【テレビ番組:『再生P!』の未編集テープ⑩】
後日、NPO法人『TOE』の事務所で面談する約束を交わして、堤さんは九重家を後にした。
番組スタッフも撤収しようとしたが、前島さんが粋な提案をした。
「せっかくだし、かず彦くんの部屋を片づけていってもいいかい?」
「新しい門出、祈らせてよ」
後藤さんが『祝わせて』ではなく『祈らせて』を選んだのは、さち乃さんを亡くしたご遺族への配慮だろう。
中葉さんも反対するはずがなかった。
かず彦さんは「お願いします」と頭を下げた。なつ子さんもしばらく考える素振りを見せた後、同じようにした。
襖を取り外し、窓を開けて換気する。
窓のサッシには埃がこびりつき、なかなか開かなかった。
ちゃぶ台代わりに使っていた段ボール箱を撤去すると、食べカスが散らばった。
飲み物をこぼしたまま放置し、シミだらけのマットを剥がすと、畳も変色していた。
ほとんど衣服がカビ臭かったので、一度まるごと洗濯する。
カーテンは結露でカビが生えていたので廃棄。
かず彦さんも、最初はやはり何をしていいかわからず居心地が悪そうにしていたが、後藤さんの指示に従って手を動かした。
本来はとても素直な性格なのだろう、と中葉さんは思った。
「うわぁ、これスゴイね」
後藤さんが声を上げた。
かず彦さんの万年床を指差し、マスクを付け直した。
「ちょっとめくったんだけど、やばいよ。覚悟しなよ」
万年床は、6月頭になつ子さんが新品に換えたそうなので、表側はそこまで汚れていなかった。あくまで他と比べると、だが。
しかしベロリとめくると、敷き布団の薄く模様が入った真っ白な裏側と、黒カビや青カビで腐っている畳があらわになった。
人間は寝ている間、コップ一杯分の汗をかいている。
だから寝具は風通しをよくして湿気対策をしなければならない……という教えの手本のような状況だ。
「かず彦くん、よくこんな布団で寝られたなぁ」
前島さんに冗談まじりに言われ、かず彦さんが小さくなった。
「いやでも、逆に根性があるってことかもな。ははっ」
豪快に笑い飛ばされ、骨が浮き出た背中を軽く叩かれると、かず彦さんも吹き出した。
初めて見る彼の笑顔だった。
夕方になり、作業が終わった。
かず彦さんの部屋は、見違えるように綺麗になった。
なつ子さんもかず彦さんも、信じられないとでも言うような、不思議そうな面持ちで住処を見回した。
再スタートにふさわしい家になった、と中葉さんは自負していた。
「本当に、ありがとうございました……!」
車に乗り込んだスタッフに、なつ子さんとかず彦さんは幾度も頭を下げた。
ピピちゃんはなつ子さんの腕の中で、ぐっすりと眠っている。
「まだ再生……できるかもしれません……!」
なつ子さんが希望にあふれた声で言った。
かず彦さんは中葉さんを見つめ、強い視線で感謝を伝えていた。
こうして、約1ヶ月にわたる撮影は終了した。
最後まで観れば、まさに『再生P!』のコンセプトにふさわしい内容ではあったが、未成年の自殺が起こったことを踏まえて、前島さんはお蔵入りを決めた。
中葉さんたちも納得した。
ただ、九重家の行く末が少しでも良いものでありますように胸中で祈ったという。
後日、NPO法人『TOE』の事務所で面談する約束を交わして、堤さんは九重家を後にした。
番組スタッフも撤収しようとしたが、前島さんが粋な提案をした。
「せっかくだし、かず彦くんの部屋を片づけていってもいいかい?」
「新しい門出、祈らせてよ」
後藤さんが『祝わせて』ではなく『祈らせて』を選んだのは、さち乃さんを亡くしたご遺族への配慮だろう。
中葉さんも反対するはずがなかった。
かず彦さんは「お願いします」と頭を下げた。なつ子さんもしばらく考える素振りを見せた後、同じようにした。
襖を取り外し、窓を開けて換気する。
窓のサッシには埃がこびりつき、なかなか開かなかった。
ちゃぶ台代わりに使っていた段ボール箱を撤去すると、食べカスが散らばった。
飲み物をこぼしたまま放置し、シミだらけのマットを剥がすと、畳も変色していた。
ほとんど衣服がカビ臭かったので、一度まるごと洗濯する。
カーテンは結露でカビが生えていたので廃棄。
かず彦さんも、最初はやはり何をしていいかわからず居心地が悪そうにしていたが、後藤さんの指示に従って手を動かした。
本来はとても素直な性格なのだろう、と中葉さんは思った。
「うわぁ、これスゴイね」
後藤さんが声を上げた。
かず彦さんの万年床を指差し、マスクを付け直した。
「ちょっとめくったんだけど、やばいよ。覚悟しなよ」
万年床は、6月頭になつ子さんが新品に換えたそうなので、表側はそこまで汚れていなかった。あくまで他と比べると、だが。
しかしベロリとめくると、敷き布団の薄く模様が入った真っ白な裏側と、黒カビや青カビで腐っている畳があらわになった。
人間は寝ている間、コップ一杯分の汗をかいている。
だから寝具は風通しをよくして湿気対策をしなければならない……という教えの手本のような状況だ。
「かず彦くん、よくこんな布団で寝られたなぁ」
前島さんに冗談まじりに言われ、かず彦さんが小さくなった。
「いやでも、逆に根性があるってことかもな。ははっ」
豪快に笑い飛ばされ、骨が浮き出た背中を軽く叩かれると、かず彦さんも吹き出した。
初めて見る彼の笑顔だった。
夕方になり、作業が終わった。
かず彦さんの部屋は、見違えるように綺麗になった。
なつ子さんもかず彦さんも、信じられないとでも言うような、不思議そうな面持ちで住処を見回した。
再スタートにふさわしい家になった、と中葉さんは自負していた。
「本当に、ありがとうございました……!」
車に乗り込んだスタッフに、なつ子さんとかず彦さんは幾度も頭を下げた。
ピピちゃんはなつ子さんの腕の中で、ぐっすりと眠っている。
「まだ再生……できるかもしれません……!」
なつ子さんが希望にあふれた声で言った。
かず彦さんは中葉さんを見つめ、強い視線で感謝を伝えていた。
こうして、約1ヶ月にわたる撮影は終了した。
最後まで観れば、まさに『再生P!』のコンセプトにふさわしい内容ではあったが、未成年の自殺が起こったことを踏まえて、前島さんはお蔵入りを決めた。
中葉さんたちも納得した。
ただ、九重家の行く末が少しでも良いものでありますように胸中で祈ったという。



