出会いは、数週間前に遡る。
朝、騒がしいクラスの端。隣の席の友人が休みのため話し相手もいなかった俺は、スマホで特段面白くもないが何故かハマってしまったゲームに勤しんでいた。
突然後ろから聞こえたのは、数人の女子があげた小さく黄色い声。微かなそれに、話が盛り上がりでもしたのだろうと視線を落としたまま画面に向き合う。
ふと、影が落ちる。前に誰かが立っているらしかった。顔を上げれば──何故かイケメンが俺を見下ろしていた。顔を酷く顰めて。
「……暗い。暗すぎ。ありえねえ」
「え」
いきなり失礼な人が来た。なんなんだ。なんですか貴方、と不満をあらわにすることもできず、周りから刺さる視線を肌に感じながら。──困惑でいっぱいになったままその顔を見つめた。
「お前、名前は」
「え……? 竹井……です……」
聞いておきながら、ふうんと興味なさげに相槌を打つ。そしてびしりと、すらりとした人差し指を突きつけて。
「竹井。今日から俺がお前の人生を楽しくしてやる。よかったな」
なんて?
回想終わり。今思い出しても意味がわからない。なにがよかったって言うんだ。
そこからやたらと事ある毎に、気がつけばこの男が隣にいて。いつしかこうして共に帰ることも日課になってしまった。孤独が好きなタイプとかでもないから、話し相手がいるのは普通に嬉しいけれど。
「……あのさ、早川くん」
「名前で呼べよ。呼び捨てな」
「……、潤。なんで俺に──」
構うの、と聞く前に、唇が開かれる。
「だってお前、めちゃくちゃ暗いじゃん。俺が隣にいれば人生楽しくなるだろ?」
「なんで?」
反射的に返していた。俺が暗いのは否定できないが──彼自身にあまりにも根拠の無い自信がありすぎて、不躾な言い方になってしまったがそこは許して欲しい。
それでなんでこの男はこんなに不思議そうな顔ができるんだ。当然の道理だろう、何を言っているんだというようなぽかんとした顔。お互い首を傾げて、特に言及することもなく足を進めた。なんだったんだ今の時間。
「お前、好きなこととかねーの?」
「……好きなこと……?」
ゲームとかは、好きだけど。こういう陽キャが好みそうなやつではないし。陰キャは趣味を相手に言うのもそう容易ではないのだ。こう、相手が引かないような、返答に困らないような。ちょうど良いラインの答えを見極めるのが──
「趣味も無いのかよ。じゃあ俺とバスケやろうぜ」
「え、やだ」
普通に嫌だ。運動したくない。眉根を寄せる。潤はそんな俺にも構わず、矢継ぎ早に言葉を続けた。
「じゃあ好きな物は? どっか行きたいとこは?」
押し寄せる質問に頭が痛くなった。
「……なんでそんな聞いてくんの?」
「人生楽しくしてやるって言ったろうが。だったら好きなことやる方が早いだろ? 俺と」
なんで一緒にやる前提なんだ。どこまでもついてくるつもりか、この男は。
なんだか、家までの道がいつもより遠く感じる。
ため息を堪えていると、隣で彼がまた口を開いた。
「お前さあ、なんかこの世の不幸全部背負ってますみたいな顔してんの」
朝、騒がしいクラスの端。隣の席の友人が休みのため話し相手もいなかった俺は、スマホで特段面白くもないが何故かハマってしまったゲームに勤しんでいた。
突然後ろから聞こえたのは、数人の女子があげた小さく黄色い声。微かなそれに、話が盛り上がりでもしたのだろうと視線を落としたまま画面に向き合う。
ふと、影が落ちる。前に誰かが立っているらしかった。顔を上げれば──何故かイケメンが俺を見下ろしていた。顔を酷く顰めて。
「……暗い。暗すぎ。ありえねえ」
「え」
いきなり失礼な人が来た。なんなんだ。なんですか貴方、と不満をあらわにすることもできず、周りから刺さる視線を肌に感じながら。──困惑でいっぱいになったままその顔を見つめた。
「お前、名前は」
「え……? 竹井……です……」
聞いておきながら、ふうんと興味なさげに相槌を打つ。そしてびしりと、すらりとした人差し指を突きつけて。
「竹井。今日から俺がお前の人生を楽しくしてやる。よかったな」
なんて?
回想終わり。今思い出しても意味がわからない。なにがよかったって言うんだ。
そこからやたらと事ある毎に、気がつけばこの男が隣にいて。いつしかこうして共に帰ることも日課になってしまった。孤独が好きなタイプとかでもないから、話し相手がいるのは普通に嬉しいけれど。
「……あのさ、早川くん」
「名前で呼べよ。呼び捨てな」
「……、潤。なんで俺に──」
構うの、と聞く前に、唇が開かれる。
「だってお前、めちゃくちゃ暗いじゃん。俺が隣にいれば人生楽しくなるだろ?」
「なんで?」
反射的に返していた。俺が暗いのは否定できないが──彼自身にあまりにも根拠の無い自信がありすぎて、不躾な言い方になってしまったがそこは許して欲しい。
それでなんでこの男はこんなに不思議そうな顔ができるんだ。当然の道理だろう、何を言っているんだというようなぽかんとした顔。お互い首を傾げて、特に言及することもなく足を進めた。なんだったんだ今の時間。
「お前、好きなこととかねーの?」
「……好きなこと……?」
ゲームとかは、好きだけど。こういう陽キャが好みそうなやつではないし。陰キャは趣味を相手に言うのもそう容易ではないのだ。こう、相手が引かないような、返答に困らないような。ちょうど良いラインの答えを見極めるのが──
「趣味も無いのかよ。じゃあ俺とバスケやろうぜ」
「え、やだ」
普通に嫌だ。運動したくない。眉根を寄せる。潤はそんな俺にも構わず、矢継ぎ早に言葉を続けた。
「じゃあ好きな物は? どっか行きたいとこは?」
押し寄せる質問に頭が痛くなった。
「……なんでそんな聞いてくんの?」
「人生楽しくしてやるって言ったろうが。だったら好きなことやる方が早いだろ? 俺と」
なんで一緒にやる前提なんだ。どこまでもついてくるつもりか、この男は。
なんだか、家までの道がいつもより遠く感じる。
ため息を堪えていると、隣で彼がまた口を開いた。
「お前さあ、なんかこの世の不幸全部背負ってますみたいな顔してんの」
