「……ん」

 目を開けば、そこは知らない天井というやつだった。周りを見回してみる。どうも、自分は病室にいるらしい。起き上がろうとすれば、腹が痛んだ。そうか、刺されたのだった。

 どこか現実味のないままナースコールを押せば、お医者さんと共に看護師さんが数人ほど来て。簡単な問診とともに数週間入院となることを伝えられた。まあ、そりゃそうか。
 それとなく犯人がどうなったかを聞けば、あの後あっけなく捕まったらしい。他の動物や人を傷つけることもなく、挙動不審な様を怪しまれて通報されたようだ。ざまあみろだ。


 移された病室の窓から外を眺める。両親も様子を見に来てくれたが、安心したようで泣かれてしまった。だけど他人を庇って刺されるなんて、なんだかちょっとだけヒーローにでもなった気分だ。鼻が高く思った直後、ああ、と息をついた。
 潤は、どうしているだろう。
 友人が自分の代わりに刺された。そんなの、気分は良くないに決まっているだろう。そう思うと、自慢げになった自分が恥ずかしい。
 せめて、あまり引きずっていないといいのだが──あの自信満々な友人の顔を思い浮かべていれば、がらりと病室のドアが開く音がした。

 そちらを見れば、立っていたのは──まさに、思い描いていた人物だった。目を大きく見開いて、よろよろとした足取りでこちらへ近寄ってくる。

「……いつも通りの、ぱっとしねえ顔だ……」

「会って早々にそれかよ」

 馬鹿にしてんのか。刺されて少ししたくらいで顔つきが変わるわけないだろ。

 開口一番の罵倒。憂慮はどこかへ行って、僅かな苛立ちが芽生える。しかしそれも──

「生きてる、本当に……」

 隣でへたりこんで、静かに涙を流すその姿を見たら。文句なんて、言えなくなってしまった。
 泣くんだ。俺なんかの、ために。なんだか、胸が切なくなる。申し訳なさだろうか。だけれど──嬉しいと思ってしまう俺は、酷いやつだ。

 嗚咽が小さくなってきた頃。いつもよりも小さく見えるその姿に、声をかける。

「……潤は、怪我なかった?」

「……ない」

 そうか。

「なら、良かった」

 言えば、少しだけ不服そうな表情を浮かべて。

「……ほんとお前、あほ。ばか。お人好し」

 やっぱ失礼だった。