1月17日、1~3時間目は通常授業、4時間目は体育館で共通テスト壮行会が行われる。3時間目の授業を終えて壮行会に向かう健吾と永嗣に声をかけ、昨日買ったプレゼントをわたした。健吾にはラーメン店の食事券、永嗣には風景の写真集。
「うわ~!めっちゃうれしい!ありがと。今度みんなで食べにいこ」
「えー、これ欲しかったやつ…春樹ありがとう」
「おぉ…共通テストがんばれ」
二人とも喜んでくれてよかった。昨日、九条とラブホを出てから2時間くらい歩き回って、結局一番最初に選んだものを買った。連れ回すのが申し訳なくて先に帰ってくれと言ったのに、心配だからと最後まで付き合ってくれた。本当にいい奴だ。今度昼飯でも奢ってやろう。
「あーそれわたしたんだ。昨日さ、これ買いに行くのついてったんだけど、春樹ってばめちゃくちゃ迷って3時間くらいウロウロしたよ」
急に現れて言わなくてもいいことをさらっと口にする九条。
「お前、余計なこと言うなよ」
健吾と永嗣が驚いて目を見合わせている。
「3時間も…疲れたでしょ。そんなの聞いたらもったいなくて使えんわ」
「そうだよね、春樹プレゼント選び苦手なのに…ほんとありがと」
「いや、べつにそんなたいしたことないから…ほら、壮行会始まるぞ」
4時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り、二人の背中をおして壮行会に送り出した。
高価なものを買ったわけでもないから本当にたいしたことないのに二人ともすごく喜んでくれた。俺もうれしくて顔がにやにやしてしまう。
「ふにゃふにゃしてる。かわいいなぁ~春樹は」
顔を覗きこみ頬にぶすぶすと人差し指を突き刺してくる。九条の方がよっぽどふにゃふにゃデレデレしている。イケメンが台無し。
「うるさい、帰るぞ」
「あ、ごめん。今日は美紀と一緒に帰る約束してるから」
リュックを背負い桜庭美紀の席へいき、「じゃあね春樹」と手を振ると、二人並んで教室を出て行った。
「……え?」
どういうこと?もしかしてより戻した??
「ってか、なんで??」
なんかさっきから胸がチクチク痛くて少し息苦しい。周りを見回すと、教室に残っているのは俺だけだった。
さみしいな…健吾と永嗣おわるの待ってようかな。でも、1時間も一人でいるの嫌だし…
「はぁ…かえろ」
小さなため息が静まり返った広い教室に響く。カバンを手に取り廊下をでた。「春樹、帰ろ!」と、いつも笑顔で駆けてくる九条は今日はいない。たったそれだけのことなのに、頭がモヤモヤして胸がチクチクする。それを振り払うように、イヤフォンを耳につけて音楽を再生した。
*****
1月20日、共通テストの自己採点の日。18日と19日の共通テストを受けた生徒は、登校して自己採点をしなければならない。俺は共通テストを受けていないので登校しなくてもいいんだけど、健吾・永嗣と昼にラーメンを食べに行く約束をしたので、そのためにわざわざ学校にきた。
図書室にて、月末にある卒業テストに向けて勉強中…のはずが、集中力が切れて机に突っ伏してしまっている。隣に座る九条が、数学のノートに変なラクガキをして笑わせてくる。ムキムキマッチョな猫がパワーポーズをしてヤー!と叫んでいる。普段ならおもしろくもなんともないのに、図書室の静かな空間の中ではなぜか笑いがこみ上げてくる。笑ってはいけないと思うと余計におかしくて、口をおさえて笑うのを必死に我慢する。そのうち、ブッフォ…と九条がふきだしてしまい、それを合図に俺もブフーと声をだしてしまった。カウンターで作業していた司書の先生に睨まれたので、慌てて片付けてそそくさと図書室を出た。
廊下の窓からグラウンドをみると、昨夜チラチラと降った雪が少しだけ積もっている。「雪だるまつくろ~」と九条が歌い始め、俺の手を引いてパタパタと廊下を走る。教室から顔を出した教師にうるさいぞ~と注意され、ゆっくりと歩く。その教師が教室に引っ込んだのを見計らって再び廊下を走る。いつの間にか九条との競走になっていて、生徒玄関の下駄箱まで全速力で走った。
「イェーイ!俺の勝ち!」
下駄箱に先にタッチしたのは九条だった。
「えぇー…なんでそんな速い…全然息もきれてないし…」
肩で息をする俺とニッと余裕の笑みを浮かべる九条。
「運動神経いいんだよね。自慢じゃないけど、運動神経いいんだよね」
「二回言った。うざっ」
そういえば、体育祭の時リレーでアンカーしてたっけ。
下駄箱で靴を履き替えて外に出た。学校のグラウンドで雪だるまなんか作ったらまた教師に怒られてめんどくさい。俺たちは近くにある公園広場に行くことにした。
学校の西側にある公園広場は遊具ゾーンと芝生ゾーンに分かれている。学校のグラウンドと同じくらいの広さだ。俺たちが着いた時にはまだ誰も足を踏み入れておらず、九条と顔を見合わせてニヨニヨ笑いながら「わーっ!」と駆け回った。白銀の世界にたくさんの足跡がついていく。振り返り自分がつけた足跡をみてなぞの達成感に満たされる。
芝生ゾーンで雪の上にダイブしてころころ転がっている九条。黒のダウンジャケットに雪がちらほら付着している。俺は遊具ゾーンにいって、遊具の上に積もっている雪を集めて雪玉を作った。大の字に寝転がっている九条の顔面めがけて雪玉を投げつけた。雪玉は顔面に命中し「つめたっ!」と九条が驚いて上半身を起こした。九条からの反撃に備えて腕でガードしていたが、反撃してこないので恐る恐る九条の方をみると、こっちにおいでと手招きしていた。警戒しながら九条の元へいく。
「春樹~足に力が入んないよ~起こして~」
「はぁ? ったく、なにしてんだよ」
伸ばされた手を握り引っ張ろうとしたら逆に引っ張られて、バランスを崩して九条の身体の上に倒れた。九条は「ぐへっ」とつぶれたカエルのような悲鳴をあげた。
「ふはっ! カエルいた」
「ヴェェー」
「それヤギじゃね?」
「あ、そっか」
立ち上がろうとしたが後頭部と背中に手を回されてがっちりホールドされている。俺は九条の肩口に顔をうめている状態で身動きができない。
「春樹いい匂いするね」
俺の髪に鼻を押し当てて匂いを嗅いでいる。息が耳にあたってくすぐったい。
「ちょ…やめろって」
身じろぎしていたらすぐに解放された。二人でゆっくりと立ち上がる。
「へへっ、春樹はかわいいなぁ~」
またあのふにゃデレ顔で俺をみつめる。怒るつもりだったのに九条といると毒気を抜かれる。
「お前、ほんと俺のことすきだよな?」
冗談のつもりだったのに、みるみるうちに九条の顔が赤くなり下を向いてしまった。
(え…?なにこの反応?!ガチでおれのことすきなの?!)
俺もつられて顔が熱くなる。
「……きだよ」
蚊の鳴くような小さな声が震えている。九条は顔を上げて真っ赤な顔で俺をみる。
「すきだよ、春樹のこと……」
いつもよりも低い声が、しんと静まり返った真っ白な世界に消えていく。しんしんと雪が降り始め、九条のオレンジ髪に触れてはすぐに溶けていく。さっき雪を触った手は氷のように冷たくなって感覚がない。その手を九条が優しく握ってくれる。
「……そろそろいこっか。健吾たちがまってるよ」
九条の手は俺のよりも少しだけあたたかかった。
「うわ~!めっちゃうれしい!ありがと。今度みんなで食べにいこ」
「えー、これ欲しかったやつ…春樹ありがとう」
「おぉ…共通テストがんばれ」
二人とも喜んでくれてよかった。昨日、九条とラブホを出てから2時間くらい歩き回って、結局一番最初に選んだものを買った。連れ回すのが申し訳なくて先に帰ってくれと言ったのに、心配だからと最後まで付き合ってくれた。本当にいい奴だ。今度昼飯でも奢ってやろう。
「あーそれわたしたんだ。昨日さ、これ買いに行くのついてったんだけど、春樹ってばめちゃくちゃ迷って3時間くらいウロウロしたよ」
急に現れて言わなくてもいいことをさらっと口にする九条。
「お前、余計なこと言うなよ」
健吾と永嗣が驚いて目を見合わせている。
「3時間も…疲れたでしょ。そんなの聞いたらもったいなくて使えんわ」
「そうだよね、春樹プレゼント選び苦手なのに…ほんとありがと」
「いや、べつにそんなたいしたことないから…ほら、壮行会始まるぞ」
4時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り、二人の背中をおして壮行会に送り出した。
高価なものを買ったわけでもないから本当にたいしたことないのに二人ともすごく喜んでくれた。俺もうれしくて顔がにやにやしてしまう。
「ふにゃふにゃしてる。かわいいなぁ~春樹は」
顔を覗きこみ頬にぶすぶすと人差し指を突き刺してくる。九条の方がよっぽどふにゃふにゃデレデレしている。イケメンが台無し。
「うるさい、帰るぞ」
「あ、ごめん。今日は美紀と一緒に帰る約束してるから」
リュックを背負い桜庭美紀の席へいき、「じゃあね春樹」と手を振ると、二人並んで教室を出て行った。
「……え?」
どういうこと?もしかしてより戻した??
「ってか、なんで??」
なんかさっきから胸がチクチク痛くて少し息苦しい。周りを見回すと、教室に残っているのは俺だけだった。
さみしいな…健吾と永嗣おわるの待ってようかな。でも、1時間も一人でいるの嫌だし…
「はぁ…かえろ」
小さなため息が静まり返った広い教室に響く。カバンを手に取り廊下をでた。「春樹、帰ろ!」と、いつも笑顔で駆けてくる九条は今日はいない。たったそれだけのことなのに、頭がモヤモヤして胸がチクチクする。それを振り払うように、イヤフォンを耳につけて音楽を再生した。
*****
1月20日、共通テストの自己採点の日。18日と19日の共通テストを受けた生徒は、登校して自己採点をしなければならない。俺は共通テストを受けていないので登校しなくてもいいんだけど、健吾・永嗣と昼にラーメンを食べに行く約束をしたので、そのためにわざわざ学校にきた。
図書室にて、月末にある卒業テストに向けて勉強中…のはずが、集中力が切れて机に突っ伏してしまっている。隣に座る九条が、数学のノートに変なラクガキをして笑わせてくる。ムキムキマッチョな猫がパワーポーズをしてヤー!と叫んでいる。普段ならおもしろくもなんともないのに、図書室の静かな空間の中ではなぜか笑いがこみ上げてくる。笑ってはいけないと思うと余計におかしくて、口をおさえて笑うのを必死に我慢する。そのうち、ブッフォ…と九条がふきだしてしまい、それを合図に俺もブフーと声をだしてしまった。カウンターで作業していた司書の先生に睨まれたので、慌てて片付けてそそくさと図書室を出た。
廊下の窓からグラウンドをみると、昨夜チラチラと降った雪が少しだけ積もっている。「雪だるまつくろ~」と九条が歌い始め、俺の手を引いてパタパタと廊下を走る。教室から顔を出した教師にうるさいぞ~と注意され、ゆっくりと歩く。その教師が教室に引っ込んだのを見計らって再び廊下を走る。いつの間にか九条との競走になっていて、生徒玄関の下駄箱まで全速力で走った。
「イェーイ!俺の勝ち!」
下駄箱に先にタッチしたのは九条だった。
「えぇー…なんでそんな速い…全然息もきれてないし…」
肩で息をする俺とニッと余裕の笑みを浮かべる九条。
「運動神経いいんだよね。自慢じゃないけど、運動神経いいんだよね」
「二回言った。うざっ」
そういえば、体育祭の時リレーでアンカーしてたっけ。
下駄箱で靴を履き替えて外に出た。学校のグラウンドで雪だるまなんか作ったらまた教師に怒られてめんどくさい。俺たちは近くにある公園広場に行くことにした。
学校の西側にある公園広場は遊具ゾーンと芝生ゾーンに分かれている。学校のグラウンドと同じくらいの広さだ。俺たちが着いた時にはまだ誰も足を踏み入れておらず、九条と顔を見合わせてニヨニヨ笑いながら「わーっ!」と駆け回った。白銀の世界にたくさんの足跡がついていく。振り返り自分がつけた足跡をみてなぞの達成感に満たされる。
芝生ゾーンで雪の上にダイブしてころころ転がっている九条。黒のダウンジャケットに雪がちらほら付着している。俺は遊具ゾーンにいって、遊具の上に積もっている雪を集めて雪玉を作った。大の字に寝転がっている九条の顔面めがけて雪玉を投げつけた。雪玉は顔面に命中し「つめたっ!」と九条が驚いて上半身を起こした。九条からの反撃に備えて腕でガードしていたが、反撃してこないので恐る恐る九条の方をみると、こっちにおいでと手招きしていた。警戒しながら九条の元へいく。
「春樹~足に力が入んないよ~起こして~」
「はぁ? ったく、なにしてんだよ」
伸ばされた手を握り引っ張ろうとしたら逆に引っ張られて、バランスを崩して九条の身体の上に倒れた。九条は「ぐへっ」とつぶれたカエルのような悲鳴をあげた。
「ふはっ! カエルいた」
「ヴェェー」
「それヤギじゃね?」
「あ、そっか」
立ち上がろうとしたが後頭部と背中に手を回されてがっちりホールドされている。俺は九条の肩口に顔をうめている状態で身動きができない。
「春樹いい匂いするね」
俺の髪に鼻を押し当てて匂いを嗅いでいる。息が耳にあたってくすぐったい。
「ちょ…やめろって」
身じろぎしていたらすぐに解放された。二人でゆっくりと立ち上がる。
「へへっ、春樹はかわいいなぁ~」
またあのふにゃデレ顔で俺をみつめる。怒るつもりだったのに九条といると毒気を抜かれる。
「お前、ほんと俺のことすきだよな?」
冗談のつもりだったのに、みるみるうちに九条の顔が赤くなり下を向いてしまった。
(え…?なにこの反応?!ガチでおれのことすきなの?!)
俺もつられて顔が熱くなる。
「……きだよ」
蚊の鳴くような小さな声が震えている。九条は顔を上げて真っ赤な顔で俺をみる。
「すきだよ、春樹のこと……」
いつもよりも低い声が、しんと静まり返った真っ白な世界に消えていく。しんしんと雪が降り始め、九条のオレンジ髪に触れてはすぐに溶けていく。さっき雪を触った手は氷のように冷たくなって感覚がない。その手を九条が優しく握ってくれる。
「……そろそろいこっか。健吾たちがまってるよ」
九条の手は俺のよりも少しだけあたたかかった。



