【推理/お呪いの真実】


 中葉さんがタブレットを、右手の指先で操作する。
 そういえば、と気づく。
 先ほどから、中葉さんは左手をテーブルの下に置いたままだ。

「あるツテを使って、2018年6月におこなわれた〈はたえの会〉の集会動画のデータです」


 ギョッとなったのは前島さんもだった。

「おまえ……中葉! そんなものどうやって手に入れたんだ」
「苦労……しましたよ」

 へへっと中葉さんは軽く笑い、タブレットで動画ファイルを開く。

「音が出ます。イヤホンどうぞ」
「俺が先に聞く。いいか?」

 前島さんの剣呑さに「はい」と了承する。

 短い動画のようだ。
 けれど前島さんの顔色は、見る見る変わった。

「これは……」

 前島さんがうなる。

「次、どうぞ」

 中葉さんがタブレットを渡してきた。
 自前のワイヤレスイヤホンのBluetoothをつないで、再生をタップした。


『――再生』

 唐突に、厳かな声が耳を刺した。
 『再生』違いだとすぐわかった。

 映像に映っているのは、どこかの会館の講堂だ。
 学校の講堂のように、舞台が設えてあり、パイプ椅子が並べてある。
 壇上には〈はたえの会〉の横断幕がぶら下がっている。

 かなりの人数が集まっており、百人は下らないだろう。
 皆、一様に白い服を着ている。

 そういえば、と思い出す。

 未編集テープによると、堤よう子さんの服装は白いスーツ。
 なつ子さんもそれまでは黒い服……白プードルのピピちゃんの毛が目立つ着古したものを着ていたのに、小綺麗な白いアンサンブルを着ていた。
 あれは、幹部である堤さんに面会するから、だったのだろうか。

 舞台の上、演壇に手をつく女性が信者たちを見下ろしていた。
 アングルが遠いので、堤さんかどうかは判別できない。

『先日お伝えしたとおり、わたしたちのてて様の生命が尽きようとしています』

 会場に嗚咽が響く。

『けれどわたしたち家族には、まだてて様のご指導ご鞭撻、ぬくもりが必要です』

 そうだ!
 そうだ!
 同意の声。

『ゆえにわたしたちは――てて様に〈再生〉していただかないといけません』

 そのとおり! そのとおり!
 賛成の声。


『〈再生〉……キリスト教では「復活」という意味合いになりますが、わたしたちは宗教者ではありません。
 何よりてて様の生命は、とぎれてなどいません。
 まだわたしたち家族のために、てて様は懸命に生きようとなさっているのです』

 また嗚咽。


 『復活』も『再生』も、衰えていたもの・滅びかけていたものが生き返るという意味だ。
 その違いは、前者は『いちど途切れたもの』に、後者は『とぎれかけたもの』に使うところだ。
 番組名の『再生P!』もそこから来たのだろう。
 機能不全で崩壊しかかっていても、まだかろうじて残っている家族の絆を結びなおす……そんな意図が込められていたのかもしれない。


『慈愛深いてて様に、わたしたちは何ができるでしょうか。
 何をすべきでしょうか』

 ――――――集めます!

 女性の問いかけに野太い声が答えた。

 集めます!
 てて様の生命がもっと続くように! ずっと生きてくださるように!
 集めます!

 ――――――生命力を!


 ……その答えに、女性は満足そうな吐息をもらした。

 『これが家族の絆なのですね。なんと尊い』

 女性は左手に持った薄い封筒を掲げた。
 当たり前のように、薬指の爪が剥がれていた。

 『みなさまに、こちらをお渡しします。みなさまもご存知の、てて様が信頼する占い師の方に作っていただいた特製の品です』

 それは何ですか。
 誰かが尋ねた。

 女性は封筒から一枚の細長い紙を取り出す。
 一筆箋ほどの大きさの薄い紙。
 太陽と人間を模したマークと、くずし文字が書かれてある。
 果たして何人がマークと文字の意味を理解しただろうか。

 『てて様にささげる生命力を、効率よく集めるためのものですよ』