【テレビ番組:『再生P!』の未編集テープ⑧】
中葉さんはかず彦さんの部屋に入った。
薄暗く、ひんやりと冷たく、だが空気がこもってカビ臭い和室。
かず彦さんが額を畳に打ちつけていた。
「やめろ、やめるんだ」
中葉さんはかず彦さんの頭と、細すぎる肩を抑えた。
あまり風呂に入っていない人間特有の、酸化した脂のにおいがしたそうだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をさらし、転んだ子どものようにかず彦さんは泣き叫んだ。
「さち乃っ……ごめん、ぼくの、ぼくのせいだ……っ」
黒ずんだ爪を、肉が削げ落ちた頬を立てる。
「ぼくがこんなだから……ゴミだから、クズだからっ……ぼくのせいでさち乃が死んだぁあああ……っ」
顔面を引っ掻こうとするのを、中葉さんが手首を押さえて止める。少し力を入れたら折れそうだったという。
「あんなに苦しんでいたのに。出ていく前に、『痛い』って叫んでいたのに……心配だったけど、怖くて様子も見にいけなかった……」
かず彦さんはギリギリと歯軋りをし、涎と共に「死ぬべきなのはぼくなのに」とこぼした。
「ぼくが死ねばよかったんだ……ぼくも、死にたい……死にたいぃいいい……っ」
中葉さんは反射的に否定した。
「そんなこと言うなよ。母親の前で、そんなこと言ったらダメだ」
中葉さんの言葉に、かず彦さんはゆっくりと顔を上げた。
腫れぼったい瞳を、母親の方に向ける。
「かずくん……」
涙に濡れた顔を、親子は見合わせる。
しばし無言で見つめ合った。
やがてかず彦さんの全身から力が抜けて、「ごめん……お母さん、ごめん……」とうずくまって謝り出した。
かず彦さんの、妹と母親への謝罪は長く続いた。
その間、中葉さんたち番組スタッフはずっと傍についていた。
普段ならば、こんなカウンセラーや福祉士めいたことはしない。
けれどどうしても放っておけなかったと、前島さんも後藤さんも後ほど吐露したらしい。
番組スタッフは撤収したのは、夜が深まる頃だった。
その日から1週間後の、6月27日(水曜日)。
最初の予定では、撮影最終日になるはずだったその日、なつ子さんに連絡を取った。
その後の様子を伺うためと、撮影を続けるか、番組の制作をどうするか九重家の意向を聞くためだった。
前島さんはお蔵入りを覚悟していたが、なつ子さんの返事は、予想外のものだった。
「どうぞ来てください」
驚いたが、なつこさんが望むなら最後まで付き合おうと前島さんは考えたそうで、番組スタッフは再び九重家を訪れた。
そこには先客がいた。
堤さんという女性だった。
中葉さんはかず彦さんの部屋に入った。
薄暗く、ひんやりと冷たく、だが空気がこもってカビ臭い和室。
かず彦さんが額を畳に打ちつけていた。
「やめろ、やめるんだ」
中葉さんはかず彦さんの頭と、細すぎる肩を抑えた。
あまり風呂に入っていない人間特有の、酸化した脂のにおいがしたそうだ。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をさらし、転んだ子どものようにかず彦さんは泣き叫んだ。
「さち乃っ……ごめん、ぼくの、ぼくのせいだ……っ」
黒ずんだ爪を、肉が削げ落ちた頬を立てる。
「ぼくがこんなだから……ゴミだから、クズだからっ……ぼくのせいでさち乃が死んだぁあああ……っ」
顔面を引っ掻こうとするのを、中葉さんが手首を押さえて止める。少し力を入れたら折れそうだったという。
「あんなに苦しんでいたのに。出ていく前に、『痛い』って叫んでいたのに……心配だったけど、怖くて様子も見にいけなかった……」
かず彦さんはギリギリと歯軋りをし、涎と共に「死ぬべきなのはぼくなのに」とこぼした。
「ぼくが死ねばよかったんだ……ぼくも、死にたい……死にたいぃいいい……っ」
中葉さんは反射的に否定した。
「そんなこと言うなよ。母親の前で、そんなこと言ったらダメだ」
中葉さんの言葉に、かず彦さんはゆっくりと顔を上げた。
腫れぼったい瞳を、母親の方に向ける。
「かずくん……」
涙に濡れた顔を、親子は見合わせる。
しばし無言で見つめ合った。
やがてかず彦さんの全身から力が抜けて、「ごめん……お母さん、ごめん……」とうずくまって謝り出した。
かず彦さんの、妹と母親への謝罪は長く続いた。
その間、中葉さんたち番組スタッフはずっと傍についていた。
普段ならば、こんなカウンセラーや福祉士めいたことはしない。
けれどどうしても放っておけなかったと、前島さんも後藤さんも後ほど吐露したらしい。
番組スタッフは撤収したのは、夜が深まる頃だった。
その日から1週間後の、6月27日(水曜日)。
最初の予定では、撮影最終日になるはずだったその日、なつ子さんに連絡を取った。
その後の様子を伺うためと、撮影を続けるか、番組の制作をどうするか九重家の意向を聞くためだった。
前島さんはお蔵入りを覚悟していたが、なつ子さんの返事は、予想外のものだった。
「どうぞ来てください」
驚いたが、なつこさんが望むなら最後まで付き合おうと前島さんは考えたそうで、番組スタッフは再び九重家を訪れた。
そこには先客がいた。
堤さんという女性だった。



