自分の前世のことを思い出したのは、幼馴染がエセ関西弁を喋り始めたことがキッカケだった。

「え、今なんて言ったの?」

「せやから、知り合いから映画のチケットもらったゆうてんねん。二枚あるから一緒に行かないかーって」

何回言わせるねんアホ、と軽快なツッコミを繰り広げるのは、幼馴染こと、福島京平__彼は生まれも育ちも横浜のれっきとしたはまっ子である。

「どうしたの、その言葉遣い……」

「あぁ、コレ? 勉強したねん。春休みつこうてな」

どや?と、京平がしたり顔でこちらを見つめる。

「そんな、アメリカ英語のアクセントが嫌だから、イギリス英語勉強しましたみたいなノリで言われても困るよ……!」

そんな長尺のツッコミをした折、私は全てを思い出した。

この世界が、乙女ゲームの世界であること、そして、私が、前世で通り魔に合い、無惨な死を遂げたこと。

私、どうして今まで忘れていたんだろう。

ここは前世の私が夢中になってプレイしていた乙女ゲーム、ドキドキ♡メモライズの世界だ。

ドキドキ♡メモライズとは、20××年、アオナミから発売された界隈では異色の乙女ゲームだ。

何が異色かというと、プレイヤーが選ぶ選択肢によっては、主人公や攻略キャラが事件に巻き込まれ死んでしまうこと。

何を隠そうこのゲーム、企画に有名なミステリー作家が一枚噛んでおり、主人公、青井波が様々な事件に巻き込まれながらも、恋に部活に勉強に、高校生活を満喫するという、一風変わったストーリーになっていた。

キャッチコピーは、「恋に事件にドキドキしよう」

今聞くと、もはやネタのように感じてしまうこの決まり文句も、会社と家の往復で、変わり映えのない人生を送っていた私にとっては、その振り切りの良さが刺激的で、帰宅すると夢中になって、ゲーム画面を開いたものだった。

と、まぁここまではよくある転生物語だ。

なぜ私がこうも落ち着いていられるかと言うと、前世では、乙女ゲーマーであるとともに、無類の本読みでもあったから。

なかでも、現実世界で不幸な死を遂げた主人公が乙女ゲームの主人公に転生してチートモードと言う作品を好んで嗜んでいた。

しかし、困った。

これはいわゆる普通の転生物語ではない。

なぜなら、私には一周目の記憶があるから。

そう、私はすでに一度、このゲームの主人公、青井波として、高校生活を終えたはずだった。

それなのに、これは__

「おい、波、さっきからぼぉーとして、どないしたんねん?」

京平が不思議そうに私の顔を覗く。

「ねぇ、京平。今日って、何年何月何日?」

「はぁ? 2002年 4月1日、入学式なんやからそれ以外ないやろ。熱でもあるんちゃうか?」

「……」

時間軸が見事に私が花羽高校に入学した年月に戻っている。

どうしてこんなことに。

一つ思い浮かぶ節があるとするなら……


「わ、」

思わず伸びてきた京平の手を振り払う。

「なんや、傷つくやんけ」

「ごめん、つい」

__私が一度目の人生で、誰とも結ばれることなく、友情エンドで終わったことだ。

もしかして、それがループしている原因だとしたら……

これって、誰かとラブラブになる正規ルートに入らない限り、何度でもループするってコト?!?!

【訃報】前世で、恋人いない=年齢を極めていた私、この世界で永遠に高校生活を繰り返すハメになりそうです。