1月9日、午前中はLHR、国語、数学の授業。授業といってもほぼ自習。午後からは体育の授業がある。

 「体育なにすんだろうね?」

 「サッカーじゃね?」

午前の授業をおえて待ちに待った昼食の時間。俺の前の席に座る永嗣が弁当を取り出して後ろを向いた。俺も朝コンビニで買ったパン2個とおにぎり1個を机の上に置く。

 「晴れてるし、外いかない?」

弁当を手にしてやってきた健吾が窓の外に視線を遣る。確かに、今日は風もなく穏やかな日差しが雲間から伸びている。

 「おーいく?」

 永嗣に尋ねると頷いてくれたので3人連れ立って教室を出た。天気がいい日は外で昼食を摂る。俺が弁当の匂いが充満した教室が苦手だから、2人が気を遣って外に連れ出してくれる。苦手といっても吐くほどではない。少し気分がわるくなるだけ。

 「春樹!俺も一緒に食べていい?」

教室を出たところで、弁当を持った九条がまたもや犬みたいに寄ってきた。なんで廊下で待機してるんだろう。

 「俺は全然いいけど…」

2人の顔をうかがうと、快く了承してくれたので4人で中庭に向かう。中庭には木が何本か植っていて中央に立派な花壇がある。花壇は校長が丹精込めて手入れをしていて、いつも色とりどりの花が咲いている。その周りを囲むようにベンチが設置してあり、俺と九条、健吾と永嗣に分かれてベンチに座った。

 「あ、変わってる」

季節ごとに変わる花を、永嗣は毎回スマホで写真を撮っている。今日も昼食を後回しにしてスマホをかまえていろんな角度から花を撮る。写真を撮るのが好きで、日常の風景や俺や健吾やクラスメイトの何気ない姿をスマホに収めている。

 「こっちはパンジーだよね?そっちは何の花?」

 「これはスミレかな」

 「へぇ〜かわいい」

 「ちなみに、花びらが大きいのがパンジーで小さいのがビオラね」

 「え、全部パンジーだと思ってた!」

 花の話をする永嗣と健吾。花に全く興味がない俺は2人の和やかな雰囲気にあくびをこぼしながらパンの袋を開けた。

 「春樹っていつも菓子パンと惣菜パンを1個ずつ食べてるね」

 焼きそばパンを一口頬張ったところで、隣に座る九条が話しかけてきた。九条はきれいに巻かれた卵焼きを口に運んでいる。たぶんこれは砂糖が入った甘い卵焼きだ。

 「甘いもの食べると辛いもの食べたくなるだろ?パン2個食べたら米が食べたくなるじゃん。だから菓子パンと惣菜パンとおにぎりを買っちゃうんだよね、毎回」

 「なるほど。弁当は買わないの?弁当だったらいろんなおかずが入ってるよ」

 「弁当は親が作ってくれた時に食べるからさ。買って食べようと思わない」

 「ああ、なんかわかるかも」

 九条と話しながら焼きそばパンを食べ終えた頃、隣のベンチから盛り上がっている健吾の声が響いた。

 「ねぇ、知ってた?!パンジーもビオラも、スミレ科スミレ属の花なんだって!スミレじゃないのに!ややこしい!」

 たぶん永嗣から教えてもらった知識を、嬉々として興奮しながら俺たちに伝えてきた。九条の上をいくマイペース人間で、普段はおじいちゃんみたいに落ちついていてあまり焦ることのない健吾。たまに子どもみたいに興奮している姿をみるとおもしろい。

 「まだ花の話してんのかよ」

 「だってさ、ここからここまで全部スミレ科スミレ属なんだよ!おかしくない?!」

 健吾の隣で永嗣がクスクス笑っている。

 「それ言ったら、ライオンもトラもネコ科だし、スイカやメロンもウリ科だろ」

 「あ、そうか…」

 「命名法のルールって複雑でよくわかんないよね」

 永嗣の発言でこの話題は終わったと思ったら九条がワンテンポ遅れてケラケラ笑い始めた。

 「え?今かよ!笑うとこあった?」

 「…っ、なんかね、3人のやりとりがおもしろい…あと、春樹がツッコミで忙しそうだなって」

 「春樹はね、元々ツッコミの人じゃなかったんだけど俺たちの中にツッコミがいないから仕方なくツッコミ担当してくれてるよね」

 「や、べつにツッコまなくても会話は成り立つんだけどツッコまずにはいられないんだよ。この2人の空気感がふわふわしてるから」

 健吾と永嗣は顔を見合わせて「そうかな?」「まぁ、ゆっくりではあるよね」「話すスピードが?」と2人の世界に入ってしまった。

 「いいなぁ〜俺も春樹にツッコまれたい」

 メロンパンの袋を開けていると、九条が期待の眼差しを向けてきた。メロンパンを頬張り、九条の次の発言を待つ。二口目、三口目とメロンパンを食べすすめるが、九条はずっとキラキラした目で俺をみつめるだけ。

 「…なんかしゃべってくれないとツッコミようがないんだけど」

 わはっと無邪気な笑顔を浮かべる九条。

 「ね、今ツッコんだ!ツッコんだよね!やったー!俺の勝ち!」

 「今のはツッコミじゃないでしょ!あと、勝ち負けとかないから」

 「あ、またツッコんだ!」

 「バカにしてる?」

 内容がない俺たちの会話に健吾と永嗣が笑っていて、九条もつられて笑うから、俺も連鎖反応で笑ってしまった。