整った顔をしかめるその男に、向き直る。

「……で。もう、俺に構うのやめるの?」

「っは……なんで?」

 慌てたように立ち上がる。その表情には驚愕が浮かんでいた。

「いや、なんでって。潤の目的はもう果たしたじゃん」

 今度は嘘なんかじゃない。

「心の底から言える。潤といると、楽しい。人生変えられたよ──本当にな」

 じんわりと暖かくなる胸の中。どこか口惜しいと思ってしまうのは、やかましくて愛おしい友人と離れることを躊躇してしまうから。だけれど、もともとそういう目的あっての関係なのだ。俺の隣なんかに居る理由は、単なる恩返しで。人生を楽しくするためだけだから。
 俺はいつも通りぱっとしない生活に戻って、潤は華々しい高校生活に戻る。たまに顔を合わせたら会話はするかもしれないけれど、それだけ。
 本音を言えば、悲しいけれど。

「嫌だ」

 部屋に響いた声。それは、俺の本音もでもあったが──潤の声だった。
 シーツを力強く握っている。

「俺だって、楽しかった。お前が呆れてても楽しそうにすんのが、嬉しかった……!」

 いつも飄々としている彼が、感情を顕にして。声を震わせながら、訥々と言葉を繋げていく。……潤も、惜しいと思ってくれていたのか。俺といても、つまらないだろうとばかり思っていたのに。
 目の前がじわりと滲む。ああ、もう。なんだ。弱っているせいで涙腺が脆くなっているのかもしれない。

 それに。

 そう言ってから数秒、間を置いて。俺の顔をじっと見つめて、息を大きく吸ってから、また口を開いた。

「俺、お前のこと……好き、だから。……離れたくねえ」

「……え?」

 今なんて?
 だいぶ自分は混乱しているのかもしれない。聞き返せば、観念したように潤は眉を吊り上げて、真っ赤な顔のまま叫ぶ。

「だから、達也のことが好きだっつの!!」

 好き? 潤が? ……俺なんかを? 恋愛的な意味で?
 頭の中を疑問符が何個も巡っていく。ぐるぐると回るそれは、とうとう溢れてキャパオーバーした。

 意識が遠くなっていく。……潤の焦ったような声が遠くに聞こえる。デジャブだ。
 どうしよう。一番困惑してしまうのは──その告白を嬉しいと思っている俺自身に。

『人生楽しくしてやる。よかったな』

 ああもう、本当。人生変えられてるよ、畜生。
 OKの返事はなんて言おう。呆然とする意識の中、どこか現実逃避のようにそんなことを考えていた。