっけ」
「うん。ごめんねー……絶対紛らわしかったよね?」
はい、紛らわしかったです。めちゃくちゃ紛らわしかったですよ。また戦わなくちゃいけないのかと。
「あんたら姉妹揃って同じ黒フードなんですね。血は争えぬってやつですか?」
「えっ?マリーちゃん……ではないだろうからモニカお姉ちゃんと?」
嫌なんだ。一緒扱い嫌なんだ。めちゃくちゃ顔に出てるよ、嫌だって。確かに奇人ではあるしね。
「おかしいなぁ……今まで誰にも見つからなかったのに君には視認えてるなんてね」
「まあいっか。それよりも……盗み聞きはよくないよ?ユーリくん?」
「ちっ……」
舌打ちしながら逆サイドから登場。僕の背後をなぜかつけていたのだろうか。そもそもバイト中じゃないかと疑う前に、ユーリとミカが知り合い(?)なことに驚いている。
「えっ?面識あったの?」
「うん。まあバイトの後輩みたいな感じかな」
「そこのコンビニではないけどな」
掛け持ちか。そういえばユーリ、ウグピナツから来てるし一人暮らしなんだよね。ダブルワークするぐらい大変なのか、それとも浪費癖でもあるのか……そしてミカと知り合いと来た。世間って狭いんだなぁ。
「じゃあ私はマリーちゃんに会ってくるから。お二人様でお幸せにー!」
そう言ってミカは速く駆け、一瞬のうちに姿を消す。残されたのはミカの別れの言葉の間にまた柱の裏に隠れやがったユーリと僕だけだ。
「ユーリ?出てきなよ。出てこないとこうだよ」
僕の天稟魔法、"四重波の灘"は有効射程範囲が広いし、見えないところも探ることができる。それを利用して、ユーリのいそうな所に上から水をバラ撒く。突然の集中豪雨にユーリはどんな反応をしてくれるかな?答えは正直つまんなかった。
予想通りといえば予想通り、ユーリは濡れずに歩いて出てきた。
「まったく……自分から仕掛けといてその顔はなんだ?」
「やっぱ凍らせたの?さっきまであった水が感知できなくなってる」
「ほう、水が水じゃなくなると操作できなくなるのか?」
その通り。僕の魔法じゃ水が水じゃなくなった途端に操作を受け付けなくなるし、能力で操作対象に選ぶこともできなくなる。だから氷使い(特に冷気の操作)とは相性最悪で、炎使い相手でも火力次第では蒸発させられて戦いが圧倒的不利になる。
つまり今日学んだことはみっつ。ひとつ、僕もルーシーも案外無事。ふたつ、ルスラシアの治安は順当に悪化中。そしてみっつめ、ユーリとは戦いたくない、以上。
さて、これから本格的に夜になるけど今日はこれからどうしようかな。今までマリーやガイアとお出かけしたこともあるし、ならばユーリと一緒に行動してみようか?
